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めるまがアゴラちゃんねる、第091号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(102)
見えない任天堂の復活
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(102)
見えない任天堂の復活
5月7日に、任天堂の決算が発表になった。売上は5717億円に対し、営業赤字は464億円。前期には1000億円の営業黒字を目標にしながら大幅な下方修正をおこなわなければならないほど深刻な状態だった。特に、家庭用ゲーム機「WiiU」の販売状況の悪さは深刻で、昨年1年間で、272万台しか販売に成功できていない。
■WiiU、ニンテンドー3DSとも苦戦の兆しが見える
これは、昨年11月に発売が始まった、ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション4」が、すでに700万台を超える好調な販売状況で推移をしていることを考えると、いかに厳しい状況に直面しているのかがわかる。
任天堂にとっての稼ぎ頭である携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」も、1224万台に留まっている。当初計画では1800万台だった。日本国内での販売状況の好調さは相変わらずだが、日本以外での苦戦が鮮明になってきた。
日本では、「モンスターハンター4」(カプコン)が330万本以上の販売に成功しヒットするなど、相変わらずゲーム機として支持を受けているが、海外の状況は違う。「欧州を中心に苦戦」と認めているが、スマートフォンやタブレットにユーザーを取られていることは明白だ。
今期については、売上高5,900億円、営業利益400億円、経常利益350億円、当期純利益200億円を見込んでいる。3DSは1200万台、ソフトは6700万本、Wii Uは360万台、ソフトは2000万本の販売と予想をしている。「マリオカート8」(WiiU)、「スマッシュブラザーズ」(WiiU、3DS)、「ポケットモンスター」(3DS)といった大ヒットが期待できるラインアップが控えているため、それらが計画通りにヒットするならば、十分に達成可能であると考えていると思われる。
過去の実績から考えられているために、比較的手堅い予測ではあるとは言えるだろう。ただ、WiiUの値下げを行うなどの手を打ってくると思われるが、それでも、すでに過去に大幅な下方修正を行った前例があるために、額面通りに受け取れない部分がある。
ピーク時の2009年3月期には、売上が1兆8386億円、営業利益が5552億円だった。わずか5年での任天堂の凋落ぶりは、驚くべき結果と考えていいだろう。この5年間の間に、スマートフォンが登場し、世界的にゲーム機の中心は、家庭用ゲーム機からシフトし始めたが、任天堂はその環境の変化についていくことができていないのは明白だ。
■見えない任天堂が復活するための道筋
それでは任天堂の復活はあるだろうか?
私自身は短期の復活はない、と見ている。
WiiUが、今の新しいゲーム機世代で、きびしい環境に置かれている状態は、今後数年間とも、変化することはないと考えられる。WiiUへは、すでに家庭用ゲーム機会社大手は、市場創出の可能性がないと判断し、積極的な進出を止めているため、今後も慢性的なソフト不足に苦しめられる。
また、WiiUの特徴である、タブレット型コントローラーの「WiiUゲームパッド」にゲームを発売する場合には、対応が必須となるため、利益が期待できない割に、移植の手間がかかりすぎてしまう。また、WiiUのハードウェア性能は、「プレイステーション3」世代と同等のものなので、ハイエンド性能を持った、PS4やマイクロソフトのXboxOneに向けて、開発したゲームを質を下げてして発売せざる得ない。それをコアゲーマーが支持することはないだろう。
また、市場の小さなWiiUに向けてオリジナルタイトルを開発するインセンティブはゲーム会社側にはまったくないため、ゲームタイトルは今後もWiiUに集まることはないだろう。
WiiUは任天堂自身のゲームの専用ハードへと変わっていく以外に選択肢はない。
すでに、任天堂は、WiiUをファミリー層向けのハードとして、プロモーションの展開を行っているが、これは、コアゲーマーが支持し始めているPS4との唯一できる差別化の点に過ぎないためだ。家族や友達と集まってパーティゲームを遊ぶ、といった習慣はゲーム機の体験としては古くなりつつあるとも言える。
PS4などではインターネットを通じた対戦がゲームの中心となっており、また、スマートフォンは手元に常にあるゲームデバイスとしての地位を固めている。そこに任天堂のゲームが割り込むことができる余地はどんどん見えなくなってきているためだ。
■サービス事業モデルの可能性は決算から見えなかった
任天堂は、今後、クオリティオブライフ(QoL)の製品展開や、スマホ・タブレット向けに「マリオカート8」の対戦映像などを見ることができるようにするサービス展開を行うことが明らかにしているが、業績に対しての貢献の可能性は現時点では全く見えない。私自身は、任天堂がユーザーに強い訴求力を持ったサービスを作ることができるのかに対して懐疑的だ。
任天堂の弱点は、毎日任天堂のサービスを利用したくなるような事業モデルを展開できていない点にある。どこまで行ってもパッケージ販売の売り切り型モデルから脱却ができないのだ。
QoLのコンテンツ展開は、すでに一度成功させていながら、そのチャンスをみすみす逸している。07年発売で、大ヒットした「Wii Fitは専用の体重計をゲーム化するという形で成功を収め、全世界で2200万台以上の販売に成功している。
だが、任天堂はデータの管理では、月額サービスのような形で展開することはなかった。また、インターネットを通じて他のユーザーと情報を共有し合うようなソーシャルな仕組みも提供してない。
あくまで、「WiiFit」というゲームコンテンツの一つという位置づけで、ハードとソフトを販売するモデルにこだわった。「WiiFit Plus」という新しいゲームが含まれた追加ソフトも販売しているが、やはりサービス化までは行われなかった。
一方で、後発のベンチャー企業である米FitBitは、それらの弱点を補うハードの展開を進めている。高性能万歩計を販売し、世界的に成功しつつあるが、そのオリジナルの着想は「Wii」の健康関連のゲームから得ている。
最もヒットしている商品である「FitBit One」は約1万円で販売され、自分のデータはスマホと連携し、ネットでウェブサービスを通じて確認することができ、また、他のユーザーとの競い合うようなソーシャル機能も当然のように搭載している。日本ではソフトバンクが専売する形で、他社の体重計のデータとも統合して管理する仕組みを月額で提供するサービスも行われている。
やはり、売り切りではなく、サービスなのだ。特に、毎日の生活に関わるQoLではカギを握る。
この市場には、アップルが腕時計型のウェアラブルデバイス「iWatch」等で参入することが確実視されており、事実上、サービス展開としては、後発にならざる得ない任天堂が市場を奪還できるのかは、私自身は相当厳しいと考えている。
■今の任天堂らしさは成功体験の呪縛
最近の岩田聡社長の悪い習慣ともなっているのが、将来に期待させるような口ぶりをインタビューなどの発言では繰り返すが、その実が伴わないことだ。QoLについても、今後すごい物が登場すると、思わせぶりな発言を繰り返しているが、「今の任天堂らしさ」を強調すればするほど、任天堂は、今の時代に適応できる事業モデルを展開できるスピード感が欠如しているのでは、という疑いがぬぐえることはない。
これまで、Wiiや3DSで、あまりにもパッケージ販売型モデルで成功してしまったために、その呪縛に囚われてしまっている、そういう印象がぬぐえない。いくら危機的な状態にあるとしても、企業が学習してしまった成功体験をふりほどいて、そこから離れることが難しいのかを痛感している。
任天堂が、このままさらに弱い企業になっていくという未来までは想像しにくいが、今後数年間は我慢の時期が続き続けるだろう。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin