めるまがアゴラちゃんねる、第092号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(103)
ガラケー時代の雄、グリーとDeNAの決算から変化を見る
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(103)
ガラケー時代の雄、グリーとDeNAの決算から変化を見る

5月8日にグリーの決算が、9日にディー・エヌ・エー(DeNA)の決算が発表になった。2011年〜12年には、ガラケー端末向けのソーシャルゲーム市場で、バブルと呼ばれるほどの勢いを持っていたが、両企業とも、スマホシフトが進む中で、切り替えの遅れに苦しんでいる。

両企業が持つガラケー端末向けのソーシャルネットワークサービス(SNS)の利用者を拡張する形で、ゲーム事業は成長してきたわけだが、その強みを支えていたSNSが、スマホゲームの競争にシフトしたことによって、成り立たせる事が出来なくなったからだ。他社との協業タイトルの開発も続けているようだが、現実としては、自社単独のゲーム開発を行い、ヒットさせなければならないという状態にある。ソーシャルゲーム会社の雄として言われてきた、両社の実情を決算から紹介する。


■新規タイトルの投入を予定も評価は難しい

グリーの2014年6月期第3四半期(1〜3月期)の決算では、連結業績の売上高は990億2100万円(前年同期比14.1%減)、営業利益は288億8000万円(同29.3%減)、経常利益は302億5800万円(同30.8%減)、四半期純利益は145億6600万円(同36.2%減)となっている。

1〜3月期では、売上高が第2四半期の326億2000万円から今期は310億7000万円と減少したものの、営業利益は第2四半期の91億5000万円から今期は99億5000万円へと増益となっている。グリーは徹底的にコストを削り、利益を出すというところに力を入れた模様で、広告宣伝費や固定費など、合計23億5000円ほど前四半期から削減したことで、黒字化を大きく果たしている。

ただ、同社が土台としていたガラケー向けゲーム市場は急激に縮小しつつあることは、ゲーム内コインの縮小に歯止めがかからないところに明確に出ている。昨年7〜9月には334億コインの利用があったが、今年1〜3月には127億コインにまで減少している。前年度の1〜3月期のコイン消費額は550億コインだったものが、この1〜3月は442億コインに減少し、売上の7割をスマホが占める状態に変わっている。

ただ、スマホゲームの売上も、この12ヶ月横ばいから微減の状態が続いている。グリーの次の躍進を起こすタイトルが見えていないというのが実情だ。

新規タイトルは、国内では1月に「戦乱のサムライキンクダム」を1本、パズルゲームを2本リリースしたに留まっている。既存タイトルを含め、大ヒットしたと言うところまでは達していない印象が強い。

今後の3ヶ月で、大型の新作タイトルを2タイトル投入する予定だが、ヒットするかどうかは現時点では何とも言えない。

セガの「チェインクロニクル」を連想させる、2Dの横スクロールアクションのRPG「消滅都市」や、ストラテジーゲーム「天と大地と女神の魔法」が紹介されていたが、現在のようなmixiの「モンスターストライク」のような新規ゲームの流行が起きる前に開発が始まった物でもあるため、スクリーンショットから受ける印象では、今の時代にマッチすると確信を持って感じさせるほどの力はない。

ただ、絞ってきた宣伝広告など、思い切った投入をしてくると思われる。

まだ、収益のメインをスマホに切り替える作業は、道半ばだ。


■中規模ヒットのアプリを生み出すことには成功

一方のDeNAは、売上高は1813億1300万円(前年同期比10.4%減)、営業利益は531億9800万円(同30.8%減)、純利益は316億6100万円(同30.5%減)。四半期ベースで見ると第4四半期(1〜3月)は売上高が398億円(前年同期比24%減)、営業利益は97億円(同47%減)と減収減益という状態だ。国内ゲーム事業のコイン(1コイン=1円)消費の減少が響いている。

国内でのコイン消費額は、第1四半期が548億コイン、第2四半期が504億コイン、第3四半期では461億コインと、第4四半期は436億コインと減少に歯止めがかからない。ただ、第4四半期は、25億コインの減少に留まり、減少幅に歯止めがかかるようになっている。デバイス構成比として、スマホが78%、ガラケーが22%とこちらも、スマホシフトが急激に進んできている。

ただ、売上は減少しているものの、月間のアクティブユーザー数は、増加に転じていることをアピールしている。13年6月を1とすると、今年3月には、1.2あまりにまで増加に転じており、ユーザー離れに歯止めがかかってきているようだ。

ゲーム事業を「中規模ヒットアプリのコンスタントな創出・全体MAUの反転」、「アプリでのユーザベース構築」と総括している。中規模ヒットアプリというのはストラテジーゲーム「進撃の巨人」、パズルゲーム「パズ億」といった今年に入って投入した新規タイトルのことを指していると思われる。ただ、課題として、「ブラウザの利用低迷を補う成長源泉の確立」を上げている。


■脱ガチャ、コンティニュー課金中心をめざすが苦戦

進撃もパズ億も、テレビCMを大量に投下してヒットを狙ったが、売上では、大ヒットと呼べるまでの結果を生み出していない。iOS向けのコンテンツ配信サービスのAppStoreのトップセールスランキングで、で、進撃は55位(19日現在)、パズ億は175位に留まっている。

DeNAは脱ガチャにこだわってゲーム開発を続けており、ガンホーのパズルゲーム「パズル&ドラゴンズ」が一般化させた「コンティニュー課金」によって収益を得ることを柱とする戦略を続けている。この課金方式はゲームの途中で、ゲームオーバーとなった場合に、コンティニューさせることを目的として収益を得る方法だ。

進撃も、パズ億も、プレイしているアクティブユーザー数は多いと思われるが、課金する力は、1回300円で販売されているガチャほどの高収益性を生み出していない。ガチャを入れる事を出来るだけ避けようとしているため、DeNAの新作ゲームは、思ったほどの大ヒットに結びついていないというのが常態化しているようだ。

DeNAの問題を上げるとすると、進撃は、世界中でヒットしている「クラッシュ オブ クラン」(Supercell)の丸ごとのコピーゲームで、ゲームシステムのみならずインターフェイスなども、すべてコピーで、同社の考えるIP展開のイメージはガラケーのときから変わっていないということが感じられる。

他社でヒットしたゲームをコピーし、そこにコンテンツを乗せ替えて多様なコンテンツを展開するという戦略だ。パズ億も「キャンディクラッシュサーガ」(キング)をベースにしている。ただ、単にコピーして、テレビCMを大量に打っただけでは、ヒットしないという実情が明らかで、ガラケー時代の必勝法が通用しなくなっていることが、ますます明白になってきている。


■グリーとDeNAの時価総額が逆転

このグリーとDeNAの決算の発表後、現在まで時価総額が逆転するという現象が起きている。グリーは2100億円、DeNAは1990億円となっている(18日現在)。

どちらの株価も低下した上での逆転であるため、留意が必要だが、コストカットに成功し、業績の好転に成功したグリーの悪材料は出尽くしたという見方が広がった一方で、他社との協業などをしつつもスマホでもガラケー時代と同様のプラットフォーム事業者となることを目指しているDeNAが、まだ、勝ちパターンを作れていないという理由があるだろう。

1タイトルの大ヒットが、その企業の業績を丸ごと塗り替えてしまう状態が、スマホゲーム時代で当たり前の状態が続いており、両企業から、突然の大ヒットが登場しないとはいえない。

しかし、ガラケー時代のように、同じタイプのゲームを量産すればヒットする時代ははるかに過ぎ、家庭用ゲームのようなレベルの高いゲームデザイン力を持ったゲーム開発能力が急激に求められるようになっている。その時代の変化に両企業とも、慣れているとまでは言えない状態が続いているように感じられる。

ただし、企業として、資金的に危機に直面するという状況までではないため、今後半年の間に、勝負をかけてくるだろう。


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin