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2014年7月第2週号
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2014年7月第2週号

2014-07-07 14:21
    めるまがアゴラちゃんねる、第099号をお届けします。
    配信が遅れまして大変申し訳ございません。


    コンテンツ

    ・ゲーム産業の興亡(110)
    開発費の削減でブラック企業化するスマホゲーム開発会社
    新清士(ゲームジャーナリスト)


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    特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

    ゲーム産業の興亡(110)
    開発費の削減でブラック企業化するスマホゲーム開発会社

    日本のスマホゲーム市場は、世界最大規模の4000億円前後の状態が続いており、現在も、その好調さは変わらず推移していると推測されている。

    ただ、バブルと考えられる一方で、深刻な問題も起こり始めているようだ。開発会社の体力の低下が、着実に進行しているようなのだ。先週、ゲーム開発会社2社の関係者から、詳細に状況をインタビューすることができたのだが、そこから見えてきている状況をご紹介したい。


    ■開発費を実際にかかる費用より2割削減が当たり前に

    今起きている状況は、開発費の高騰と、リリースしたゲームがヒットをするかどうかわからないリスクを、発注する比較的資金力のある大手企業が、開発会社側に押しつける状況が進行している。しかも、開発会社側は、この状況が継続すると、自分たちが疲弊して会社の体力が失われていくということがよくわかっている。それにも関わらず、その条件を飲まざる得ない状態に置かれている。

    もう少し直接的に説明すると、開発費の出し渋りが始まっている。現在のリッチ化が進むスマホゲームの開発費の相場は、開発期間1年で、開発コストは1億円と言われている。

    しかし、発注する大手ゲーム会社の方は、2割程度予算を絞った条件で、開発会社にゲーム開発をすることを迫るのが当たり前になりつつあるのだ。不足する2割は、ゲームをリリースした後の利益を分配するレベニューシェアという条件で提示されることが多いようだ。

    大手ゲーム会社の名前は、具体的に教えてもらうことはできなかったが、日本のガラケー向けソーシャルゲーム市場で登場した企業大手や、家庭用ゲーム機会社でソーシャルゲームに力を入れている企業のことであろうと、筆者は類推した。

    ただ、特定のゲーム会社だけが、その条件を提示しているわけではなく、ゲーム開発を発注する大手ゲーム会社のどの企業も同じような条件に変わりつつあるようだ。
     

    ■新規タイトルのヒットが起きるかどうかが見えないリスク

    現在のスマホゲームの開発費は、ますますリッチな表現が求められる方向に向かっている。携帯ゲーム機向けの画像水準を表現するのは当たり前になり、3Dグラフィックスを多用したり、人気声優などの音声を組み込むのも当たり前になりつつある。ガラケー時代には1000〜3000万円だった相場から考えると隔世の感がある。

    ゲームユーザーにとっては、次々に登場する質の高いスマホゲームを、ゲーム開始時には無料でいくらでも遊べる時代になっているいい時代ではある。

    しかし、ゲーム会社にとっては、スマホゲーム市場は極めてリスクの高い市場になっている。

    スマホゲームの日本市場は成長しているものの、売上は「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテインメント)や「モンスターストライク」(mixi)、「魔法使いと黒猫のウィズ」(コロプラ)、「ディズニーツムツム」(LINE)などの特定タイトルに偏る傾向がある。過去に紹介しているが、定番化することに成功したタイトルは、ポジティブなフィードバックに入る事ができるために、売上と利益を大きく得ることができる。

    一方で、新規タイトルにとっては、そうした市場拡大の恩恵を得られるかどうかが極めて不明瞭だ。

    しかも、ソーシャルゲームの仕組みは、無料でプレイを開始でき、アイテム課金方式であるため、ゲームを遊ぶ大半のユーザーはお金を払わない。ゲームが本当に売上を出せるのかどうかは、リリースしてみないとわからないのだ。リリースした直後に人気を得られなかったタイトルは、その後、人気を得ることは難しいと言われている。

    つまり、「開発費のコスト増加と、新規タイトルが市場で成功できるかどうか不明瞭である「ヒットのリスク増加を避けるために、ゲーム開発の資金を持つ大手企業は、開発会社に開発コストの削減を迫り始めているのだ。


    ■開発費の不足をブラック化で補う

    ゲーム開発のコストの大半は人件費である。単純計算で1人あたり月に50万円かかる仮定すると、20人の開発チームが10ヶ月かけると、1億円という計算になる。実数としては、ゲーム内に登場するキャラクターなどのグラフィックスや、音楽といったゲームを構成する一部のパーツは、社内の社員を使わずに、外部の企業に外注を行う場合も少なくないため、開発に関わるスタッフの数はもっと多い。

    ゲームを開発する場合、一定の質を求めるなら、開発費を簡単には削ることができない。人員を減らせば、それだけゲームを構成するパーツは減少し、ゲームの質の低下にすぐに結びつくためだ。1億円で実現される質のゲームを作るためには、1億円のコストが掛かる。ゲームに登場する背景のグラフィックスなど、一部のパーツについては、中国企業に発注してコスト削減をするケースは一般化しているが、それでも開発費を削るには限界が存在する。

    それでは開発会社は、不足する開発費をどうするのか。

    企業として「ブラック化」するしかない。

    インタビューしたゲーム会社の役員は、「単純にスタッフの数を減らし、長時間のサービス残業に、土日出勤という形で、不足する開発リソースを補うことが一般化してきている」と述べた。開発会社は、否応なく消耗戦へと持ち込まれようとしている。開発スタッフは、やがて燃え尽きて保たなくなるだろう。


    ■向かうアニメ製作会社と同じ産業構造

    そうした厳しい仕事を受けなければいいではないか、と思うかもしれない。

    ところがこうした開発費をカットされた条件でも、受けなければ、他社に取られてしまうという状況が起きている。開発会社は現在のゲームの開発費やプロモーションを展開できるほどの資本を持っていない。特に、ガラケーのソーシャルゲームバブルで参入してきた多くの企業が、生き残るために、不利な条件とわかっていても、仕事を無理して受けることが常態化している。

    そして、多くの企業は、ゲームがリリース後にヒットすれば貰えることになっている、レベニューシェアで、不足する開発費を補えるほどの資金を得ることに成功できないことを知っている。ゲームをリリースすれば、ヒットしようがしまいが、運用にコストは掛かり、追加のコンテンツを製作するコストが掛かっていくためだ。

    「アニメ製作会社と同じような構造になろうとしている」

    前述のゲーム会社の役員はそう述べた。アニメ製作会社は、資本力を持つテレビ局や広告代理店の資金に依存しなければ、アニメを製作できない。一方で、製作できても著作権など、ビジネス的に「おいしい」部分は自社に残らない。しかし、企業として生き残るために、悪い条件の中で作り続けなければならない。

    もちろん、勝ち負けが生まれるのはビジネスの当然の帰結ではあるが、スマホゲームに関わる開発会社が、急激な淘汰の時期に向かっていると考えられる。今起きている市場の不健全さは、今後の日本の市場成長の限界を指し示しているように、筆者には思えてならない。


    □ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

    新 清士(しん きよし)
    ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
    Twitter ID: kiyoshi_shin

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