自衛官訓練死 原告勝訴

国が控訴を断念

遺族・弁護団「格闘」廃止求める

 陸上自衛隊真駒内駐屯地(札幌市)で徒手格闘訓練中に島袋英吉1等陸士=当時(20)=が死亡した事件の国家賠償請求訴訟「命の雫(しずく)裁判」で自衛隊の安全配慮義務違反を認めた札幌地裁判決(3月29日)について防衛省は12日、控訴しないことを決めました。小野寺五典防衛相が記者会見で明らかにしました。

 事件は2006年11月に所属部隊長命令による、素手で敵を殺傷することを目的にした徒手格闘訓練中に発生しました。受身も未修得の「初心者」だった英吉さんが組み相手の「投げ技」で背中から落下、翌日に急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血で死亡しました。

 地裁判決は「旺盛な闘志をもって敵たる相手を殺傷する、または捕獲するための戦闘手段であり、その訓練には本来的に生命身体に対する一定の危険が内在(する)」と徒手格闘訓練の危険性を司法として初めて認定。自衛隊(国)は安全配慮義務、事故の未然防止、注意義務を負うとしました。

 遺族と弁護団は判決後の4日、防衛省に控訴断念、遺族への直接の謝罪、再発防止と危険な徒手格闘訓練の廃止を求めました。

 小野寺防衛相は会見で徒手格闘訓練の禁止について問われ、「この事案が発生した時点から安全確保するように指示をしている」と継続する考えを示しました。

 命の雫弁護団(佐藤博文団長)は「控訴断念は当然。国は自衛隊員に関する徒手格闘を含む全ての訓練、業務について自衛隊員の生命・身体の安全に万全を尽くすよう、改めて強く求める」と徒手格闘訓練の廃止を迫る声明を発表しました。

「犠牲者もう出さないで」

 賠償請求訴訟の原告で英吉さんの父親の島袋勉さんの話 英吉は帰ってこないが、(判決という)大きなものを残してくれた。自衛隊は徒手格闘訓練を廃止し、英吉のような犠牲者をこれ以上出さないでほしい。若い自衛官の命と人権を守ってほしい。子どもを殺された家族のみじめな思いは消えないことを自衛隊と国は忘れてほしくない。