主張

65歳継続雇用というが…

財界の危険な企てを許すな

 65歳まで希望者全員を継続雇用することを企業に義務づけた改正高年齢者雇用安定法が、来年4月に施行されます。

 年金の受給開始年齢が来年度以降、60歳から65歳に段階的に引き上げられるため、60歳で定年になったあと無年金、無収入におちいらないように雇用を確保するという趣旨です。年金の支給開始年齢を引き上げたのは政府ですから、それに対応した継続雇用制度をとるのは政府の最低限の責任です。

選別許した厚労省指針

 しかし、この制度には見逃すわけにいかない問題点があります。希望者全員を雇用するというもっとも肝心な原則が保障されず、選別の可能性があることです。

 高年齢者雇用安定法は、これまで65歳までの雇用確保のために「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の定めの廃止」のいずれかの措置を企業に義務づけてきました。このうち問題になっていたのが「継続雇用制度の導入」です。労使協定で基準を定めた場合は希望者全員を対象にしない制度でもよいとされ、これによって企業の意にそわない労働者が選別、排除されてきました。

 今回の法改定で、この基準が廃止されました。ところが財界の抵抗で厚生労働省が「心身の故障」「勤務状況が著しく不良」などの場合は継続雇用しないことができるという指針をつくりました。これでは企業の恣意(しい)的な選別を許すことになります。さらに基準の廃止まで12年間の経過措置を設定しました。継続雇用の範囲をグループ企業までひろげて、悪条件で関連会社に押し付けることができる措置もとりました。こうした多くの問題点があり、日本共産党は改定案に反対しました。

 法の施行を前にして、いまもっとも懸念されるのは、大企業を中心に雇用延長にともなう人件費負担を抑制する対応にいっせいに動いていることです。

 経団連は、2013年春闘にむけた経営側の方針となる「経営労働政策委員会報告」で、65歳までの賃金原資を確保するために、現役世代の賃金水準を抑える案をまとめています。NTTグループは、すでに40~50代の賃金を下げる制度を決めました。子どもの教育費や住宅ローンなど生活費負担がもっとも多い年齢層へのこの措置は大打撃です。オリックスなど定年を60歳から65歳に延ばして、賃金を5~6割に減らす方向をうちだしている企業もあります。

 65歳までの雇用確保措置は、厚生労働省の調べで97・3%の企業が実施しています。賃金は定年時の6~7割に下げられています。継続雇用制度を導入している企業で、希望が受け入れられなかった人は2・3%にすぎず、全員雇用しても金額はそれほど増えません。

横暴な賃下げ論

 こうした現状から、法改定でこれまで継続を希望しなかった人を含めて該当者全員が希望したとしても、賃金は0・22%増えるだけという試算もあります。260兆円もの内部留保をため込んでいる大企業にとって微々たる金です。大企業が、65歳までの雇用確保のために、現役世代の賃金を引き下げるというのは、横暴そのものです。デフレ不況から脱却するために賃金引き上げが強く叫ばれているとき、このような賃金抑制策を絶対に許すわけにはゆきません。