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秘密保護法案 自民「Q&A」ウソと危険
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秘密保護法案 自民「Q&A」ウソと危険

2013-11-19 11:59

     国民の目、耳、口をふさぐ「秘密保護法案」―。自民党は所属議員に対外説明用の「Q&A」を配布しています。“秘密の範囲は限定”“身辺調査もプライバシー侵害にならない程度”“一般国民は処罰の対象外”など、さも「安心安全」かのような説明のオンパレード。しかし、法案と政府答弁などからみえてくるのは、そのウソと危険です。

    秘密の範囲広がらない?

    4分野40万件に拡大も

    995991ca99f8100da49611cc51fa492b27b75e22 自民党のQ&Aは「今よりも秘密の範囲が広がることはありません」などといっていますが、大変なゴマカシです。

     そもそも懲役10年という厳罰を伴う包括的な秘密保護法はいま存在していません。懲役を伴うものには、自衛隊法で懲役5年が科される「防衛秘密」があります。

     この「防衛秘密」は4万件ありますが、秘密保護法案では「外交」「特定有害活動」「テロ対策」を含めた4分野に広がります。政府は約40万件になると示唆しています。

     しかも秘密の指定は、「国の安全保障に著しい支障を与えるおそれ」があると行政機関の長が判断すればいくらでも可能。「秘密指定」の基準も公表されず、何が秘密指定されたかも「秘密」です。秘密指定がどこまで広がるか計り知れません。

     特に4分野のいずれにも、別表には「防衛に関し収集した電波情報…その他重要な情報」「…領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの」など、「その他」という言葉が11カ所も挿入されています。「その他」に何でも秘密として盛り込める、まったく無限定な仕組みです。

    原発・TPP秘密じゃない?

    「核物質防護」で統制強化

     自民党Q&Aや首相側近の礒崎陽輔首相補佐官は「原発が秘密になることは絶対ない」「原発事故は対象外」などと説明していますが、典型的な情報操作のウソです。

     政府は国会答弁で「原発の警備実施状況」が対象であることを認め(7日)、原子力規制庁も「核物質防護が(法案の)対象」(10月29日会見)と述べています。

     「核物質防護」を建前に原発情報への統制を強めようとしているのが実態です。福島原発事故時に放射能拡散予測システム「スピーディ」さえ公表しなかった政府、そして電力会社の隠ぺい体質をさらに助長します。

     TPP(環太平洋連携協定)についてもQ&Aは「法案別表のいずれにも該当しない」としています。しかし、別表には「その他の重要な情報」が入っており、無限の拡大解釈が可能。対象とならない保証はありません。

     そもそもTPP交渉では参加早々、「守秘契約」に署名させられ、協定発効後も4年間は秘匿にする国際合意があるとされます。秘密保護法で指定されれば、半永久的に国民から隠されます。

    家族・恋人・友人は対象外?

    人間関係全て調査・監視

     自民党Q&Aは、「秘密」を取り扱う者の「適性評価」について、「法定された調査事項以外の個人情報を収集することはありません」としています。

     しかし、「法定された調査事項」自体、プライバシー侵害そのものです。(1)特定有害活動(スパイ活動)およびテロリズムとの関係(2)犯罪および懲戒の経歴(3)情報の取り扱いについての非違歴(非法・違法行為歴)(4)薬物の乱用および影響(5)精神疾患(6)飲酒(7)信用情報や経済状況―など、人権侵害にあたる内容で明白な違憲行為です。

     「特定有害活動」や「テロリズム」との関係で家族や同居人の情報が調査・収集されます。「怪しい人物とのつきあいはないか」など、家族ぐるみで調査・監視されるのです。

     すでに国の行政機関で実施されている「秘密取扱者適格性確認制度」では、知人との「交友交際の程度」(自衛隊の調査)など詳細に申告させることになっています。その際は「本人に問い合わせて確認してはならない」としており、調べられてもわかりません。

    思想信条調べない?

    洗いざらい調べあげ

     自民党Q&Aは、秘密を扱う人の「適性評価」の調査について「政治活動や組合活動、個人の思想・信条は調査事項ではありません」としています。

     これも全く信用できません。秘密保護法案にある「特定有害活動」や「テロリズム」の定義は極めてあいまいで、取り締まる側の恣意(しい)的判断によって、憲法で保障された政治活動や組合運動などを弾圧してくる危険性が大です。

     「テロリズム」の定義には、「政治上その他の主義主張に基づき、国家、他人にこれを強要」することをあげています。原発ゼロの官邸前行動も対象にされかねません。

     さらに、「特定有害活動」や「テロリズム」との「関係に関する事項」を調査対象とするとしています。つまり、評価対象者の活動のすべてを調査することを意味しており、本人だけでなく家族、友人などの思想・信条まで洗いざらい調べ上げられます。

     実際、すでに実施されている国家公務員の身辺調査では、所属する政治団体など「あらゆるものについて、現在過去を問わず記入する」(陸上自衛隊「身上明細書」の記入要領)ことを強要しています。

    恣意的にならない?

    基準も期間も政府の勝手

     自民Q&Aは、政府・行政機関の長が行う秘密指定や、指定期間の延長は「恣意(しい)的にならない」と言っていますが、これもデタラメです。

     「何の担保もなく恣意的な運用をもたらす」と厳しい批判を受けて、与党は秘密指定などに関する運用基準を定めると「雑則」の中に設けました(法案18条)。しかし、その基準を定めるのも政府であり、そのうえ、運用基準は「特定秘密の保護に支障を及ぼさない範囲で公開」(内閣情報調査室)としています。これは、何が秘密かわかるようなら基準は公開しないということです。第三者機関による秘密指定の審査制度も否定しています。結局、恣意的運用を防ぐ保障はありません。

     秘密指定の有効期間は基本的に5年とされていますが、何回でも延長可能。30年を超えるときは「内閣」の承諾を必要としていますが、何の担保にもなりません。

     「国民の知る権利」への“配慮”などは言葉だけ。政府の都合だけが優先される仕組みです。

    取材行為罰しない?

    警察の家宅捜索は自由

     自民党Q&Aは、新聞記者の熱心な取材活動について「公務員に根気強く執拗(しつよう)に説得・要請を続けた場合でも、報道機関による正当な取材行為は処罰されません」としています。

     なにが「正当」か「不当」かを決めるのは警察。捜査機関による取材活動の当否を捜査機関に委ねること自体、報道の自由への侵害です。

     しかも、最終的に処罰されなかったとしても、処罰するかどうかを決めるまでの間に警察や検察が新聞社などを家宅捜索して、記者の携帯電話やパソコン、ノートを押収することは、報道機関に大きなダメージを与えます。

     家宅捜索について、森雅子同法案担当相や谷垣禎一法務相、古屋圭司国家公安委員長は、報道機関も対象になると認めています。

     家宅捜索を受ける危険は、記者や、不正の告発を考える国家公務員などを萎縮させるものです。

     自衛隊や原発などに対する市民の地道な監視活動は報道機関にとって大きなニュース源です。市民の調査活動を処罰対象としていることも、報道や取材を制約する法案だといえます。法案は、捜査機関による干渉や恫喝(どうかつ)をなんら妨げていません。

    一般国民は罰しない?

    「秘密」に接すれば皆対象

     自民党Q&Aでは、「特定秘密を取り扱う公務員等以外の人が本法案で処罰対象となることはありません」と断言しています。ここには重大なゴマカシがあります。

     そもそも、「秘密を取り扱う公務員等」の範囲が広い。国家公務員だけでも約64万人、それに都道府県警察の職員、行政に関連する民間企業の役職員や労働者など、「公務員等」の対象となりうる人数は膨大です。

     しかも、「管理を害する行為」でこれらの人から秘密を取得した場合は、一般国民も処罰対象です。その場合、「秘密」だと認識しているかどうかは、別問題。

     法案を作成した内閣情報調査室の役人は、「(取得)相手方から明示的に特定秘密であると伝えられている場合に限られず、客観的な状況から特定秘密であると認識していると認定できる場合にも、特定秘密であるとの認識があると判断されることがある」(12日、衆院特別委)と答弁しました。

     つまり、公開されていない軍事に関する日米間の合意や、原発事故のデータなどを知ろうとすれば、「秘密指定」となっている事実を知らなくても、「秘密の認識あり」と判断され処罰対象になりうるのです。「処罰は例外的」どころか、政府や警察の胸三寸です。

    内部告発者は罰しない?

    国が居直れば逮捕可能

     自民党Q&Aは、「違法行為を隠蔽(いんぺい)するために、これが特定秘密に指定されたとしても、指定は有効なものではない」として、「特定秘密の漏えいには該当せず、通報した者が処罰されることはありません」としています。

     アメリカ国家安全保障局の元職員スノーデン氏が、米国による盗聴などの違法な情報収集活動を明らかにし、全世界で米国への批判が高まっています。

     しかし米国政府は、盗聴が「必要だった」と居直り、内部告発したスノーデン氏の逮捕に血道をあげています。

     こうしたスノーデン氏のようなことが日本でもおきかねません。

     2007年に陸上自衛隊の情報保全隊による違法な国民監視活動を日本共産党が明らかにしました。

     保全隊の違法な活動を追及する裁判では12年3月、仙台地裁がプライバシー権の侵害を認め、国側に損害賠償を命じました。

     しかし、国は今も、国民監視を「必要」と居直っています。秘密保護法案では、この保全隊の記録も「(特定秘密に)指定することはありうる」(小野寺五典防衛相)としています。

     重大な不正であっても、国が不正を認めなければ内部告発者を処罰できるのが、この法案です。

    国会議員を制約しない?

    国会が行政府の監視下に

     自民党Q&Aは、「本法案では、国会の秘密会等に特定秘密を提供することができる仕組みを盛り込む」から“国会議員の活動を制約することはない”と主張しています。これは、黒を白といいくるめる議論です。

     もともと国会は主権者国民の代表で構成される「国権の最高機関」(憲法第41条)として、行政を監視する立場にあります。そのために憲法は国政調査権を保障しています。

     ですから、政府は、国会の求めがあれば情報を提供するのが憲法上の義務です。それをさかさまにして、「秘密会」にしなければ情報を提供しない、提供するかしないかも行政府が判断する―というのが「秘密保護法案」の仕組みです。これは、国会と行政府の関係を逆転させ、国会が行政府の監視下におかれることになります。

     しかも、「秘密会で知った秘密」を漏えいした場合は、国会議員でも懲役5年の処罰を受けるのです。

     国会議員が、所属する政党で議論したり、秘書や専門家の意見を聞いたり、有権者に報告するという当たり前の活動さえできなくなります。国会を完全に形骸化することになります。

    「共謀罪」隠しているが?

    話し合っただけで処罰

     自民党Q&Aは、「秘密保護法案」に、戦前の治安維持法の再来といえる「共謀罪」の規定が盛り込まれていることを意図的に隠しています。

     同法案の「共謀罪」は、秘密漏えいの行為や被害がなくても、複数の人たちが国家秘密について話し合っただけで処罰できるとするもの。戦前の治安維持法の「協議罪」に匹敵し、不当逮捕を禁ずる戦後の現行憲法や刑法の原則に反します。

     「秘密保護法」が施行されると、会議や取材や調査研究活動を企画する日常的な活動でも「特定秘密の故意による漏えい」や「取得行為」を「共謀」したとして検挙や処罰の危険にさらされると自由法曹団は指摘しています。

     「秘密保護法」成立後には、国会で過去2度も国民の猛反対で廃案になった「共謀罪」法案、盗聴の拡大や室内盗聴の創設を狙う盗聴法改定案の提出が予想されています。ある学者は、「共謀罪」が本格的に制定されると、密告が奨励され、電話やメールの盗聴が合法化され、街頭や集会での会話まで監視されると指摘しています。

     軍事立法、人権抑圧立法としての「秘密保護法」の性格からも、反戦運動や平和運動、反原発運動を抑圧する道具として「共謀罪」が使われる可能性は濃厚です。

    秘密と知らなかったら?

    未遂で逮捕もありうる

     自民Q&Aでは、「一般市民が知らない間に特定秘密を知ったとしても違反にならない」などとしています。

     「何が秘密かも秘密」である以上、明確に秘密であると知って情報に接近する人は少ないでしょう。しかし政府は、「特定秘密」であることを知って取得した場合に限らず、「客観的な状況から特定秘密であると認識していると認定できる場合」にも処罰されるとしています。しかも、「秘密を知る」にいたらなくとも、探知罪=「管理を害する行為により特定秘密を取得」する罪には、「未遂罪」が規定されています。

     そうすると、秘密と知らずとも、客観的に特定秘密とわかるといえるような情報に接近するだけで、捜査機関の監視対象となり、逮捕・処罰もありうることになります。

     原発や基地の近隣の住民や市民運動家が、とりたてて「特定秘密」を探知するつもりがないまま、基地や原発に関する調査をするだけで犯罪とされるのです。

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