就任から1年の節目となった26日、安倍晋三首相は日本とアジア・世界との間に大きな経済的・外交的な亀裂を生む靖国神社参拝の暴挙に打って出ました。「戦争する国」へとまい進する首相。参拝後の会見は、国際社会に通用しない侵略戦争の肯定・美化論で、歴史の事実の前におよそ耐えられません。(竹原東吾、中祖寅一)
「不戦の誓い」
侵略美化の宣伝センター
「二度と再び戦争の惨禍によって人びとの苦しむことのない時代をつくるとの決意を込めて『不戦の誓い』をいたしました」
安倍首相は参拝の意義をこう述べましたが、靖国神社は「不戦の誓い」にもっともふさわしくない場所です。
靖国神社は陸海軍が管理し、戦前・戦中、侵略戦争に国民を動員するための施設でした。戦後も日本の侵略戦争を「自存自衛」「アジア解放」の正義の戦争だったかのように肯定・美化する宣伝センターの役割を果たしてきた特殊な施設です。
安倍首相の靖国参拝は、侵略戦争を肯定・美化する立場に身を置くことを意味します。第2次世界大戦後の国際秩序は日独伊3国の戦争は不正・不義の侵略戦争だったということを共通の土台にしています。安倍首相の行為は「不戦の誓い」どころか、戦後の国際秩序・平和の流れに真っ向から逆らうものです。
だいいち、「不戦」を口にしながら、安倍首相の「1年の歩み」は「戦争する国」づくりそのものです。
重罰と身辺調査の網で国民の目・耳・口をふさぐ秘密保護法の強行成立、「戦争司令塔」となる国家安全保障会議(日本版NSC)の設置、集団的自衛権の行使に道を開く国家安全保障戦略の閣議決定…。国民の怒りや不安を顧みず暴走しています。「不戦の誓い」どころか、内外に「戦争国家」への決意を示してきたのが、安倍政権発足1年の姿です。
「戦犯崇拝は誤解」
首相自身が戦犯を免罪
「参拝は、いわゆる戦犯を崇拝する行為であると誤解に基づく批判があります」
首相はこういって批判をかわしますが、「誤解」ではなく「理解」に基づく批判です。
靖国神社は、旧日本軍兵士の武勲(戦争でたてた手がら)をほめたたえることを目的にすえているだけでなく、戦争を推進し、東京裁判で「平和に対する罪」などで裁かれた東条英機元首相らA級戦犯を合(ごう)祀(し)(1978年)しているからです。
靖国神社に建つ「遊就館」と呼ばれる軍事博物館は「アジア諸国の解放と共存共栄の新秩序を確立する」(「特別展 大東亜戦争七十年展II」・徳川康久宮司のあいさつ文)ことが戦争の目的だったと掲げるなど、戦前の理屈そのままに侵略戦争をまるごと肯定・美化し続けています。侵略戦争を推進したA級戦犯についても靖国神社は「形ばかりの裁判によって一方的に“戦争犯罪人”という、ぬれぎぬを着せられ、むざんにも生命をたたれた」方(「やすくに大百科」)だと説明していたのです。
なにより首相自身が、「英霊のために国の指導者が靖国に参拝し、尊(そん)崇(すう)の念を表するのは当然」と公言。「戦犯は国内法でいう犯罪者ではない」(自著『美しい国へ』)とも述べてきました。戦犯を免罪し擁護するものであることに「誤解」の余地などありません。
「中韓の気持ち傷つけない」
対話の道を土台から破壊
安倍首相は記者団に「中国、あるいは韓国の人々の気持ちを傷つける、そんな考えは毛頭ございません」などと厚顔に語りました。同日発表した談話でも、「中国、韓国に対して敬意を持って友好関係を築いていきたい」と述べています。
しかし、これほど欺(ぎ)瞞(まん)的で、中国、韓国の人々の歴史的感情を逆なでする言葉はありません。
中韓をはじめアジア諸国が、日本の政治家による靖国神社参拝に厳しい批判を続けてきたのは、同神社が侵略戦争への国民動員の精神的支柱の役割を果たした軍事施設であり、今なお侵略戦争の正当化を宣伝・普及することを目的とした存在だからです。どんなに言い逃れをしようとも、政治家の参拝自体が、客観的に侵略正当化の意味を持ちます。そのことへの批判を正面から受け止めるどころか、「傷つける気持ちはない」などとごまかすのは、内外を欺くものであり、戦後の国際秩序への挑戦です。
安倍首相は昨年の政権発足直後から河野談話、村山談話の「見直し」を公言し、歴史問題を再燃させて日中、日韓の対話に大きな障害をつくり出してきました。尖閣問題や北朝鮮の核開発問題で北東アジアの緊張が高まる中、日中韓3カ国の対話を求める声がそれぞれの国内はもとより、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国やアメリカからも強まっています。その中で、対話の最大の障害となってきた歴史問題をめぐり、安倍首相自らが靖国神社参拝を強行したことは、対話の道を土台から破壊する行為であり外交的自殺です。
米国政府が直ちに「失望」を表明し、中国、韓国両政府から厳しい批判の声が上がりました。
憲法否定・侵略戦争美化が突出
安倍首相は、「多くの首相が靖国神社を参拝している」として歴代首相の名をあげました。さも歴代首相と変わりがないかのように強調するものですが、これで安倍首相の靖国参拝が免罪されるわけではありません。
そもそも参拝した歴代首相も厳しい批判を受けてきました。しかも、安倍首相の憲法否定と侵略戦争美化の右翼的姿勢は突出しています。
安倍首相は、侵略戦争を肯定する「靖国」派・総本山「日本会議」と一体の日本会議国会議員懇談会のメンバーを閣僚や自民党中枢に抜てきしています。ある自民党議員は、「安倍首相のところには支持母体から、『靖国へ行け』と猛烈なプレッシャーがかかっている」と述べます。今回の行動の背景には、安倍首相が依拠する特異な足場があります。
政権1年 本性むき出し
安倍晋三首相は政権発足から1年にあたる26日、靖国神社を参拝しました。過去の侵略戦争と植民地支配を美化し、日本を再び「戦争する国」にする危険な安倍政権の本性を象徴する動きです。
「痛恨の極み」
安倍首相は、自民党総裁選の共同会見で、第1次政権時代に靖国参拝できなかったことを「痛恨の極み」と発言。2012年末の産経新聞のインタビューでは、日本の植民地支配と侵略に「心からのおわび」をのべた村山富市首相談話や、「慰安婦」問題で旧日本軍の関与と強制を認めた河野洋平官房長官談話を見直す意向を示唆しました。
4月には、春の例大祭にあわせて安倍首相が靖国神社へ真榊( ま さかき)を奉納。閣僚が参拝しています。
こうした安倍政権の言動には、韓国や中国、アメリカなどからも批判の声が相次いでいます。ところが、安倍首相は「どんな脅かしにも屈しない」と居直る始末。さらに、「侵略の定義は定まっていない」と国会答弁などで繰り返し、歴史逆行の動きを示しました。
9月には、国連総会への出席のために訪れたニューヨークで、安倍首相は、中国を念頭に「私を右翼の軍国主義者と呼びたいなら、どうぞ呼んでいただきたい」と挑発。「積極的平和主義」を標ぼうして、米国とともに海外で戦争をする国づくりに前のめりの姿勢を示しました。
悪法次々強行
臨時国会では、国民の目と耳、口をふさぐ希代の悪法である秘密保護法を国民の強い批判を無視して強行。国家安全保障会議(日本版NSC)設置法などと一体で、戦争への道を突き進もうとしています。
安倍首相は、憲法9条の明文改悪を狙いつつ、海外での戦争を可能とする集団的自衛権行使容認に向けて解釈改憲を画策。歴代政府が憲法違反としてきた解釈を覆すため内閣法制局長官を容認派にすげかえ、武器輸出を禁じた「武器輸出三原則」撤廃まで検討するなど、暴走を加速させています。
■首相と靖国(肩書は当時)
01年
8月13日 小泉純一郎首相が就任後初参拝。その後、首相在任中は毎年参拝
06年
8月15日 小泉首相が6回目の参拝。首相の8・15参拝は中曽根康弘氏以来21年ぶり
9月26日 第1次安倍内閣発足。以降、安倍晋三首相は辞任まで靖国神社参拝を見送る
07年
9月12日 安倍首相が体調不良を理由に「政権放り出し」
12年
9月14日 安倍氏は自民党総裁選の共同会見で「(第1次政権の)総理在任中に靖国参拝できなかったのは痛恨の極み」だと発言
12月26日 第2次安倍内閣発足
12月31日 安倍首相が「産経」インタビューで、アジアへの侵略と植民地支配を謝罪した「村山談話」と「河野談話」を見直す意向を示唆。米紙などが批判
13年
4月21日 安倍首相が春の例大祭に合わせて「真榊」を奉納。麻生副総理ら一部閣僚が参拝
4月23日 安倍首相が参院予算委員会で「侵略の定義は定まっていない」と発言。国際的に批判あびる
7月29日 麻生太郎副総理が講演で改憲問題に関連し「あの(ナチスの)手口に学んだらどうかね」と発言
8月15日 安倍首相が「玉串料」奉納
10月17日 安倍首相が秋の例大祭に合わせて「真榊」を奉納
11月27日 与党と民主、維新、みんなの賛成で国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が成立
12月6日 政府・与党が秘密保護法成立を強行
12月17日 「国家安全保障戦略」を閣議決定。「愛国心」の強要盛り込む
12月22日 安倍首相がNHK番組で改憲について「私のライフワークだ。何としてもやり遂げたい」と発言
12月26日 安倍首相が就任後初参拝