安倍政権は23日、全面的な武器輸出禁止政策を放棄し、これに代わる新たな武器輸出管理原則の素案を固めました。日本の安全保障に資するかどうかを基準に、時の政府が武器輸出の可否を判断できるように変更することが素案の柱となっています。戦後、日本が平和国家の「国是」として掲げてきた禁輸政策を一内閣で百八十度転換しようという暴挙。安倍政権は3月初旬から与党との調整を本格化し、同月中の閣議決定によって輸出解禁を狙います。
新原則では、現行の武器輸出三原則が禁止している「紛争当事国やその恐れがある国」への輸出も容認。新たな三原則とする輸出管理方針は、(1)国際的な平和や安全の維持を妨げる場合は輸出しない(2)輸出を認める場合を限定し、厳格に審査する(3)目的外使用や第三国移転は適正管理が確保される場合に限定する―というもの。
(1)で輸出禁止の対象となるのは、「国連決議で禁じられた国」や、日本が加盟する対人地雷禁止条約などの国際条約に違反する国のみ。(2)で「輸出を認める場合」として想定されているのは、戦闘機やミサイルなどの国際共同開発への参加だけでなく、国連など国際機関への武器供与も解禁されます。
「紛争当事国」への輸出解禁によって、周辺国に空爆を繰り返すイスラエルにも日本製武器の輸出が可能になります。安倍政権は昨年3月、イスラエルも導入予定の米国製ステルス戦闘機F35の製造に参加するため、武器の禁輸によって「国際紛争の助長を回避する」という歴代政権が保持してきた理念を放棄していました。
武器輸出の可否の判断は国家安全保障会議(日本版NSC)の4閣僚会合が担当。必要に応じ、貿易を所管する経済産業相の出席を求めるほか、9閣僚会合への拡大も検討しています。
日本の武器禁輸政策(武器輸出三原則) 佐藤内閣が1967年、(1)共産圏諸国(2)国連決議で禁止された国(3)紛争当事国またはそのおそれのある国―への武器輸出を認めない方針を表明。三木内閣が76年、(1)~(3)の対象地域以外も含めて輸出を全面禁止しました。81年の衆参両院決議をへて、平和国家の「国是」として確立しました。
解説
「死の商人」の国家に変貌
安倍政権が検討している新たな「武器輸出三原則」は、時の政府の判断次第で輸出を認めるもので、原則すべての武器輸出を禁止している今の「三原則」とは正反対の立場に立つものです。
日本が武器輸出を禁止しているのは「平和国家としての立場から、国際紛争等を助長することを回避するため」(1976年政府統一見解)です。この方針は「憲法の理念」(81年衆参国会決議)を踏まえたものとして、国内外に宣言した「国是」でもあります。
これまで自民党政権や民主党政権の下、計21項目の例外措置で禁輸政策の“抜け穴”を広げる、なし崩しの空洞化を進めてきました。安倍政権が狙うのは完全な「国是」の破棄であり、集団的自衛権行使解禁のための解釈改憲と同様、これまでの国会審議の積み重ねをも踏みにじる暴走です。
背景にあるのは、米国と財界からの根強い圧力です。経団連などは繰り返し武器輸出の解禁を求めてきました。安倍政権は昨年末策定の国家安全保障戦略で、禁輸政策の廃止と、軍需産業で「国際競争力の強化」を目指す方針を初めて明記しました。
武器輸出解禁により日本は世界市場でシェアを争い、「紛争を助長」する「死の商人」の国家へ変貌します。
(池田晋)