主張
「米艦防護」論
破綻ずみの議論を繰り返すな
破綻した議論をいつまで繰り返すのでしょうか。
安倍晋三首相はNATO(北大西洋条約機構)本部(ブリュッセル)の講演(6日)で、集団的自衛権行使を可能にする解釈改憲を正当化するため、またしても「米艦防護」の例を挙げました。「現在の憲法解釈では、ミサイル防衛のため、日本近海の公海で警戒に当たっている米軍のイージス艦が攻撃を受けたとしても、自衛隊はこれを守ることができません。単に見過ごすしかできない」という議論です。
首相さえも知らずに
首相の挙げた「米艦防護」の例は、専門家から▽実際に起こる可能性はない▽米艦が万一攻撃されたとしても集団的自衛権でしか対応できないとは言い切れない▽そもそも米艦への攻撃を自衛隊が防護することは技術的に不可能―といった批判が出ている非現実的な想定でしかありません。
圧倒的な軍事力を誇る米国と一戦交える覚悟がなければ米艦への意図的な攻撃はできないが、そうした国が近い将来現れる可能性はないというのが、多くの専門家の共通した見方です。偶発的な衝突が起こった場合でも、第三者の日本が武力介入すれば事態は複雑化し、紛争の解決を困難にすることは明らかです。
集団的自衛権でなければ対応不可能かという問題でも、政府は過去に、「我が国を防衛するために出動して公海上にある米国の軍艦に対する攻撃が、我が国に対する武力攻撃の端緒、着手として判断されることがあり得る」(2003年5月16日、衆院安全保障委員会、秋山收内閣法制局長官)と答弁し、個別的自衛権でも対応可能な場合があるとの見解を示しています。
自衛艦が米艦と並走していれば、米艦への攻撃を自らへの攻撃とみなして応戦できるという見解もあります。安倍首相などは、現代の艦隊行動ではそれぞれの艦は互いに相当距離をあけ、水平線の向こうにいるのが普通であって、自らの攻撃とはみなせないと抗弁しています。しかし、それほど距離が離れていれば、米艦に対するミサイルや魚雷による攻撃を自衛艦が防護するのは技術的に不可能だという指摘もされています。
「米艦防護」の事例は、集団的自衛権行使を正当化する議論として、もはや成り立ちません。
来週前半にも集団的自衛権行使容認の報告書を首相に提出する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の北岡伸一座長代理は、首相が総合的に判断し国会承認を受けるなどの要件を盛り込む考えを示しています。しかし、米艦が公海で突然攻撃を受け、それを自衛隊が防護する場合、国会承認の手続きは物理的に不可能です。緊急事態だとして現場の判断に任せれば、首相さえ知らないうちに日本が戦争状態に入ってしまうことにもなりかねません。
狙いは「戦争する国」
首相が破綻ずみの事例を繰り返すのは、解釈改憲の必要をまともに説明できないからです。首相は講演で、憲法と「集団的自衛権」、「集団安全保障」との関係を議論していると述べました。狙いは「集団的自衛権行使」と「多国籍軍参加」による「海外で戦争する国」づくりです。ごまかしの議論を許さず、「解釈改憲ノー」の世論と運動を広げることが急務です。