主張

仏週刊紙テロ事件

許せない民主主義破壊の蛮行

 仏週刊紙シャルリー・エブドへの襲撃は言論・表現・報道の自由に対するもっとも卑劣なテロ行為です。このようなテロはいかなる宗教的信条や政治的見解によっても決して許されません。言論の自由を暴力で封殺することは、民主主義の根幹を揺るがすものです。

イスラム社会も批判

 テロの容疑者3人はアルジェリア系フランス人で犯行時、「神は偉大なり」「預言者の復讐(ふくしゅう)だ」などと叫んだと伝えられます。容疑者の1人が国際テロ組織アルカイダ系の組織から射撃訓練、爆弾製造技術などを学んだ可能性があるとも報じられています。

 シャルリー・エブド紙は、皮肉をこめた風刺画を「売り」にしており、これまでもイスラム教の預言者ムハンマドをたびたび登場させてきました。2011年には、紙名に「シャリア(イスラム法)・エブド」を重ね、編集者をムハンマドとする「特別号」を出し、直後に本社ビルが焼き打ちにあって全焼する事件にもあっています。

 欧州では、この事件を含め、これまでにもメディアがムハンマドを中傷する風刺画を出し、不必要に挑発的で「宗教の冒涜(ぼうとく)」だとするイスラム教徒の怒りと反発を招いてきました。

 今回のテロには、フランスのイスラム社会の中から“イスラム教に関わりのない犯罪行為”との批判の声が上がっています。

 500万人のイスラム教徒(人口の8%)がいるフランスでは、経済困難の下で排外主義を主張する極右政党が昨年の欧州議会選で国内第1党に進出。ドイツでも昨年来、「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人(ペギーダ)」と称する排外主義団体が毎週のように月曜デモを行い、回を追うごとに参加者数を増やしています。

 しかし、2000万人超といわれる欧州のイスラム教徒は今や、欧州社会の不可欠の部分をなしています。共存する以外に道はありえないのです。そのためにも、互いの文化や宗教、価値観に対する「不寛容」ではなく、それらを互いに尊重しあうことがどうしても必要です。

 21世紀は、国連総会が定めた「異なる文明間の対話年(01年)」で始まりました。しかし、それはアメリカのブッシュ政権が同年10月に開始したアフガニスタン報復戦争、03年3月開始のイラク侵略戦争により、深刻な否定的影響を受けました。ブッシュ政権が自らのモデルを力で押しつけようとした「民主化構想」は、今も続く戦争の泥沼と混乱をもたらし、欧米諸国とその文明に対する憎しみをあおり、テロの温床をつくりだしました。

テロの温床なくす努力を

 国連総会は06年にいたって初めて、包括的なテロ対策決議を全会一致で採択しました。決議は「すべての形態と現れにおけるテロリズムを、それが誰に対して、またどこで、何の目的で行われようとも、国際の平和と安全に対する最も深刻な脅威をなすものとしてあらためて強く非難」し、テロ行為は「人権、基本的自由および民主主義の破壊を目的とした活動」だと断じています。

 今回のテロは厳しく非難されなければなりません。このような事件を繰り返させないために、テロの温床をなくす真剣な努力が求められていることを明らかにしています。