主張
ロシア大統領暴言
許されない核兵器使用の検討
1年前の今日、ウクライナ領クリミア半島の併合を宣言したロシアのプーチン大統領が、当時、欧米の反発で紛争になることも想定し、核兵器の使用準備まで検討したことを明らかにしました。国際法を無視した領土拡張のうえに最悪の非人道兵器をちらつかせるロシアに対し、被爆70年を前にした広島、長崎の被爆者をはじめ、国内外で批判が拡大しているのは当然です。大統領の発言は核兵器の大国主義・覇権主義的な本質をも示しており、核兵器の速やかな廃絶を求める世界の世論と運動へのあからさまな挑戦です。
クリミア併合にあわせ
プーチン大統領は15日に放映されたロシア国営テレビの番組で、「クリミアの状況がロシアに不利に展開した場合、核戦力を戦闘準備態勢に置く可能性はあったか」と問われ、「われわれはそれをする用意があった」と明言しました。大統領は「(核を含む)すべての手段を使うべきだ」との軍専門家の進言は却下したとしていますが、核兵器の使用を検討したこと、またそれを公言すること自体、地域と世界の緊張を高めるものです。
昨年12月にプーチン氏が承認したロシア政府の軍事ドクトリンは、核兵器が「核軍事紛争及び通常攻撃兵器を用いた軍事紛争(大規模紛争及び地域紛争)の発生を防止する重要な要素」と明記しています。今回明らかにされた核使用検討は、この戦略に沿った重大な動きであり、核抑止力論の危険性を浮き彫りにしています。
ロシアは2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議で、米国などとともに「核兵器のない世界」をめざすことを再確認しています。今年4月末には5年ぶりにNPT再検討会議が開かれます。ロシアはじめ核保有国は、自らの国際公約を守り、「核兵器を使うことを考えるのではなく、非人道きわまる核兵器の全廃への道を進むよう要求する」(日本被団協の田中熙巳事務局長)世界の声にこたえた行動をとるべきです。
プーチン氏は、「クリミアはロシアの歴史的領土であり、ロシア系住民が危機にさらされ、見捨てるわけにいかなかった」と、正当化しました。クリミアのウクライナからの分離とロシアへの「編入」が住民の意思表明に基づく決定だとも述べています。しかし、軍事的な圧力のもとでウクライナ憲法も無視して強行されたクリミア併合は、民族自決とはおよそ言えません。他国の主権と独立、領土保全をおかす侵略行為そのものであり、そこでの核兵器使用の検討は、二重三重に許されません。
プーチン発言について安倍晋三政権は「日本から何か発信するということは考えていない」(菅義偉官房長官)と抗議していません。圧倒的多数の国が求める核兵器禁止条約の交渉開始に背を向けていることと合わせ、被爆国政府としてあまりに情けない態度です。
被爆国政府らしい行動を
日本は「核兵器がいかなる状況の下でも決してふたたび使われないことが人類生存の利益」とした昨年10月の155カ国の共同声明に名を連ねています。同声明は、核兵器を使用させない唯一の保証は「その全廃」と訴えました。その正しさは、クリミアをめぐる事態でいよいよ明らかです。日本政府は、共同声明への賛同にふさわしい行動をとるべきです。