主張

沖縄県指示の停止

「独立国」と言えぬ農水相決定

 沖縄の米軍普天間基地(宜野湾市)に代わる名護市辺野古の新基地建設問題で、翁長雄志知事が防衛省沖縄防衛局に対して出した作業停止指示について、林芳正農林水産相が効力の一時停止を決定しました。新基地建設が遅れれば日米両国の信頼関係に悪影響が出るなどという沖縄防衛局の申し立てを追認した言語道断の決定です。

「日米関係の悪化」が口実

 農水相の決定は、沖縄防衛局が行政不服審査法に基づき、翁長知事による作業停止指示の執行停止を申し立てていたのを受けたものです。同法は行政庁の違法、不当な処分について国民に不服申し立ての道を開くことで「国民の権利利益の救済を図る」のが目的です。国自体が申し立てをすることを基本的には予定していません。沖縄県民の多数が反対している新基地建設を強行するための申し立てが法の趣旨に反するのは明白です。

 農水相は、申し立てを「適法」としました。しかし、新基地建設をなりふり構わず推進する安倍晋三政権の下にある国の機関(沖縄防衛局)の申し立てを同じ国の機関(農水相)が審査して、公平性が保たれるはずがありません。菅義偉官房長官は農水相の決定について「公正、中立の立場から審査し、執行を停止した」と平然と述べましたが、どんな理屈を並べようが、同法をねじ曲げ、悪用したことは誰の目にも明らかです。

 農水相の決定は、翁長知事の作業停止指示によって新基地建設が「大幅に遅れる」ために「普天間飛行場周辺住民に対する危険性や騒音の継続による損害」、「日米両国間の信頼関係への悪影響による外交・防衛上の損害」などが生じることを避ける「緊急性」があるとした沖縄防衛局の申し立てをおうむ返しにしただけです。

 翁長知事は農水相に提出していた意見書(27日)で、普天間基地を抱える宜野湾市民を含め県民は昨年の知事選で「(辺野古への)移設による負担継続ではなく、米軍基地負担を否定する道を選んだ」とし、「(政府が)辺野古移設を『唯一の解決策』であると決めつけて、普天間飛行場の負担の大きさを執行停止の理由として述べることは、…沖縄県民の痛みを感じない、感じようとしない政府の姿勢がある」と指摘していました。この声に全く耳を貸さない農水相の決定は審査の名に値しません。

 翁長知事が辺野古沖のボーリング調査など海底面の現状変更作業の停止を指示したのは、県が岩礁破砕を許可した区域外で沖縄防衛局が巨大コンクリートブロックを投下しサンゴ礁を破壊している問題に端を発しています。県は情報提供や調査協力を再三要請し必要があれば岩礁破砕許可を取るよう伝えていました。これを無視して作業を強行している防衛局に作業停止などを求めたのは当然です。

知事支える運動と世論を

 「日米関係が悪化するから、日本国内法に基づく必要な許可を得ないままに作業を続行させてよいというのであれば、それは主権を持つ一つの独立国家の行動ではない」(翁長知事の意見書)という声こそ、政府は真摯(しんし)に受け止めるべきです。

 沖縄県民の意思を踏みにじり、新基地建設をあくまで押し付けようとする安倍政権を包囲し、知事を支える運動と世論を一層強め、広げる必要があります。