それまでのヤジがピタリとまった。安倍晋三首相の“独演答弁”も消えた。首相は質問中、何度も目を泳がせた―。日本共産党の志位和夫委員長が27、28両日の衆院安保法制特別委員会で行った戦争法案の連続追及です。志位質問は、「平和安全法制」のニセ看板で憲法9条を破壊する戦争法案の危険な正体を、リアリティーをもって浮き彫りにしました。

「後方支援」

武力行使に発展 「殺し、殺される」危険現実に

 戦争法案は、自衛隊の活動地域を「戦闘地域」にまで広げ、「後方支援」の名で弾薬の提供や武器の輸送など米軍への軍事支援を可能にしています。志位質問は、この「後方支援」活動の実態が憲法9条1項が禁止した「武力の行使」になり、自衛隊の「殺し、殺される」危険が決定的に高まることを明らかにしました。

 「戦闘地域」で自衛隊が攻撃される可能性があり、攻撃されたら武器の使用をすることになる―志位氏の追及に安倍首相は、攻撃される可能性も武器使用の反撃も認めました。つまり「たとえ『後方支援』が目的でも、『戦闘地域』としてきた場所にまで行って活動すれば、結果として戦闘することになる」(志位氏)のです。

 質疑の中では新たな事実がわかりました。▽「非戦闘地域」とされたイラク・サマワに自衛隊が携行した武器は、戦車を破壊できる110ミリ個人携帯対戦車弾や84ミリ無反動砲など重武装だった▽アフガニスタン、イラクの両戦争への派兵任務を経験し、帰国後に自殺した自衛官が54人にのぼる―。与野党委員が聞き入りました。

 志位氏は、「戦闘地域」での活動を可能にすれば自衛隊が真っ先に攻撃対象となり、「戦地」派兵で隊員にこれまでをはるかに超える負担と犠牲を強いることになると告発。「若者を戦場に送ることは絶対に認められない」と強調しました。「自衛官54人自殺」のニュースは、スポーツ紙を含め各紙が取り上げ、ツイッターでもまたたくまに拡散されました。

 安倍首相は「自己保存の武器使用は武力行使にあたらない」と繰り返しました。志位氏は、質問をするにあたって外務省が提出した文書で「国際法上、自己保存のための自然権的権利というべき武器の使用という特別な概念や定義はない」と認めていることを示し、「『自己保存のための武器使用だから武力の行使ではない』などという理屈は、国際社会では通用しない」と批判しました。

 この論戦を紹介した「日刊ゲンダイ」29日付は、「自衛隊の武器使用をめぐる法案のデタラメについて攻められた安倍首相は、まともに答えられず、タジタジだった」「安倍首相が志位委員長に、グウの音も出ないほど追い詰められる日は近い」と“予告”までしています。

治安維持活動

死者3500人のISAF型 「参加否定せず」の怖さ

 戦争法案の一部であるPKO(国連平和維持活動)法改定は、特別委員会での質疑ではあまり取り上げられていません。そのなかで改定案の重大問題を明らかにしたのが志位質問でした。

 改定案は、形式上「停戦合意」がつくられているが、なお戦乱が続いているようなところに自衛隊を派兵し、治安維持活動(安全確保業務)をさせようとしています。

 志位氏は、アフガニスタンに展開し、死者3500人を出した国際治安支援部隊(ISAF、2001~14年)のような活動に自衛隊を参加させ、治安維持活動などに取り組むことが可能になるのではないかと追及。安倍首相は「掃討作戦をするような活動はできない」と述べるだけで、ISAF型の参加を否定しなかったのです。改定案の危険を示す重大な答弁です。

 このISAFに、憲法の解釈を変えて参加したドイツ軍の実態をリアルに紹介した志位氏の追及に、委員会室は静まり返りました。ドイツ軍は当初、治安維持や復興支援にかかわるものの、地上での「戦闘状態」に陥り、武器の使用基準を自衛だけでなく任務遂行にまで拡大。結果、35人の兵士が自爆テロや銃撃で犠牲となった―というものです。

 志位氏は「安倍政権がいま進めていることを先取り的に示している」と告発しました。

 「まさに良質の法廷劇を見ているような知的興奮を覚えたものです」。2日目の質問について自身のブログでそうつづった元法政大学教授の五十嵐仁さんは「このPKO活動の拡大もまた、自衛隊が殺し殺される危険性を教えていると言って良いでしょう」と指摘しています。

集団的自衛権

米国の戦争に「ノー」と言えない政府が持つ危険

 究極の米国従属の政府が集団的自衛権で米国と海外に踏み出すことがいかに危険か―集団的自衛権問題の核心を追及したのが、志位質問でした。

 志位氏は、米国が先制攻撃戦略を一貫してとっていることを示し、米国が先制攻撃を行った場合の日本の集団的自衛権発動の可能性をただしましたが、安倍首相は「他国の考え方の論評は差し控えたい」と答弁。

 志位氏は、米国が先制攻撃戦争で行ったグレナダ侵略(1983年)、リビア空爆(86年)、パナマ侵略(89年)に対する国連総会のいずれの非難決議にも日本政府が棄権・反対に回ったこと、グレナダ・パナマについて「遺憾の意を表明した」(岸田文雄外相)といっても政府見解は結論で米国の行動に「理解」していることを明らかにしました。

 さらに志位氏は、米国による「トンキン湾事件」(64年)という捏(ねつ)造(ぞう)で始まったベトナム戦争、大量破壊兵器の保有という捏造で行われたイラク戦争(03年)を無条件に支持し、その後反省も検証もしていない日本政府の対米従属の姿を一つひとつ明らかにしたのです。

 「毎日」29日付社説は「米軍協力の当否 主体的に判断できるか」と志位氏が明らかにした論点を取り上げました。前出の五十嵐さんも「集団的自衛権が行使容認となれば、ベトナム戦争やイラク戦争のような間違った戦争になるでしょう。出撃基地や復興支援などのレベルにはとどまらない戦争協力によって、日本の若者が命を失う危険性は格段に高まることになります」(ブログ)と警鐘を鳴らしています。

 質問の反響は鳴りやまず、党本部には「志位さんは、歴史的に日本がアメリカの言いなりであったことを明らかにして、集団的自衛権を認めれば、アメリカとともに、戦争に向かっていくことがよくわかった。国民に共感できる質問だったと思う」(愛知県の66歳の男性)、「ベトナム戦争もイラク戦争も間違いを犯したのに、反省していない。こんな政府が戦争法案を手にしたら、どんなことになるかと思ったら空恐ろしい」(東京・板橋区の60代男性)などの感想が寄せられています。