自民幹事長演説に対し「憲法守れ」
危険な正体 志位氏追及で浮きぼり
憲法学者の「違憲」発言が衝撃
5月26日に衆院で戦争法案の審議が始まって2週間―。この間、岸田文雄外相の答弁の食い違いや自民・公明与党の強硬な委員会運営などで、審議が中断、途中散会、流会が繰り返されました。衆院で圧倒的な議席数の優位を持つ与党にとって、想定外の厳しい展開となっています。(政党取材班)「抑止力で日本国民を守る法整備」―自民党は7日、青年局・青年部の全国一斉街頭行動で、戦争法案の“理解”を求めました。東京・新宿駅西口で谷垣禎一幹事長は「『戦争法案』とデマを流す人もいる」と反対世論を意識。演説中には「憲法守れ」「戦争反対」のプラカードを掲げた反対派の市民が集まり、騒然となる場面もありました。
日本共産党の志位和夫委員長の衆院安保法制特別委員会での連続追及は、「海外で戦争をする国」をつくる戦争法案の危険な正体と違憲立法の問題を明瞭にしました。
答弁行き詰まり
この論戦を裏付けるように4日の衆院憲法審査会では3人の憲法学者全員が戦争法案に「違憲」の宣告。与党が推薦していた早稲田大学の長谷部恭男教授も「集団的自衛権が許されるという点は憲法違反だ」と明言しました。5日の特別委では、中谷元・防衛相が答弁に行き詰まり、「憲法を法案に適応させた」という逆立ち発言も飛び出して、糾弾の声が高まる展開です。
「『違憲』と言われた影響はかなり大きい」。特別委の自民党委員からは深刻な受け止めの声が漏れます。同党関係者は「執行部が対応、火消しに追われて大変だが尾を引く問題だ。大臣の答弁も苦しくなっており、理解が得られるか厳しい」と焦りを隠しません。メディア関係者からも「政権の正統性が問われる事態」「公明党は憲法上の無理を自覚して、解釈ねじ曲げを受け入れているだけに相当痛手だ」という声が出されます。
破綻済みの主張
こうしたなか自民党は、「決して憲法違反だとか立憲主義の逸脱ということはない」として戦争法案を正当化する文書を同党所属国会議員に配布しました。1959年に安保条約の違憲性について争われた砂川事件最高裁判決を持ち出し、「集団的自衛権を行使することはなんら憲法に反するものではない」などと破綻済みの主張を繰り返しています。
しかし、7日朝のテレビ番組では保守系の評論家から「あまりにも数をかさに問答無用でやろうというやり方は、いくらなんでもちょっとなという感じがする」という厳しい苦言も。「読売」8日付世論調査では、戦争法案について「国民に十分説明していると思うか」について「そう思わない」は80%で、「十分に説明している」14%を大きく上回っています。今国会での成立「反対」は59%で、前回5月調査より11ポイントも増えました。
草の根で広がり ネット拡散一気
戦争法案反対の動きは、保守層も含め、草の根でいっそう広がりを見せています。6、7の両日、全国各地で戦争法案反対の宣伝・署名が取り組まれました。憲法会議の平井正事務局長は、各地の取り組みの報告から、「戦争法案の説明が難しいという悩みもあったが、『憲法違反』の一言で一気に対話に入っていける状況になってきた。潮目の変化に確信が広がっている」と語ります。
若手弁護士調査
秘密保護法や集団的自衛権行使の解釈改憲に反対する若手弁護士でつくる「明日の自由を守る若手弁護士の会」は、菅義偉官房長官が「違憲でないという著名な学者もたくさんいる」(5日)と述べたのに対し、フェイスブック上で批判の発信を企画。独自に調査した結果「違憲でない」と明言しているのは西修、百地章、八木秀次の3氏であることを確認しました。
3氏は、安倍首相に近い、改憲・右翼団体「日本会議」系の憲法学者です。これに対し、戦争法案の速やかな廃案を求める声明を発表した憲法研究者らへの賛同が190人近くに増えていることと対比し、両者をてんびんにかける図をフェイスブック上で発信しました。
同会共同代表の黒澤いつきさんによると、発信は「3日間ほどで7万人以上に広がった」といいます。いつもは平均して5000人ほどの拡散状況であり、今回は通常の10倍以上の広がりです。
「共感は広がるものだなと改めて実感している。この間も、憲法カフェ開催の依頼は増え続けているうえ、『私にも何かできないか。私にできるアクションは』という相談メールも来ていて、連帯の裾野の広がりを感じる」と黒澤さん。
衆院憲法審翌日
衆院憲法審査会で「違憲」宣告が出された翌日の5日。東京大学で安倍政権の解釈改憲に反対する学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」の講演会が開かれました。会場となった東京・本郷の同大法学部講堂には立すいの余地がないほどの聴衆が詰めかけ、急きょ第2、第3会場が設けられました。若い世代の参加が多いことも目を引きました。
基調講演した佐藤幸治京都大学名誉教授は、未曽有の戦争の悲劇を詳しく跡付けたうえで、「熟慮の時間があれば日本人は自ら同じ道を選んだはず」として、「『押し付けられた』といって、その根幹を変えてしまうような議論をいつまで続けるのか腹立たしく思う」と述べました。
行政改革や司法制度改革などで政府委員も務めた保守的な立場の佐藤氏。戦争法案に直接の言及はなかったものの、安倍政治を厳しく批判する樋口陽一東大名誉教授らとともに壇上に並び、政治の現況について気持ちをこめて発言する姿に、共感の拍手がわき起こりました。