柳沢協二・元内閣官房副長官補は「安保法が成立したら、もう一つ海上自衛隊が必要になる」と述べました(5月15日、国会内での記者会見)。海外任務の拡大で、これまでの倍ほどの隊員数が求められることを示しています。でも、任務が拡大すればするほど若者の足は自衛隊から遠のく―。そのことを示す興味深いデータがあります。
自衛隊の幹部を育成する防衛大学校(神奈川県横須賀市)。卒業生は自動的に自衛官(任官)になる仕組みですが、これを辞退することもできます。任官辞退率は、2014年度では5・3%となっており、11年度の1・1%から約5倍に跳ね上がっています(表)。過去のデータを見ると、イラク、インド洋への派兵が続いていた時期も辞退率が高く、派兵終了後はいったんは下がっていました。ところが安倍政権が集団的自衛権の行使を容認する「閣議決定」を行った14年度、辞退率が再び上昇したのです。
自衛隊員も減少傾向が続いています。だからこそ、国家による強制力が働くのではないか―。そういった不安が広がっています。
解釈改憲で徴兵制も
高校生違法勧誘“先取り”の動き
海外派兵に踏み切り、大規模災害への対応も務めるなど、自衛隊の任務は1990年代以降、多様化、拡大の一途をたどっています。ところが、少子高齢化などの影響もあり、隊員の減少傾向が続いています。防衛省資料によれば、1988年の自衛官現員は24万7191人でしたが、13年度は22万5712人で2万人以上減っています。イラク戦争以降、04年度から13年度までの10年の間に限っても、自衛隊員の定員は6020人減少、現員数は1万3718人減少しています。このため近年、「徴兵制」の先取りのような動きが水面下で始まっています。
住民台帳のデータを要求
全日本教職員組合が5月8日に発表した「2015年度高校生の就職内定実態調査(卒業時)」によれば、高校生を対象にした自衛隊の違法な勧誘が行われていることが明らかになりました。全国316校の回答のうち、4県の6校で自衛隊の違法勧誘活動が計7件(北海道1校1件、愛知2校2件、山口2校3件、長崎1校1件)行われていました。北海道では「自衛隊が学校を通さないで生徒の個人宅に行き勧誘活動をしている」という証言があります。
全国高校組織懇談会は5月29日、「自衛隊の違法な勧誘活動の中止」を求めて防衛省へ要請しました。自衛隊が市区町村に対し、住民台帳に基づき高校卒業予定者の氏名、住所、連絡先のデータを要求し、これに自治体が応じていることをただしました。
防衛省担当者は、各地の自衛隊が違法な勧誘をしている状況を把握しておらず、「個別勧誘は違反であり、今後は発見次第に指導する」と回答しました。
憲法18条の「苦役」を否定
横畠裕介内閣法制局長官は「憲法は人権を保障している。(徴兵制は)第18条の意に反する苦役に値する」と述べ、徴兵制導入の可能性を否定します。しかし政府・与党内には異なる考えも存在します。
石破茂地方創生担当相は2002年の憲法調査小委員会で「徴兵制は憲法18条で禁じている奴隷的拘束、意に反する苦役だと思わない」と発言。また19日の衆院安保特別委員会でも石破氏は「安全保障は『政策上』の部分が相当にある」と述べました。
憲法改正推進本部長の船田元・衆院議員も、徴兵制は憲法18条が禁じる「苦役」にあたるとする憲法解釈の変更は「理論上ありうる」と発言しています(14年7月10日、テレビ朝日系番組)。
米国では、貧富の格差により増大した貧困家庭の子どもや、学費のローンに苦しむ学生に対して、奨学金や経済援助などを持ちかけてイラクやアフガニスタンなどの戦地に送り込む手段が常態化しています。
若者の貧困が進めば日本でも同様の危険が考えられます。
徴兵制 国家が一定の年齢に達した国民に兵役の義務を課す制度。戦前の日本は徴兵制を敷いていましたが、戦後は禁止されました。現在の自衛隊は自らの意志で任官する志願制です。世界的には、徴兵制は廃止の傾向が続いています。