2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場問題で一転、「白紙見直し」を17日に打ち出した安倍晋三首相。1週間前まで「計画の変更はできない」と言い張っていました。急転の背景には、戦争法案強行採決への批判をおそれていることがあります。

直後に急落

 「週末の世論調査への対策だ。共同通信ほか各社が3連休で緊急世論調査を行う動きがある。安保法制の強行採決に加え、評判の悪い新国立競技場問題での批判が重なると、政権への致命傷になりかねないと判断した」

 ある自民党議員はこう打ち明けます。白紙見直しについて、安倍首相は17日の会見で「10日ほど前から検討していた」と述べましたが、同議員は「直前に二階俊博総務会長が強く進言した」と指摘します。ところが17、18日実施の「共同」「毎日」世論調査では、逆に内閣支持率が急落する結果となりました。

 「国民の声に耳を傾ける」(安倍首相)というなら、世論の圧倒的多数が今国会成立に反対している戦争法案の撤回も「決断」すべきでした。しかし、違憲法案への批判には絶対に耳を傾けない―。新国立の「白紙」表明で何とか乗り切れるだろうと考えていたことで、安倍政権がいかに世論を見下していたかが垣間見えます。

 谷垣禎一幹事長や菅義偉官房長官は、数万規模で行動する国会周囲の学生・市民に対し「安保やPKOのときほどではない」と見下す発言を繰り返しています(16、17日)。一方で、「学生や若い世代、これまで見られない層が動いている。『これほどか』という感じだ。官邸や執行部も気にしている」(自民党関係者)と政権への衝撃を認めます。「見下し」発言は「おそれ」の裏返しにすぎません。

雲つかむ話

 自民党は戦争法案について、当面、街頭演説を控えるよう指示を出しました。党幹部を含め各地で演説中に公然とヤジや批判を受ける場面が多く、参院審議への影響を懸念したものです。別の自民党関係者の一人は、「地方議会で『反対』『慎重審議』の決議がかなりあがっている。地方の自民党県連に影響し、突き上げもある。総裁選(9月)も近く、放置できない」と述べます。

 参院での戦争法案審議に向かう中、自民党内では「参院で安保法制特別委員会の委員のなり手がなく困っている。『質問しなくていいから』と、かなり無理をしている。多くの議員が法案の説明をする自信が持てない」との声があがります。

 自民党関係者の一人は「何のために地球の裏側まで自衛隊がいくのか。安全保障環境の変化というが雲をつかむような話だ。200時間、300時間やってもはっきりしない」と顔を曇らせます。

 首相が「国民の理解は進んでいない」と答弁した直後に強行採決になだれ込み、戦争法案の正当性はますます失われ、国民的批判は急速に拡大しています。法案を強行しようとするなら安倍政権を打倒する―。その大義をかかげ、たたかいの炎は燃え上がります。(中祖寅一)