安保法案をごり押しするのはなぜ?
番組冒頭、志位氏は戦争法案(安保法案)の違憲性、危険性について、(1)武力行使をしている米軍等への兵站(へいたん)が大幅に拡大し、戦争そのものとなる、(2)戦乱が続いている地域での治安活動が可能となり、これも戦争との境目はない、(3)政府の憲法解釈を百八十度転換して集団的自衛権を行使し、米軍の無法な戦争に参戦する――の3点が国会論戦で浮き彫りになったと指摘。神保氏も、国会での日本共産党の追及にも触れながら、「違憲あるいは違憲の疑いが限りなく濃厚だということは論を待たない」と応じました。そのうえで、神保氏が質問したのは、「ここまで違憲といわれ、問題が露呈しているのに、安倍政権が強行しようとしているのはなぜ」という問題です。志位氏は次のように答えました。
志位 一つは、アメリカとの関係です。アメリカの日本に対する要求に、迎合し、唯々諾々(いいだくだく)と従うという姿勢がある。日本の平和と安定をいかに守るかということから出発した議論ではない、“日米同盟至上主義”があると思います。
もう一つ、安倍首相自身の野望があります。彼は、年来、“日米同盟を血の同盟にしなければならない”ということを、首相になる前から言っていた。そうした彼自身の野望があって、そして“血の同盟”にしていくことによって、日本の世界的な規模での軍事的プレゼンスを実現していく。アメリカ覇権主義の傘のもとではあるが、日本を“プチ覇権主義”の国家にしていきたいという野望があると思います。
野党協力でいま大切なことは何か?
神保氏が「もう一つ聞きたい」といったのが、野党の選挙協力です。「安倍政権が強硬姿勢を崩さないのは選挙で苦戦はしても過半数を失わないと、たかをくくっていることがあるのではないか」、「(安保法案を)廃案にすることが最優先になると思うが、その先にあるもの(選挙協力)はどう思うか」と質問しました。志位氏は、次のように答えました。志位 野党がどんなに反対してもどうせ通るだろうという議論がありますが、私はそうは考えていないんです。国会論戦と国民運動で、圧倒的世論をつくって官邸を包囲すれば、採決不能、立ち往生に追い込む可能性はある。その先の選挙をどうするこうするというよりも前に、まずこの法案を廃案にしないといけない。
そのために、私たちは、衆院段階で野党共闘を追求してきました。共産、民主、維新、社民、生活、野党5党首会談を何回かもちました。5党となると、だいぶ(安保法案に対する)立場は違いますが、「強引な採決に反対する」という一致点はできますから、その点で合意しながら、最後まで衆院段階でたたかいました。この(野党共闘の)たたかいは参院段階で、さらに政党の数は増えると思うけれど、すべての野党が協力して、まずこれ(政府案)をつぶすことですよ。これをほんとうにやらなきゃだめ。通ったあとどうするこうする、そんな話をする段階ではないですよ。
中国、北朝鮮――リアリティーのある危険はどこにあるか?
法案の違憲性は明確なのに、反対を躊躇(ちゅうちょ)する人がいるのはなぜか。神保氏は「多くの人は中国の問題があるだろう、だからこういう法案がなくてはいけないと思っているのではないか」と提起しました。志位氏は「安倍政権が(戦争法案の問題で)最後に言い募っているのは、それだと思います。北朝鮮の脅威をどうするの、中国の問題をどうするの、脅威をあおり立てるというやり方になっていると思うんですね」とのべ、「北東アジア地域にはいろいろな緊張や紛争があります。ただ、紛争問題があるからといって、それに軍事で構えるか。これはよく“安全保障のジレンマ”と言われますが、紛争問題に対して、もっぱら軍事で構えるとなりますと、軍事対軍事のエスカレーションになるわけですよ。これが一番危ない。どんな問題も、外交的解決に徹する、そのために憲法9条の精神にたった外交戦略こそ必要です」と力説。戦争法案にたいする「平和の対案」としての日本共産党の「北東アジア平和協力構想」について説明しました。
宮台氏は、「米国の戦略は地域の分断をはかって日米関係が一番重要だと思わせることだ。実際、尖閣で何らかの紛争があったときに日本のために米国が軍事的出動をするか。いざ中国と何かあれば、米国が助けてくれることが抑止力になっているとの議論は空論ではないか」と提起。志位氏は「その通りだと思います」とのべ、北朝鮮問題を例に“脅威”論のリアリティーについて語りました。
志位 「朝鮮有事」ということが、あたかもリアリティーがあるかのように語られているのですがはたしてそうか。一番わかりやすい事例というのは、1994年に、本当の朝鮮半島危機があったわけですよ。これは、米国のクリントン政権が、北朝鮮の核施設を先制攻撃で空爆するというシナリオだったのです。このときに止めたのは、韓国の金泳三大統領(当時)なんですね。彼が、クリントンに電話をして、“もしそんなことをやれば地上戦になっておびただしい犠牲者がでる、だから絶対にやめてくれ、もし米国が北朝鮮を攻撃しても韓国軍は一兵たりとも動かさない”と談判して止めたのですね。
そのとき、関係国みんなが地獄を見たと思うのですよ。米国も、軍事攻撃すれば、大変な状況になる。韓国も、ソウルの40キロ先は境界線で、大砲の弾が届く距離ですから、これも地獄になる。北朝鮮も破滅することになる。それぞれが地獄を見たと思うんですね。こういう経験を経ているのです。だから私は、「朝鮮有事」がさもすぐおこるかのようにあおられているけれど、そんなものではないと思います。
中国問題のリアリティーはどうか。志位氏は次のようにのべました。
志位 中国との関係を考える場合でも、かつての米ソ関係と、いまの米中関係はまったく違うんですよ。米ソ関係というのは、ある意味で、体制間の衝突があって、どちらかが倒れるまでやるぞという関係ですよね。
ところが、いまの米中関係は、貿易の面でも、経済の面でも、人的交流の面でも、ものすごい相互依存関係になって、一方が倒れたら、他方も一緒に倒れるという関係になっているわけですね。こういう関係の国と国が、正面からの戦争を構えるかといえば、これもリアリティーが著しくない議論であるわけです。
それでは、どこにリアリティーがあるか。ここが肝心なんですね。リアリティーがあるのは何かといえば、アフガン戦争、イラク戦争、実際にやっている戦争ですよ。こういう戦争がおこったときに、日本の自衛隊を動員する。これこそが戦争法案の危険のリアリティーなんですよ。日本の国を守るということとはまったく違う話なんです。
安保法案が廃案になれば、尖閣問題はどうなるか?
神保氏は「おっしゃるように、アメリカが中国と本気で戦争する気があるはずがないのは目に見えている」と応じました。同時に、「残念ながら、(法案に反対でない)3~4割は、尖閣のことを考えるんですね。安保法案が廃案になれば、尖閣の問題はどう考えますか」と質問しました。志位 尖閣の問題にしても、南シナ海の問題にしても、中国のやっている行動については、党として批判の立場を表明し、中国側に率直に伝えています。
たとえば、尖閣の日本の領海内に(中国の)公船を入れてくる。これは物理的な力で対応しようという姿勢ですから、私たちは反対です。私は、中国の大使に、そういうやりかたはやるべきではないと提起してきました。
それから、南シナ海でも、中国は、一方的な行動、乱暴なふるまいをしています。これに対しても私たちは批判の声明を出しています。
同時に、よくみなければならないのは、中国が、尖閣で乱暴なことをやっている、それでは軍隊を出しているか。ここをよくみる必要があるのです。中国は、軍艦までは出していないのです。尖閣の日本の領海に、中国の海軍が入ってきて侵犯をやっているという話ではない。そういうときに、日本の側から海上自衛隊が出て行けば、相手は海軍を出してくることになりかねない。だからこれは外交交渉で解決すべきなのです。
志位氏の指摘に、神保氏も「(先に軍艦を出せば)先制ですよね」「挑発行為なんでしょうね、それは」と一つ一つうなずきます。志位氏は、さらに次のようにのべました。
志位 私たちは、尖閣問題について、日本の領有がいかに正当かを、日清戦争の記録まですべて検討して、徹底的に明らかにする見解を発表していますが、そういう見解をドーンとすえて、日本の領有の正当性を、世界に向かっても、中国政府・国民に対しても説く、相手の言い分をすべて論破する構えで外交交渉を行う、そうした徹底的な外交的解決の姿勢を貫くことが何よりも大切だと思います。
それと、中国が公船を入れてくる行動などについては、やはり海上保安庁が対応する、これが基本です。必要があれば(海上保安庁の)テコ入れもいいです。しかし、そこに海上自衛隊の軍艦を入れちゃったら、相手も軍艦を出してくることになりかねない。それから、集団的自衛権の行使は、まったく関係のない話です。日本の領土をいかに守るかという話ですから。しかも、(求められているのは海上保安庁による警察行動であって)軍事行動ではない。これは二重に違うのです。
宮台氏は「そういう議論が日本のメディアで大々的に展開されることがないので、残念ながらリアリティーのない恐怖のあおり立て、不安のあおり立てがある」と感想をのべました。
日米安保、自衛隊、天皇制どう考える?
議論は、戦争法案の問題から、日本共産党が政権を担ったらどうするのかに発展していきました。神保氏は「(共産党は)秘密保護法案でも一番頑張ったし、今回も共産党の突っ込みが鋭くて素晴らしいのだが、政権というところまで考えて大丈夫なのかというところがまだまだある」と発言。「本当に自民党政権に代わる政権ができるか、共産党も一緒になって自民党の対立軸をつくれるかどうかという意味で、日米関係の問題、自衛隊をどうするのか、天皇制をどうするのか」と質問しました。これに対して、志位氏はそれぞれ丁寧に説明。日米安保条約の問題では、志位氏が「日米安保条約は、国民多数の合意で解消すべきだという考えです。安保条約がないと日本の平和が守れないという議論がよくありますが、安保条約のおかげで日本はまさにアメリカの戦争の補完部隊として動員されようとしている」と指摘すると、宮台氏も「(これまでも)巻き込まれている。攻撃されていないだけで」と応じました。
また、神保氏が「米軍がいなくなったら、自衛隊の増強が必要になってこないのか」と質問。志位氏は「それは逆です。いまの自衛隊は日本を守るというよりも、米軍を補完する軍隊という性格が非常に強いのです」とのべ、安保条約をなくせば、米軍の補完部隊としていびつな構造になっている兵力を削減できると強調しました。また、「在日米軍というのは、日本防衛の役割をもともともっていませんから。そういう意味でも、安保をなくしたら重武装になるというのは、一つの神話なのです」とのべました。
自衛隊の問題では、「安保条約をなくした段階で、自衛隊を一緒になくせるかといったらなくせない。安保条約に反対だという人でも、自衛隊は必要だという人の方が多いでしょう。ですから、私たちが政権を担ったとしても、自衛隊をすぐになくしていくことはできません」とのべたうえで、「私たちが参加した政権が、アメリカとの従属の関係をやめて対等・平等の友好関係を結ぶ。アジアでも世界でもあらゆる国と善隣友好の関係を結ぶ。そして、日本を取り巻く安全保障環境の圧倒的な平和的成熟をつくりだす。そういう現実をみて、もう自衛隊なしでも日本の国は大丈夫だと、圧倒的多数の国民の合意が成熟したときに、憲法9条の全面実施に踏み出していく」という9条全面実施のプロセスを説明しました。
天皇問題では、「いまの天皇の制度は、憲法上、『国政に関する権能を有しない』と明記されています。日本は、国民主権の国であって、いかなる意味でも君主制の国ではありません」と指摘。「憲法の制限条項を厳格に守る限り、天皇の制度は社会進歩の障害にならない」と強調しました。将来の展望としては国民の総意で民主共和制に進むという立場だが、それはかなり先の展望であり、憲法の制限条項の厳格な実施、天皇の政治利用など憲法からの逸脱を許さないことが目標だとしました。
空前の規模で立ち上がりつつある人々と語りあい、連帯していく
また、「民主的変革をめざすのに、なぜ共産党を名乗るのか」の質問には、「一言でいって、資本主義が人類の到達した最後の社会だと思っていないからです」とずばり。さらに、「共産党は機関決定をベースに同じことを繰り返す人が多い」という宮台氏の指摘に対しては、志位氏は次のように答えました。志位 いまの社会の発展のなかで、たとえば国会を取り巻く状況のなかでも、若いみなさんの運動は、かつての学生運動とも違うものになっています。一人ひとりが、主権者として自発的、創意性を発揮し、仲間を広げていくというあり方です。そういうときに、私たちが、画一的に、何かを押し付けてくるというやり方をしたら、もとより共感は得られない。私たちはもちろん政党ですから、決めたことはみんなで実行するという大原則は守りながら、一人ひとりの党員が、自分の言葉で、いま空前の規模で立ち上がりつつある人々と語りあい、連帯していく力をもてるようになるかは、共産党の大事な課題だと考えています。