主張

「総活躍」緊急対策

政治の姿勢が間違ったままだ

 安倍晋三政権の掲げる「1億総活躍社会」を実現するための緊急対策を、政府の「国民会議」が決定しました。最低賃金の引き上げ、保育・介護施設の増設などを「目玉」として盛り込んでいます。しかし、国民が切実に求める拡充の規模には追いついていないうえ、財源の手だてなど実現への道筋はあいまいで、「絵に描いた餅」との指摘が相次いでいます。なにより問題なのは、大企業のもうけを最優先で国民生活は後回しにする政治姿勢が、変わってないことです。大本を改めないままで、あれこれ「対策」を出しても国民の願いにこたえることはできません。

大企業の「成長」最優先に

 「1億総活躍社会」実現は自民党総裁選後の9月末に安倍首相が突然持ち出したものです。(1)国内総生産(GDP)600兆円(2)希望出生率1・8(3)介護離職ゼロの「新3本の矢」を柱としています。財界人らをメンバーに加えた「国民会議」を発足させ、来年春の決定に向けて政策の具体化を行っています。今回の緊急対策は、その「第1弾」という位置づけです。

 保育施設10万人分、介護サービス整備約12万人分を計画へ上乗せするなどを「緊急対応」するとしていますが、国民の深刻な実態を打開するものにはなっていません。現場を支える保育士や介護職員らの処遇改善・増員への手だても極めて不十分で、「夢をつむぐ子育て」「安心の社会保障」という掛け声との落差は大きすぎます。

 一方、緊急対策で鮮明に打ち出したのは、大企業の「投資促進・生産性革命」加速に向けた法人税減税の「確実な上乗せ」です。緊急対策の決定直前に開いた「官民対話」で、首相は経団連など財界代表に「賃上げ」「設備投資増」を求めるとともに、その見返りとして、法人実効税率32・11%を早期に20%台に引き下げることを明言し、来年度から前倒し実施する姿勢をあらわにしています。

 法人税を引き下げても大企業は「内部留保」としてため込むばかりで、労働者のまともな賃上げにはつながりません。そのことは、大企業は空前のもうけをあげる一方で、格差と貧困を広げた「アベノミクス」の3年間がはっきりと示しています。大企業が「成長」すれば、経済が上向き、暮らしがよくなるかのようにいう「トリクルダウン」(したたり落ち)に固執する政策の破綻は明白です。

 官民対話で、経団連は「賃上げ」などの“見返り”として、法人税減税にとどまらず、原発再稼働加速、労働規制のいっそうの緩和など要求をエスカレートさせています。安倍政権は、どこまで財界を増長させるのか。大企業の利益を最優先させる安倍政権の有害ぶりはいよいよ明らかです。

「総動員」の懸念消えず

 保育・介護施設を増設するというなら、なぜ来年度予算で社会保障費「1700億円削減」をやめないのか。低年金者への一時給付金というなら、なぜ年金実質カットを中止しないのか。社会保障破壊路線の大本を正さずして、国民の暮らしの立て直しはできません。

 「1億総活躍社会」は、戦争法への批判や「アベノミクス」の破綻をごまかすため、安倍首相が思いつきで持ち出したものです。具体化が進むなかで、国民を国家のために「総動員」する狙いがますます浮き彫りになっています。