衆院議長のもとに設置された「衆議院選挙制度に関する調査会」(座長・佐々木毅東京大学元総長)が年明けの1月14日に衆院議長に提出する答申案で、現行475の衆院定数を10削減することを決めました。選挙制度のあり方に関する議論もないまま、とにかく削減ありき、民意切り捨てのでたらめぶりを露呈しました。

「根拠」苦し紛れ

 答申案をまとめた16日の調査会後の記者会見で、佐々木座長は定数10削減の根拠について、沖縄返還前の定数が466だったことを突如持ち出し、「それを突き抜けた意味で、戦後一番少ない議席数を提案した」と述べました。一方で「他の基準が、はっきり申し上げてあんまりないもんですから」と語ったように、苦し紛れに持ち出した「根拠」にすぎません。

 同会見で佐々木氏は、諸外国との比較で日本の国会議員数が決して多くないことを認めています。定数削減を求めた各党の主張についても「真意をうかがうことが難しかった」と語り、その主張を聞いても確信が持てなかったことを明かしています。つまり、定数削減の必要性も根拠もまったく示せないのに定数削減を打ち出しているのです。

 佐々木氏は会見の最後に「定数の問題はやっぱり、(議員)ご本人が決めるものであって、われわれが扱うにふさわしい問題であったのかどうか」と述べました。座長自らが疑問を呈した調査会答申。民主主義の根幹である選挙制度に関わる「答申」に値しないのは明白です。

国民の声聞かず

 調査会は、現行の小選挙区比例代表並立制の維持も答申するとしています。

 調査会の諮問事項には「現行制度を含めた選挙制度の評価」が盛り込まれていますが、こうした評価がまともに実施された形跡はありません。

 佐々木氏は16日の会見で、現行制度維持を求める政党が多かったことをあげ「政党のご意見を尊重した形で基本的に進めた」と語り、第三者機関としての役割を果たす姿勢さえなかったことを示しました。

 小選挙区は得票率と議席獲得に著しい乖離(かいり)をつくりだす制度です。

 比較第一党の「虚構の多数」を作り出し、民意の反映を大きくゆがめます。その「虚構の多数」のもとで安倍政権は、先の通常国会で国民多数が強く反対するなかで憲法破壊となる戦争法の成立を強行したのです。小選挙区の害悪をさらけだしました。

 戦争法に反対する全国各地の運動で起きている“民主主義って何だ”というコールは、国民多数の意思に反して進められる「強権政治」への怒りでした。当然、これを生み出した選挙制度も問われなければならないはずです。

 にもかかわらず調査会は、国民の声も聞かず、国民的議論もないまま密室の協議で現行制度の維持を決めたのです。こうした答申が真に民主主義を求める国民の声に応えるものであるはずがありません。多様な民意を反映する制度への抜本改革こそ必要です。

 (前野哲朗)