「緊急事態条項」に関し谷垣氏は、阪神・淡路大震災や東日本大震災をあげ、「普段の平静なときの考え方では対処できないことが出てくる」「普段は考えられないことが起こったときにどういうことができるかの基本原則は憲法で書いたほうがいい」などと、“災害対応策”のように描きました。しかし、憲法に「緊急事態条項」がなかったために、災害の現場でどのような不都合が生じたかについて谷垣氏は何も語っていません。
東日本大震災で最も国民の教訓として残ったのは何か。巨大地震の発生の予測と対策の不備、「原発安全神話」で過酷事故そのものが十分想定されず、対応が後手後手で、政治的無策が際立ったことでした。原発事故はいまだに収束せず、汚染水問題や除染対策など深刻な状況が続いています。
現行法に規定
災害対策の問題は、憲法にあるのではなく、国民の生命・財産を本当に大事にする政治の不足にあることは明白です。現行法においても、災害対策基本法や災害救助法で、内閣の緊急政令の制定権や知事の強制権が定められており、物資の買い占めの規制や施設の強制利用など例外的な権利制限を認めています。憲法上も、人権の制約原理として「公共の福祉」による制約が可能とされ、緊急時の例外的な人権制限を法律上明記することは可能です。
また、衆議院が解散中のときは参議院の緊急集会(憲法54条2、3項)の開催ができ、国会としての意思決定を行うことは可能とされています。
災害対策の最も重要な教訓、鉄則は「事前の準備のないことはできない」ということです。「権力の集中」は無益で、「危機」に便乗した乱用のおそれが大きいとされてきているのです。
問題すり替え
番組で司会者から「法律上の対応でかなりの部分をカバーできるという意見が多い」と指摘されると谷垣氏は、「そういう議論が何を狙っているか。憲法改正に踏み込まないという考え方の方もいる」と改憲の是非をめぐる意見の違いに問題をすり替え、「なぜ災害対策のために憲法改正が必要なのか」という疑問に答えようとしませんでした。
自民党が2012年にまとめた改憲草案(「日本国憲法改正草案」)に盛り込まれている「緊急事態条項」は、「緊急事態」の例として冒頭に「外部からの武力攻撃」をあげています。「緊急事態条項」創設の本質は、「戦争する国」づくりの一環にほかなりません。「災害対策」を口実にした改憲策動は、国民の不信を大きくするだけです。
(中祖寅一)