「いやー、緊張するなぁ…」

 慣れない甚平を何度も着ては脱いではソワソワしている僕。

 夏休みが始まる前は空白ばかりだったカレンダーに、大きく赤丸がつけてある。それが、夏祭りの今日だった。地元ではそこそこの規模で賑わう祭りとして有名なのだ。


 そして今日、僕の一世一代の大勝負がかかっている…。

「やるしかねえええええええ!」

 意味もなくガッツポーズをしながら気合いを入れてみる。緊張と不安で部屋の中にいても汗だくだ。こんな僕をどうぞ愛してくれ、彼女!

 そんなときだった。ピンポーン。チャイムが人の訪れを知らせる。彼女だ。

「お待たせ」

 浴衣姿に目を奪われる。思わず、言葉が出なかった。華奢な体格に上品な柄の浴衣がよく似合っている。思わず見惚れてしまう。

「ど、どうかなあ…?」

彼女が自信なさ気に、上目遣いで見てくる。

「滅茶苦茶、似合ってるよ。綺麗」

僕の返事に、思わず赤面する彼女。そのまま素直な気持ちを伝えただけだったのだが。いや、今日はもっともっと大切なことを伝えなければならない日なんだ…。彼女の手を強く握り返した。



夏祭り会場に着くと、もう既にすごい人だかりだった。盆踊りの会場ができていたり、屋台が何軒か並んでいる。特別に大きなお祭りではないが、地元の人たちは皆楽しみにしているのだ。

「あっ」

彼女がとある屋台を指差す。射撃だった。懐かしい。小さい頃、よく並んではどうしても景品のおもちゃが欲しくて頑張ったものだ。

「やりたい! やろやろ!」

彼女がはしゃいで屋台のところへ走っていく。浴衣姿なのもあって、何とも走りづらそうだ。その様子に思わず僕は笑ってしまう。

「なにー? もー!」

冗談で怒った素振りをしながら頬を膨らませる彼女。ふと持っていた射撃のおもちゃを僕に軽く向けてきた。

「バーン!」

「うっ」

撃たれたフリをしてふざける僕等。これは所謂バカップルなのではないだろうか。後から恥ずかしくなる。

「何、にーちゃん達。お似合いだねぇ」

屋台のおじさんの茶々に、またまた赤面する彼女。悪戯っ子のようで、可愛い。くるくる表情が変わる彼女のことをずっと見ていたくなる。大好きだ。


夏祭りも終盤に近づいたところで、僕たちは疲れて石段に座り一休みしていた。張り切った彼女は射撃で盛大に外してしまったが、おまけで景品を貰ってご機嫌だ。周りに人通りもなく、ムードな雰囲気にお互い照れくさくなる。と、そのとき__

「花火だぁ!」

ドンッ。と、大きな音がして、打ち上げ花火が上がる。一気に下で歓声が上がった。

「綺麗! ねぇすごい! 楽しい!!!!」

花火に照らされる彼女の横顔を見ながら、かけがえのない幸せを感じていた。今だ。言うしかない。

「あのさ」

「えっ?」

僕の珍しく真剣な表情に、戸惑った表情を見せる彼女。

「大好きだ。今まで思いを伝えたことがなかったから、ちゃんと伝えたくて。」

一瞬の間。マズかっただろうか。焦り出す僕の前で、彼女がいきなり涙ぐみ始めた。

「嬉しい。やっと言ってくれた…私も、出会ってから今までずっと大好き…」

ふわっと耳元でいい匂いが香る。抱きついてきた彼女をぎこちなく抱きしめ返す僕。幸せだ。

こうして僕と彼女は、晴れての両想いとなった。