あれから夏の日差しが強まっていくのと同じように、僕らの仲も急速に深まっていた。

「ねー、今日も会いにいってもいい?」


ピコン。彼女からのLIMEが鳴る。

午前11時、何の予定もなく部屋で漫画を読み漁っていた僕は慌ててパジャマを着替えようと立ち上がった。

「いいよー」

彼女との関係は新鮮だった。彼女が初対面の僕のどこにそれほど惚れてくれたのか、深い理由なんて考えてもわからないが、運命なんて使い慣れない言葉が脳裏に過るぐらいには何か少し違ったものを感じているのは確かだったのだ。


コン、コン。


「来ちゃったー!」


「はや。5分じゃん」

と、クールに答えつついまだに彼女と話すと照れる僕。そこで自分の恰好が三年前から着ているパジャマであることに気づき一層赤面する僕。

「えー、玄関の前でちょっと待ったんだよ? こんな早く来たら気味悪がられるかなって」

「どんだけ早く来てるんだよ」

思わず突っ込む僕に、彼女は長い手足をバタバタしながら言った。そんな仕草も、子供みたいで可愛い。

「会いたかったんだよー」




今日は彼女の提案で、ゲームセンターに行くことになった。何故か彼女はゲームやらアニメやらが好きで、その辺りも僕と趣味が合うのだが。

近所のスーパーのゲームセンターなんて、一昔前のUFOキャッチャーぐらいしかないだろうに。意外とインドアな彼女ではあるが、それなりにデート先には気を遣う。

「わーい、ゲーセンだぁああ」

まるで生まれて初めてゲームセンターを見るかのようにテンションが上がる彼女。こんな陳腐なゲームセンターでも無邪気に喜ぶ姿が可愛い。僕の服の裾を少しだけ引っ張りながら燥いでいる。自然と僕も笑顔になってしまう。

「…ほしーい…」

UFOキャッチャーのガラスケースにぴったりと貼りついて彼女が指差した先には、大きなクマのぬいぐるみがあった。

「え、こんな大きいの部屋に置いておいたら邪魔にならない? それに持って帰るの恥ずかしいし」

「やだー、めっちゃ欲しい! あの子が私に拾ってって言ってるの」

何だよそれ。ツッコミをいれつつも、脳内でシュミレーションを早速はじめてみる僕。UFOキャッチャーは中々に得意だ。彼女の前で恰好つけたいという打算的な気持ちもあったけれど。

「あれなら取れるかもだけど…やってみようか?」

「えっ!? 本当に!? お願いお願い! 絶対取って!」

顔の前で手を合わせて僕に頼み込む彼女。勢いに押されて、UFOキャッチャーの前でゲームを始めた。古びたボタンを器用に操作する僕を見て、彼女はすっかりノリノリだ。

「いい感じじゃん! すごいすごい! いけるいける!」

合いの手を入れるかのように茶々をいれてくる彼女。僕はコクリと返事をしながら、クレーンの先に神経を集中させる。あと一押し。クマのぬいぐるみは今にも落ちかかっていた。

「いける」

小声で僕が独り言を言った瞬間だった。ガタン。大きな音とともに、陽気な電子音が流れ出す。

「完了!」

「わああああ! すっごーい!!!!!」

思わず彼女とハイタッチしてしまった。彼女の喜ぶ様子が微笑ましくて、僕もつられて燥いでしまう。

「大切に、するね!」

ぎゅっとクマのぬいぐるみを抱きしめながら言う彼女のまっすぐな目線にドギマギしてしまう。

改めて気づいた。僕は彼女が好きだ。しかし、現状何だかまだ中途半端な関係のままだ。彼女の気持ちは伝わっているけど、彼女に僕の気持ちは伝わっているのだろうか。

 告白、しよう。

 生まれて初めての告白に今から緊張してしまう。タイミングはいつがいいだろう…そうだ、今度の夏祭りにしよう。

「今度、夏祭りも行かない?」

 珍しく僕からの提案に、彼女はぱっと花が咲いたような笑顔を見せる。

「行きたい! 行きたい!」

 また一つ楽しみが増えた。こうして、この夏もまた次の季節が来ても、楽しみが思い出がどんどん増えていく。この幸せがずっと続きますように。心からそう願った。