第5話:異変
「あつーい…」
扇風機の真ん前を陣取りながら、彼女が言う。
「ほんとに暑いよなぁ。あ、あれ食べようよ、スイカバー」
毎日のように部屋に来ては一緒にスイカバーを食べるのが日課だったので、自然と冷蔵庫のストックも増えていた。が…。
「…ごめん、いらない…」
申し訳なさそうに、体育座りをしながら彼女が言う。
「えっ、珍しい! 最近食欲ないよな、大丈夫か?」
この前夕ご飯を食べに行ったときも、明らかに食べる量が少なかった。夏バテなのだろうか。今年の夏の暑さは異常だから、それも仕方ないのかもしれない。
「大丈夫大丈夫! ごめんね、心配かけて!」
取ってつけたような笑顔。
あの海の一件から、なんとなく気づいていた。彼女の様子がおかしい、と。
何かを隠している。でも、それについて彼女は頑なに口を閉ざし、何も語ろうとはしなかった。僕が詮索しても、乾いた強がりを見せるだけだ。
急に不安になることが増えた。
彼女の様子が気がかりで、ともすれば問い詰めたい気持ちを呑み込んで無言になることが増える。そのたびに、また彼女は更に不...