第24回目となるMAAインターバルレクリエーションは、2022年上半期の芥川賞、直木賞の受賞作について感想を語り合う催しとして開催しました。
芥川賞と直木賞、読書好きの人でも、この2つの文学賞の違いについて、あまりよく知らない(この文章を書いている自分も、実はよくわかってませんでした)人は少なくないと思います。そこで、今回のレクリエーションレポートでは、2つの文学賞の違いをおさらいしつつ、受賞作の紹介と感想会の様子をレポしていきます。
まず、芥川賞と直木賞、どっちが格上なの?という話を、身近でよく聞きます。実際には、対象とする小説の種類が違うので、格上も格下もないわけですが、人というものは同じ対象に2つ以上の賞があると、順位付けをしたがるもののようです。
ちなみに、私の身近では芥川賞の方が格上、と考える人が多いのですが、それはおそらく、次の段で述べることが影響してるのかな?と想像しています。ま、本を読む側としては、文学賞の格付けなんて、どうでもいいんですけどね。人それぞれ、面白いものがその人にとってのいい作品。文学賞は、良書にたどり着くための道標のうちのひとつ、ではないかと。
さて、芥川賞と直木賞の違いですが・・・。
芥川賞が、「純文学」(=読者に媚びず純粋な芸術を目指した文学作品。哲学・私学を含む広義の文学に対し、美的形成を主とした詩歌・小説・戯曲などの作品の類。)を対象とした文学賞であるのに対して、直木賞は、「大衆小説」(=大衆の興味や理解力に重点を置いて書かれた文学。時代小説・推理小説・SF・風俗小説・家庭小説・ユーモア小説・少年少女小説などの類。大衆文芸。)を対象としている、という点で、そもそもの対象が異なります。
(出展:「コトバンク」三省堂 大辞林 第三版)
・・・なんか頭いい人ぶって(笑)、辞書の引用までしてダラダラと書きましたが、簡単に言えば、
「純文学」
=文章の美しさや表現の多彩さを重視する文学
「大衆小説」
=エンターテイメント性やわかりやすさを重視する文学
と言い換えることができるでしょう。
そういう前提で、2022年度上期の受賞作を紹介します。
「芥川賞」
:「おいしいごはんが食べられますように」著・高瀬隼子
「直木賞」
:「夜に星を放つ」著・窪美澄
余談ですが、タイトルだけ見たとき、「これ、受賞作、逆じゃね?」と思うくらい、芥川賞の受賞作タイトルに違和感を感じたのは私だけでしょうか?あくまでも、タイトルだけですが。
次に、それぞれの受賞作について感じたことを書かせていただきます。
「芥川賞:おいしいごはんが食べられますように」
どこか「柔らかい」印象を受けるタイトルですが、純文学らしい表現の美しさや、深堀りしなければ理解が難しい文章でつづられるのは、一般的な「普通」とは少し違う主人公とそれを取り巻く人間模様。程度の差こそあれ、「ああ、こんな人いるよね」と会社勤めの人なら、どこかで経験したことがありそうな、日常の中にある人間の「負」の部分が描かれており、個人的な感想ですが、いかにも「芥川賞らしい」作品でした。
「直木賞:夜に星を放つ」
五編の短編を一冊にまとめた作品。同じ時期に執筆されたわけではなく、各短編の執筆時期はバラバラです。ただ、各編がタイトルにある「星」や「星座」をモチーフにもしていることと「人とのつながり」を描いているという点で共通しており、一冊にまとめたことに対する納得感がありました。
これもまた個人的な感想ですが、読みやすいけど、主人公たちをもうちょっと幸せにしてほしいと感じた作品でした。
あとは実際に読んだ人それぞれで感じることも思うことも違うと思いますので、このレポを読まれて、少しでも興味を持った方は、本を手に取っていただければと思います。
ここまでは私個人の世界。ここからは、2022年9月10日に開催したオンラインレクリエーションの様子を簡単に書いていきます。・・・と言いつつ、いきなり閑話を挟みますが、コロナウイルスの流行を機に始まったZoomでのオンラインレクリエーションも数を重ね、ずいぶん慣れてきました。コロナウイルス流行の功罪は、罪の方が圧倒的に多いわけですが、唯一、功と言えるのは、多くのMAAのメンバーが在住する地域以外の地方メンバーもリアルタイムで参加できるようになったこと、でしょうか。
かくいう私も遠隔地に住んでいるので、自宅に居ながらにしてメンバーと交流できることは、大きな収穫だと感じています。
閑話休題。本編です。
参加メンバーの中には、2作品とも読んだ人、1作品だけ読んだ人、時間がなくて途中までしか読んでいない人、と作品の読了状態は様々でしたが、それでも問題ないのがMAAの懐の深さ(笑)。人の意見を聞いて考える、ということこそが重要なので、意見を聞いてから気になった本を読んでもいいわけですからね。
メンバーそれぞれが感じたことで、共通していたのは、「芥川賞作品は、読後感がもやもやした」ということでしょう。
作者自身が、「創作のきっかけは“ムカつく”こと」だと語っていますが、日常にあるもやもや、イライラ、そういったものを文章に昇華させているのだと考えると、読後に、もやもやしたものを感じた、というのは、作者の狙い通りなのかもしれません。
昨年度も2021年度上期の芥川賞受賞作品で同様のレクリエーションを開催しましたが、一人ひとり注目した部分がそれぞれ異なっていて、それはそれで楽しかったのですが、今年は皆が声をそろえて「もやもやした」なので、ある意味、見事なものだと感じます。
一方の直木賞作品は、「読みやすい」、「コロナ禍の今を表現した秀作(真夜中のアボカド)」など、おおむね好意的な意見も多かったのが特徴的でした。
ただ短編ゆえに展開が唐突だったり、描き切れていないような部分を感じた方も多く、少し浅い感じがあったのは否めないというのが、メンバーの感想を集約したところでしょうか。
恥ずかしながら、作者である窪美澄さんについては全く知らなかったので、今回のレポを書くにあたって少し調べてみたところ、「心の内面をえぐるようなアクの強い作風」が持ち味の作家さんだそうで、今回の受賞作はこれまでの作品と比べると「おとなしい」、言葉を選ばずに言えば、「少し物足りない」部類に入るようです。
確かに、文章は心の表面をなぞるような表現で、登場人物の心の内側は読者の感性に委ねているような印象を受けました。各編の主人公が少年や少女、比較的若い世代の人物になっているので、敢えてそういう表現をしたのではないかな、と思います。
最後に、MAAメンバーにこの作品を二度読みしたいか、という質問がありましたが、ほぼ全員が「二度はない(笑)」だったのが、MAAの総意ということで、今回のレポートは締めくくりたいと思います。
今後も、良書との出会いを心待ちにしながら。記:katahofuzuki