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  • 第10回文化レクリエーション…YAMAHAイノベーションロード&ハーモニープラザ(ピアノ工場&EXPOピアノ)見学

    2019-02-22 08:00

     平成30年度最後の文化レクリエーションは浜松市にあるYAMAHAイノベーションロードと掛川市のピアノ工場(ハーモニープラザ)を訪問。本会はネット上の音楽コミュニティをベースとして発足した性質上、会員にとって非常に親和性のある企画となりました。集合は浜松駅。新幹線を降りて改札に向かうと早速ピアノが出迎えてくれました。時折、ここで華麗な演奏をしている動画がYouTubeに上がっていますが現物を見ると感動するものですね。まさに楽器の街といったところ。改札を出るとたくさんの「餃子」の看板が目に飛び込んできます。毎年、浜松と宇都宮で日本一を争っているのも頷けます。浜松餃子、レク終了後にはしっかりと堪能してきましたよ。

    - 浜松駅構内のピアノブース -
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     当日は絶好の晴天で、YAMAHA本社の青味ある外壁と深く溶け合っているかのようでした。イノベーションロードはここに併設する形で2018年7月にオープンした新しい施設です。詳細な展示内容については公式サイトを参照ください。見学には必ず予約が必要とのことなのでご注意を。100円返金式のコインロッカーも整備されていて好印象です。施設内は「動いている対象物(動画等)」以外は撮影自由。

    - YAMAHA本社・INNOVATION ROAD・エントランス -
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    - イノベーションロードのドーロ(言いたいだけ) -
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     入場してまず驚いたのは、展示してある多くの楽器が「演奏可能状態」で置かれていることでした。ピアノやシンセサイザーはもちろん、アコースティックギター・エレキギター・管楽器・ドラムスに至るまで、キチっとチューニングされていて気持ちよくプレイすることができます。
     ピアノはグランド・アップライト・エレクトリックと網羅的に設置されていて、やはり強い関心を引くのは同社の最高級シリーズ「CFX」グランドピアノが弾き放題となっていることでしょうか。気軽に触って良いものか戸惑いも感じつつ打鍵・音色を楽しみました。「いつかは家に置きたい」とは思えない価格でしたけれど(苦笑)。会員も思い思いに演奏を楽しんでいたようです。「次来るときは、事前に練習してから!」と密かな決意をしたという噂もチラホラと…。

    - 展示楽器群 -
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     シンセコーナーは入場してすぐのブースに。私自身がシンセクラスタなので今回の楽しみの一つでしたが「まさかの出会い」があったのです。伝説のシンセ「VP1」が鎮座しているではありませんか。これまで氏家克典氏のセミナーに参加した時に「VL1」を目の当たりにしたことはあったのですが、最上位モデルのVP1には接したことがありませんでした。それこそTMNの終了ライブ映像(LAST GROOVE)の中でしか確認できなかった超絶レアシンセです。それが音出し出来る状況でサラッと設置されているのですから驚く他はありません。どうやっても出せなかったあの音、すぐそこにありました。ホント「YAMAHAさんありがとうっ!」と叫びたかったですよ。ちなみに当時の販売価格は270万円程とのことです。

    -最上段にVP1-
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    - VP1に興奮 -
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    - 最上段に浅倉大介さんのサイン入りEOS B500が -
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     その他、YAMAHA社史に触れて我が国の音楽産業をどのように支えてきたのかを知り、スーパーサラウンドシアターで音のシャワーを浴びて、音響機器コーナーでPA体験、バーチャルステージでの自動演奏を観覧するなどしていると小一時間はあっという間に過ぎ去っていきます。特にPA機器を触りながら思ったのですが、こうした機材は暗いライブ会場での運用も必要な故かコントロールサーフェスの視認性が高かったのが印象的でした。シンセのフィジカルコントローラーにも同程度の実装があると理想的なのに、と感じた次第です。暗いところでシンセを弾いてるとエフェクト系のそれも色々と見えないので困ってしまうのです。YAMAHAに限らず楽器各社には改良を期待したいところではありますね。

    -PA機器・ヴァーチャルステージ・楽器遺産・音叉マーク-
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     存分に楽器に触れて心身が満たされきったところで見学時間終了。人間と音楽って精神的な充実のためには分かちがたい結びつきがあるのだなと感じないわけにはいかなかったですね。見学後、イノベーションロードから掛川市のピアノ工場へ移動です。40分程の移動車中では興奮冷めやらぬ会話が飛び交っておりました。各自用意したお弁当を頂きつつ、「アスファルト タイヤを切りつけながら」ピアノ工場へと走ります。果たして待ち受けるものは!

    - イノベーションロードエントランスにて集合写真 -
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     路面に鍵盤模様があつらわれたYAMAHAハーモニープラザ敷地内に滑り込んだ我々。この後の時間に期待を膨らませつつ建物に入っていきます。ピアノ工場の「迎賓館」的な立ち位置の施設と言って良いでしょう。早速受付を済ませて室内を見回していると本日一番の衝撃が訪れます。噂に聞いていた「小室哲哉スペシャル・EXPOピアノ」が眼前にいらっしゃるではありませんか!!
     青春時代に幾度も見返したTMNのライブビデオ(VHS…)。小室さんが華麗に奏でた「あの伝説のピアノ」が眼前に。圧倒的な本物感、威圧ではない迫力、それでいて包み込むような存在感、その全てが神々しい。気付いた時には夢中でカメラのシャッターを切っていました。きっと、他の会員も近しい感慨を持っていたのではないかと思います。このピアノについては後程語ります。

    - ハーモニープラザ外観・エントランス・EXPOピアノ -
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    - ピアノハンマーの挙動を見る -
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     見学にはMAA会員以外の参加者も数名いらしてました。ここもイノベーションロードと同様に完全予約制です。ただ、こちらは平日のみの開館とあって日程の自由度は高くありません。工場稼働日に合わせているのですから当然と言えば当然ですね。全員の受付が終了後、案内の方に従って見学開始です。ピアノに使う木材の伐採、乾燥、切断、金属成型といった工場外での作業を映像で視聴します。その後、実物の木材を見ながら見学開始という流れ。ピアノ弦を叩く鍵盤のハンマーに使われるフェルトは、なんと2トンの力で巻き付けられているのだとか。想像外の数字に一同唖然としていました。

    - ピアノ使用木材・グランドピアノ断面模型・端材ツリー -
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     敷地内を歩いて工場に向かいます。細かい解説はここではしませんが(是非現地で説明を聞いてみてください)、張弦作業、弦を巻きつけるためのピンを打つ機械作業、複数回に渡る調律、使用国の環境に合わせた湿度管理(慣らし)、塗装工程、鍵盤高の調整、弾き心地の調整、機械による打鍵検査(300回!)、別ブースでの特注品製造、梱包に至るまでの一連の流れを目の当たりにすることができます。製造中のピアノが工場内をあちこちと移動するための信号機が設置されていて、実際に動いてくる姿を目にすると可愛げがあって微笑がこぼれます。その際、注意喚起のために誰もが知るメロディが流れるのがお茶目だなと感じました(サザエさんとか)。グランドピアノは一日に30台、アップライトピアノは50台ほど製造されるとのこと。合わせて年間2万台前後の生産になるようです。その出荷先の多くは海外、特に東南アジア・中国方面が多いという話。海外市場抜きには経営が成り立たないのが現実なのだなと再認識することとなりました。ざっと1時間程度の説明を受けてハーモニープラザに戻ります。
     ピアノは生き物。同じく木を原材料にする各種ギターもそうですが、同一製品でもそれぞれ鳴り方は異なるのだそうです。そのため高価格帯のピアノについては同じ商品を3台用意して、試奏の上で選択してもらうのだとか。私もお役を仰せつかって鳴りを確認させてもらいました。確かにそれぞれの音の傾向というものがあるようで、こういう仕組みを用意するのは顧客満足度を高める意味からも大事なことなのでしょう。もちろん音についてはあくまで好みの問題でしょうけれどね。「選択できる」という点は良いことだと思います。見学者へのお土産としてピアノハンマー(フェルト)を貰えます。

    - お土産のハンマー(フェルト) -
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     さて、私たちにとっては工場見学が終わってハーモニープラザへと戻ってきて…からが真のミッションのような(笑)。見学予約時の案内では「状況次第でEXPOピアノを試奏可能な時間が取れるかもしれない」というニュアンスで受け止めていたのですが、いざそのタイミングになると弾き放題の様相でした。工場見学後に他のお客さんがいない状況になったらMAAの独占となってしまい、幸せこの上なかったですね。この日は偶然に本会の他には予約者も少なく空いていたので運が良かったのでしょう。なお、このピアノは設置当初からしばらくは「お手を触れないでください」という見学専用の扱いでしたが、方針転換によって演奏可能になったそうです。訪問者側の心情に立ったYAMAHAの配慮はとても好感が持てるものですね。

    - EXPOピアノ -
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     弾ける弾けないに関わらず全会員がEXPOピアノに向かい合って写真撮影を。あのシンボリックな椅子もそのまま座ることができて、つかの間の「小室気分」に浸ることが出来たことでしょう。「月とピアノ」のテーマの世界観に緊張というか、感動というか、没入というか、複雑な「圧」が同時にかかってくる特異な体験をしたことは間違いありません。会員たちは皆、いつまでもピアノ周辺をウロチョロ、パシャパシャ、ナデナデ、屈みこんで本体の裏面チェック、椅子の持ち上げ等々、もしかするとハーモニープラザの職員さんからは「挙動不審軍団」に見えたのではないでしょうか(苦笑)。鍵盤クラスタの会員がプレイを始めると途端に聞き覚えのある音色が室内に鳴り伝わります。緊張の面持ちが傍目からもはっきりと感じ取れましたが、一方で深い充実感も去来していたに違いありません。 
     私自身、ありがたいことに演奏する時間を頂くことができました。もしプレイできるなら迷いなくTMN EXPOツアーで披露された「1991」を奏でてみようと決めていました。深呼吸して鍵盤に向き合います。VHSの先の小室さんの姿を脳裏に浮かべながら打鍵を始めると言い知れぬ感情が私の胸奥を包みます。思考は真っ白に、呼吸が幾分早く、血圧の上昇すら感じる始末。普段なら割とスラスラと動いてくれたはずの指も今日はガクガクに。説明できない「震え」があったのをはっきり覚えています。自分の中にNGが連発で出されるのです。もちろん「このピアノだから」ということがあるわけですが、同時に演者のプレッシャー自体についても脳裏をかすめます。それらを乗り越えていく方々に言い尽くせぬ敬意を抱くものでもありました。もちろん演者・プロフェッショナルというものはそういうものでしょうけれど、なかなか自分には出来ないことだなと思うばかりです。(参考動画:1991Time MachineIn the FactoryWe Love The EARTH/大地の物語

    - 思わず手を合わせる -
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     あれこれと会員が各々で室内を周遊中にハーモニープラザの職員さんと会話したのですが、「このように団体でEXPOピアノを目的に訪れたケースは初めてですよ」と言っていたのが意外でしたね。もちろん個人での来訪はそれなりにあったようですけれど。いつまでもEXPOピアノに取り付いている私たちを見て「皆さん、小室さんのファンの方々なんですね」と仰ったので「見たまんまですねぇ」と応答しました(笑)。このピアノについてはYAMAHAとして金額は設定しておらず、なんと「備品扱い」なんだそうです。会計上、動産として処理する必要があるのでしょう。それにしても「備品」という響きと実態の愛でられ方との乖離が甚だしくて、まさに「月とピアノ」の距離感のようなコントラストを感じたのも印象的でした。

    - 固定資産票 -
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     施設内にはYAMAHAの最新技術で作られたアップライトピアノも展示されており、説明によると「デジタル音源をピアノ響板で鳴らす」という製品とのこと。通常、デジタル音源を鳴らすのはスピーカー(本体内蔵であれ外付けであれ)と相場が決まってますが、タッチ感や響きをアナログ処理できる面白いピアノだと感じました。需要としてはニッチなところでしょうけれど、過去にない技術的アプローチが新たな音楽的感性を生むかもしれませんね。
     以上、イノベーションロード・ハーモニープラザ・ピアノ工場の訪問レポでした。総じて言えるのはYAMAHAのユーザーフレンドリーな企業姿勢がとても素晴らしかったということです。今回参加した催しは要予約ですが全て無料となっており、音楽愛好家のみならず、各種教育機関における社会見学の対象ともなっているようで広く社会に有益な場を提供していると感じます。特に「音を出せる状態で展示している」という点は高く評価したいですね。楽器というのはメンテナンスを必要とする「生き物」でもあります。不特定多数の人が直接触るのですから、調整頻度の多さやそのコストを考えると少なくない企業努力が投じられているものと考えて良いでしょう。

    - EXPOピアノと集合写真 -
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     夢のような時間はあっという間に過ぎ去っていくものです。精神的には地に足が着いていないふわふわ感を抱きつつ、最後にEXPOピアノを囲んで会員と記念撮影。もう陽は地平線に向かって身を沈めにかかり、代わって月が静謐に挨拶し始める時間となっていました。「月とピアノ」がTMNによってテーマ化されてから28星霜。またいつの日か、このピアノと生みの親たる発注者が邂逅する日のあらんことを願いつつ、私たちはハーモニープラザから「音のない世界の中」へ、帰還・潜伏することとなったのです。

  • 第7回インターバルレクリエーション…東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」

    2018-10-14 19:00
     
     第7回インターバルレクリエーションは、東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」です。
    開催概要はこちらへ。http://www.duchamp2018.jp/

     筆者の発案で開催となりました今回、同行した皆さんの感想は概ね「難しかった」「よく分からなかった」とのこと。実はこの「モヤモヤしてスッキリしない」感こそが、デュシャンをはじめとする「コンセプチュアル・アート」の特徴であり、大きな魅力の一つなのです。しかし展覧会上、来場者にとって「デュシャン以前/以後」をつなぐ情報が不足していた感も否めません。そこで本レポート後半では、筆者の目線から少しだけ補助線を引いてみたいと思います。筆者はアートの専門家ではありませんので、間違いや誤解があればぜひ忌憚のないツッコミを入れてください。

     まずは展覧会について。作品群は見どころが多く、しかもほとんどの作品がなんと撮影自由! 大変満足できました(撮影自由はレディメイドっぽい価値観を感じますね)。冒頭の「車輪」に続き、初期の風景画や水彩画(fig.01)は技巧的に美しく、印象派革命を起こしたマネ(この方もめちゃくちゃ絵が巧い)と同じく「守破離の道は確実な基礎と技巧の上に成り立つ」ことをあらためて感じます。その後のキュビスム傾倒時期の作品群(fig.02)についても、物理的に破綻のない、理知的なアプローチが小気味良い印象でした。

    -fig.01-ピアノを弾くマグドレーヌ 1900年 水彩、鉛筆、紙-
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    -fig.02-キュビスム期の作品群-
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     そしてお待ちかねの大ガラス(fig.03)、そして"便器"をはじめとしたレディメイドたちがお出迎えです(fig.04)。

    -fig.03-彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)東京版 1980年(複製/オリジナル1915–23年)-
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    -fig.04-レディメイド作品群-
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     ここから後半に移りましょう(展覧会後半ブースの日本美術については言及を割愛します)。

     「芸術作品って何ですか?」と問われたら、皆さんはどう答えるでしょうか。「絵画や彫刻、音楽やお芝居、小説や映画」あるいは「形態を問わず、作者の思いを表現したもの」と答える方もいるでしょう。または「美しいもの、感動するもの、歴史を伝えるもの」と仰る方もいるかも知れません。

     もちろん、いずれも正解です。では、マルセル・デュシャンならどう答えるでしょうか。

     デュシャンは「レディメイド」の発見によって、上記のように我々が無意識的に常識としている「芸術作品の定義」に対し、「本当にそうなの? 本当にそれだけなの?」ということを真正面から(あるいは軽やかに)問いかけ、世の中に送り出した初めての(有名になった)人、と言えるのではないかと思います。

     ここで2枚の写真を見てください。1枚目(fig.05)はコップの写真ですね。だから何、というただの写真です。2枚目(fig.06)はどうでしょうか。「筆者がフザけて加工したんだな」と思われたかも知れません。でも「実はこれ、2枚セットでR.J ファンデルートさんのれっきとした美術作品なんだよね。ファンデルート? あぁ、フランスで19世紀に活躍した彫刻家なんだよ」と言われたらどうでしょう。

    -fig.05-
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    -fig.06-透明を憧れる肉体、さえも R.J ファンデルート 1893年-
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     デュシャンは既製品「=レディメイド」である便器(しかもよりによって便器!)に、「泉」という作品名を与え、さらに偽の作者名で署名を付すことで、他のアーティストにも観客にも、要は世の中に対し「芸術作品の定義」を強烈に問いかけ、揺るがせたのです。ポジティブに言い換えれば、「誰かが思いを表現したものではない、身の回りにある既製品でも美しいものは美しいのだ。みんな気付こうよ!」という問いかけであり、シニカルな側面を強調して言い換えれば、「本当は美しくも何ともないものを、君たちは芸術家の署名だけ見て"美しい"と勘違いしていないか?」という問いかけなのです。

     デュシャン以降、芸術作品、ひいてはアートというものは、それ以前のような「作者の思いを表現した絵画や彫刻を美術館(に類する場)に陳列し、観客という役割を自認する訪問者が相対(あいたい)し、味わう」世界観から、それだけではなく「作品が与え得る価値がそもそもいかなるものなのか、観客側に多角的な自問自答を強いる」ような世界観にも拡大した、と言うことができるでしょう。つまり、作品が持つ直接的な美的価値、技巧的価値を評価することよりも、作品が持つ立体的な"意図"=コンセプトに相対することがアートの主戦場になっていきます。

     従って我々は現代アートに接すると、どうしても「難しい」「よく分からない」 「スッキリしない」 感に陥る機会が増えてしまい、そしてそれこそが「コンセプチュアル・アート」の楽しみ方でもあるのです。ちなみに「大ガラス」は筆者にもサッパリ意味が分かりません(笑)。でも、それでいいのです。そのモヤモヤ感を家に持ち帰り考え続けること。それも価値のひとつなのですから。そう、アートとは「価値に関するもの」 なのです(筆者が若かりし頃、某教授に「アートって何ですか?」という雑な質問をした時の回答) 。

     2018年、覆面芸術家のバンクシーは、自身の作品がオークションで落札された瞬間、予め額縁に仕込んであったシュレッダーによって破壊されるという驚くべきパフォーマンスを行いました。これは単なる悪ふざけなのか、デュシャンを起源とする「コンセプチュアル・アート」の歴史に刻まれ後世に語り継がれる一幕となるのか、あるいは「全く新しい何か」なのか。答えは誰にも分かりません。

     デュシャンが拡げた波打つ大いなる風呂敷に揺られ、考え、悩む。そんな風に現代アートを楽しんで行こうではありませんか。(記:A.W)

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  • 第8回文化レクリエーション…大相撲9月場所7日目

    2018-09-25 12:00


     昨今、協会内外での喧噪が散見される大相撲ですがレポートしていきます。本会としても非常に重要視する行事でした。当日は朝から雨模様の中、両国駅に集合して意気揚々と国技館へ。今回の企画は団体予約を受け付けない土曜日にも関わらず桝席(以下、桝)をべた押さえするという特別な配慮を頂いての開催。手配に尽力下さった関係者の皆様に深く感謝しております。


    - 両国駅構内は相撲色 -
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     国技館への入場も通常口ではなく「お茶屋さん(案内所)」を通ってのもの。それだけでも高揚するような気さえしたものです。指定されたお茶屋さんの出方さんに誘導されて、いよいよ場内へ。テレビで目にする「あの画」が目前に開けてきた時には「おおおおー」と声が上がりました。恥ずかしながら興奮が抑えられないといった胸の内。

    - 国技館入り口・お茶屋さん通路 ・土俵全景(取り組み)-
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     MAAが押さえることのできた桝はいずれも正面でした。二手に分かれており土俵に近い側と最後列のNHK実況席前という双方とも超が付くほどの良席。私は後者の桝でしたが生中継の様子が後ろから聴こえつつ、目にしているのは本物の土俵という特異な体験をしたと言って良いでしょう。画的にもこの桝は「相撲中継そのもの」の画角でしたね。どんなスポーツ・行事・催事でも言えることですが、やはり生で接する迫力は格別なものがあります。

    - 放送席・実況風景-
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     私たちは相撲観戦時の作法については知識がなく緊張感をそれなりに持っていたのですが、実際はあまりセンシティブにならなくても大丈夫ではないかと感じました。心づけに関してもそれぞれ桝ごとにポチ袋を用意して、出方さんに渡すという対応で問題なかったですね(出方さんはお茶屋さんに所属しており、担当する桝に座るお客さんの手伝いをする役割の人)。先方から要求を受けるということもないので、あくまで「心次第」といったところではないかと思われます。大相撲観戦をサポートしてくれることに対する、感謝の心情を具体化する営みが伝統的に形成されてきたと想像します。出方さんは注文した飲食物などを持ってきてくれるのですが、残念ながら各席には彼らを「呼び出す機能」はありません。時折担当する桝を巡回しており、そのタイミングで声を掛けることになります。席を立つことなく様々な食事(名物の焼き鳥、枝豆、日本酒など)を運んで来てくれるのはちょっとした特別感もあって嬉しく感じますね。地下にはちゃんこ屋さんもあって、リーズナブルに本場の味を楽しむことが出来ます。国技館ならではの食べ物の一つでしょう。
     
     「桝」そのものについてですが、4枚の座布団で一つの区切りとなっています。大人4人では窮屈を感じるのは避けられそうもないです。私たちは3人で「一桝」と設定しましたが、周囲を見ると4人ぎゅうぎゅうの方もいるにはいらっしゃいましたね。荷物が隣席にはみ出てしまっていて、やはりあまり現実的ではないような気がします。女性会員は3人横並びで足を延ばして座るという使い方をしておりましたね。国技館内の食事処やここならではの食べ物を注文したりして、午前中からの長丁場を楽しんでいた様子。また、場内には相撲博物館が併設されていて自由に入場ができます。過去の大力士にまつわる展示などが中心のようです。場所開催中は国技館への入場券が必要ですが普段は無料で見られるとのこと。

    - MAA女性桝の様子・館内飲食物等・相撲博物館内 ・力士入場-
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     観戦ですが結論から言って大興奮・大満足・大感謝の1日でした。先場所優勝で長野県出身の関脇・御嶽海関、横綱・稀勢の里関、白鵬関、鶴竜関といった主要力士は皆勝利。ある意味で「勝つべき力士が勝つ」ということが会場の盛り上がりにも繋がる部分もあるのでしょう。今回、長野県から2名の会員が参加してくれていましたが、御嶽海関の勝利に直に接したことは大きな喜びとなったのではないかと感じます。また、大阪出身の会員が豪栄道関を応援するシーンもあったりで私もその場を共有できて歓喜もひとしお。同県人の活躍は掛け値なしに胸を揺さぶるものですよね。254勝10敗の大関として有名な雷電為右衛門関も長野県出身とのこと。御嶽海と聞くと雷電為右衛門が紐づく知識となりました。永谷園の広告を見るとホッとするのは、それだけ大相撲とセットの印象が深いからなのでしょうかね(笑)。

     この日は午前中から会場入りしていたので序の口~幕下の取り組みもじっくりと見ることができて、濃密な時間を過ごせたかなと思います。通な人だと序盤に登場する力士を見て「大成するか否か」を考えたりするものなのかなとぼんやり考えたりもしていました。以下に写真も置きますが、白鵬関の取り組みでは「腰砕け」という珍しい決まり手も飛び出して会場が沸いていましたね。

    - 土俵全景・懸賞広告と言えば永谷園・取り組み・星取表・弓取式 -
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     また、
    会場には直前に女子テニス全米オープンを優勝した大坂なおみさんも観戦に来られていて、入場時はかなりざわざわと。普段は「観られる側」でしょうけれど「観る側」になる姿はなかなかにレア度の高いことではないでしょうか。米国育ちと聞いていますが日本文化にも強い関心を持っているそうですね。

    - 大坂なおみ選手も来場 -
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     それと、もう一つ忘れてはいけない貴乃花親方についてです。この日も審判部としてその任に当たる姿を目の当たりにしていました。物言いが付くたびに土俵に上がって協議するシーンも少なからずあって、どこから見ても貴乃花親方だなと思って注目していたのです(当たり前ですが)。実物の存在感はやはり確かで観戦の思い出を補強してくれていたのですが、まさかこの後すぐに退職という結末を迎えるとは予想だにしていませんでした。あくまで本レポート執筆時点での状況ですが、そうなればもう2度と土俵で姿を見ることはできなくなります。偶然に親方の最後の場所に接することになったかもしれないと思うと、人生における「機会」について考えないわけにはいかなかったですね。「できる時にやる、行く、触れる、動く」ということをしないと、取り戻せない出来事も起きるものだと…。

    - 貴乃花親方 -
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     ともあれ、力士同士のぶつかり合う音・行司が張り上げる声・観客の熱狂・会場内の無量の情報が五感を通じて私たちに飛び込んできます。体全体で場の空気と一体になることの凄さを改めて感じた次第です。この日のことを生涯忘れることはないでしょう。国技館での作法も経験したことですし、今後は力むことなく大相撲観戦ができるのではないかなと思っています。贔屓の力士を持つようになれば一層楽しくなるんだろうなと感じながら、雨の上がった国技館を後にしました。

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     なお、この日はゲストとして私の知人であるケアプロ株式会社川添高志社長がご参加下さいました。彼は我が国のソーシャルベンチャーの先駆けともいえる人物で、大衆の健康意識を向上させて社会に貢献しようと意欲的な挑戦を重ねています。私個人として開業当初からその意義に着目し、微力ながら応援を続けているところであります。彼は属性オープンの方なのでここで紹介させて頂き、お礼と代えさせて頂きます。

    - 集合写真 -
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