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北米MMAを知り尽くした男・水垣偉弥が「朝倉海とパントージャはどこに差があったのか」です(聞き手/ジャン斉藤) ☆この記事はDropkickニコ生で配信されたものを再構成したものです

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――
UFC310のフライ級タイトルマッチ、早いラウンドだったら朝倉海選手のKO勝ち、長引いたらパントージャという予想が多かったんですけど、結末は2Rパントージャの一本勝ち。水垣さんはこの決着をどう見ましたか?

水垣 パントージャがフィニッシュするならバックの取ってチョークだろうなとは決思ってたんですよ。逆に最初の1ラウンド目に朝倉海選手がマットに背中をつけましたよね。

――パントージャがテイクダウンに成功しましたね。

水垣
 ああいうシーンにはならないと思ってたんですよね。海選手が絶対に背中がつかないように戦って、バックを取らせないことが勝負の鍵。やっぱりパントージャ相手にバックを取られちゃうと危険だとは思ってましたね。

――
海選手は久しぶりのフライ級だったじゃないですか。階級を下げた影響は何か見られましたか?

水垣
 動きもよかったですし、ファイトウィーク中もつらそうなところは見せなかった……まあ、もちろん見せないでしょうけど。顔のやつれ具合は出ちゃいますけど、コンディションは悪くなかったんじゃないかなって思いましたけどね。とくにリカバリーしたあとの身体つきはバンタム級のときと変わらない。げっそり細くなった感じもなくて、いい状態で試合当日を迎えられたんじゃないかなと。

――
動き自体はよかったですよね。

水垣
 打撃も走ってましたし、スピードも乗ってましたし、瞬発的な動きもすごくよかったですね。

――
階級を下げたことで破壊力が失われる懸念もありました。

水垣
 パンチはクリーンヒットしてなかったので、そこはなんとも言えないんですが……ボディへのヒザはかなり惜しかったですけど。スローで見ると微妙に外れてるとはいえ、あのボディは効いたんじゃないかなって思いましたね。当日の体重がバンタムのときとどれくらい差があったのかわからないですけど、打撃が弱々しくなったとか、力なく見えたことはなかったと思います。

――
今回の海選手は数週間前からラスベガスに前乗りして試合に備えていたんですが、水垣さんが海外で試合したときはどれくらい前に現地入りしたんですか?

水垣
 ボクは1週間前くらいですね。トップファイターやタイトルマッチの選手はわかんないですけど、UFCの普通の選手は基本的に火曜入りで、試合のある日曜日までのホテル代はUFCが出してくれますけど、ボクは最初の頃は日曜日に早めに入ってたんですよ。そこは自費でホテル代を払って。でも、最後のほうは時差ボケにも慣れてきたし、稼ぎに来てるんだから無駄に金を使うんじゃなくて、ハングリー精神を持ってたほうがいいなと思ってたんで、早めに入るのをやめました。だからスケジュールどおりに現地入りして、試合翌日に帰る。試合後、夜中にホテルに戻って、シャワーを浴びて荷造りを終えて、朝5時にロビーに向かって、飛行機に乗って帰るみたいな感じでしたね。

――
観光なんかしてるヒマはないってことですね(笑)。

水垣
 ないです。ボクは観光にまったく興味ないんで(笑)。試合が終わったら早く帰りたい派なんですよ。

――
海選手は現地の雰囲気に慣れ親しんでるというか、UFC初参戦の選手と思えない振る舞いでしたね。

水垣
 やっぱり大舞台で慣れてますし、いまはラスベガスにUFC PIがあるじゃないですか。あそこで食事の管理もやってくれるし、練習環境も整ってる。ボクらの時代は早く現地入りしたとしても、使えるジムを探すのは大変でした。練習場所をマネージャーに手配してもらって「ここからこの時間はこのジムを使えるよ」と。いまはPIがあることによって調整もしやすいんじゃないですかね。

――
ということは、ラスベガス以外の大会のときは、UFC PIを使えないからその土地のジムを手配しないといけないわけですね。

水垣
 アメリカでの試合だったら、いったんUFC PIで調整して、そこから現地に飛ぶことも可能なので。ファイターにとってはいい環境になってるんじゃないですかね。

――
話は試合に戻るんですけども、海選手はパントージャの左フックでフラッシュダウン気味になりましたし、打撃でぐらつかせられるシーンがたびたびありましたよね。

水垣
 UFCファイトパスの解説をしながら見てたときは、たしかにいいパンチは入っていたけど、そこまで強いパンチには見えなかったんですよ。あらためて見直したら、思ったよりもらっていた印象がありましたねぇ。

――
ここまでパンチを被弾するイメージってありました?

水垣
 打撃の勝負で勝てないとなると、海選手は厳しいなと思ってました。海選手からすればパントージャに組みつかれたくないから、意識が集中できず、そこがパンチをもらった原因だと思います。2回目に見たときに「ちょっとパンチもらいすぎたな」という印象がありましたね。

――
そこは組に対する警戒がゆえに被弾してしまうということなんですね。

水垣
 それはあると思います。タックルを切るなり、四つを差すなりの練習はすごくしてきたと思うんですけど。パントージャのように組みつくようなかたちでパンチを打ってこられると、どうしても反応が遅くなりますし。それでパンチをもらっちゃったのかな、というのが正直なところですかね。

――海選手はヒザの攻撃を中心とした組み立てでしたね。

水垣
 ここ2試合ぐらいですかね。前回のアーチュレッタ戦、その前の元谷(友貴)選手との試合もヒザを武器にしてましたよね。これはパントージャの組み方に対してはすごく有効になるんじゃないかと見てたんです。いい狙いでしたし、あのヒザを警戒するあまり。パントージャは組み付きにくくなったと思うんですよね。パントージャってババババって前に出た勢いでケージ際まで持って組みつく。でも、海選手があのヒザを見せたことによってパントージャはやりにくくなったんじゃないかなって思いますね。これも2回目に見たときに感じたんですけど、「打撃でやっても平気だ」という自信も少しはあったんじゃないですかね。打撃戦でもやられないというか問題なく余裕で勝負できるぞっていう風なプレッシャーのかけ方にも見えました。

――それは試合開始前から自信があったのか。それとも途中で確信したのか。

水垣 うーん、ライブで解説してるときはそこまで思わなかったんですけど、あらためて見ると「打撃でもいけるよ」っていう自信が……まあ結果を知ったうえで見てるからかもしれないですけど(笑)。あらためて打撃の強さを見せられた。もちろん海選手の打撃を警戒をしてるんですけど、「簡単にはやられないし、そこで殴り合っても平気だぞ」という気持ちがにじみ出たというか。そうやって強いプレッシャーをかけることができたから、テイクダウンもできたんだと思いましたね。

――MMAとしての打撃はパントージャのほうが上だったということなんですかね。

水垣
 パンチの殺傷能力という部分では海選手のほうが強いと思うんですけど、パントージャには“自分の戦い方”を持ってますよね。キツイ相手と競った試合をずっとやり続けている。競ったときにどう勝負すればいいかという感覚を持ってるんですよね。海選手は前回アーチュレッタに勝ったことは素晴らしいことですけど、アーチュレッタは計量オーバーでコンディションの悪さもあったし、そこは海選手が悪いわけじゃないんですけど……UFCというトップレベルでやり続けていた選手と、外から来て一発目でタイトルマッチをやった選手の差はあったんじゃないですかねぇ。

――
パントージャのようなタイプとは戦ったことがないという点も……「ヒザを狙いすぎた」という意見はどう思いますか?

水垣
 あのヒザは作戦として考えて、それを遂行した感じだと思うんですよね。前に出てくる相手に対して、下がりながらだとテイクダウンされにくいし、組まれないための対策でもあったし、それプラス先に仕掛けてくる相手に対してのヒザは有効かなと。

――戦術としては悪くなかったということですね。


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