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金原正徳に快勝した鈴木千裕のセコンド・塩田“GoZo”歩14000字インタビュー!MMAも柔術もなかった時代から鈴木千裕vs金原正徳にたどり着いた大河ドラマを感じてください!(聞き手/ジャン斉藤)
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――鈴木千裕選手の見事な勝利おめでとうございます!
塩田 ありがとうございます!
――鈴木千裕選手の試合は毎回不利と言われがちなんですが、下馬評を覆したことはセコンドとしての喜びもひとしおなのかなと。
塩田 自分たちの中では「勝てる!」という自信はあったので、そこはホント一安心ですね。
――試合後の鈴木千裕選手陣営の話を聞くかぎり、“金原正徳対策”をしっかり練ってきている印象でした。千裕選手はいつも「バーンといってドーンとやるんですよおおお!」という感じですけど(笑)、そこはチームとして取り組んでいるわけですね。
塩田 そこはRIZINデビュー戦の昇侍戦で負けてからですよね。自分が千裕くんのことを見るようになったのはあの試合からなんですけど……。
――千裕選手はクロスポイント吉祥寺所属だけど、パラエストラ八王子でMMAの練習をするようになって、塩田さんがセコンドについて。
塩田 あの頃の千裕くんは「一気に行きますよ!」みたいなスタイルだったんです。
――「バーンといってドーンとやるんですよおおお!」(笑)。
塩田 でも、負けたことによって変わって……。次の山本空良戦で作戦どおりに勝ったことで、作戦に対する大事さを知ったというか。そこで信頼を得てからは自分が言ったことをしっかりやってくれるし、千裕くんはいろんなところで練習しているので、向こうから「塩田さん、こういうことをやりたいです」と聞いてくるというか。やっぱり千裕くんは頭がいいですよ。格闘技IQが高いです。
――解説を聞いていると、じつはものすごく緻密ですよね。
塩田 気づきもすごいんですよ。たとえば「この試合の動画を見てよ」って言うじゃないですか。そうすると「ここ、こうじゃないですかね」ってすぐに何かに気づくんです。なんていったらいいのかな。動物的勘ですかね。自分は感性って大事だと思ってるんですけど、動物だって獲物を捕獲するために戦略を立てるじゃないですか。戦略と直感をうまくまとめる地力が千裕くんにはあると思いますね。
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――金原選手を対策するにあたって一番のポイントはどこだったんですか?
塩田 もともと金原くんはパラエストラ八王子にいて、自分もよく知っているんですけど。打撃に関しては、やっぱり金原くんはすごい独特なリズムで攻めてくるんです。足踏みするような感じですね。こっちが打ち気になったときのタックルもやっぱりうまい。打撃の注意点はその2点。テイクダウンされることも想定していたので、そうなったときのエスケープですよね。金原くんはクレベル(・コイケ)戦で見せたように、頭をつけてのパスや、首を抱えられてからのギロチンの対処はめちゃくちゃうまいんですよね。クレベル相手にあそこまでやったわけですし、トップキープに関しては世界に通じるくらいのレベルがあると思ってるんで、いかにそこまで行かせないか。もう寝技になったら早めに対応しようという練習を繰り返しやってましたね。
――金原さんの独特のリズムとはどういうものなんですか?
塩田 見てもらえればわかると思いますけど、ちょっと足踏みするような感じで、相手にプレッシャーをかけるのがうまいんですよ。それでいて金原くんは逆に相手のリズムを読むのもうまい。そこに自分の変わったリズムをぶつけることで相手に隙を突いて打つことができるんですよね。
――相手のリズムを狂わせて主導権を握っていくんですね。
塩田 たぶん金原くんは相手のリズムをいかに騙すか……っていうところにすごい重点を置いて試合していると思います。
――リズムを狂わす選手って他に誰か思いつきますか?
塩田 うーん……自分ではなかなか思いつかないですねぇ。そこは本当に金原くんのすごさじゃないですけど。こないだのRIZINで勝ったウチの高木(凌)は相手のリズムを読んで待って打つことはやりますよね。千裕くんはどちらかというと自分のリズムに持っていく感じです。
――千裕選手はそのリズムに狂わなかったと。
塩田 波長が逆に合うというのかな。2人でシミュレーションを何回もやったんですけど、リズムは合いましたね。千裕くんはそこでも何か気づきがあったんだと思います。
――リズム対策も練っていたんですね。
塩田 今回に関してはあらゆるポイントを確認して練習してきました。たとえば試合映像をもう一度見てもらえればわかると思うんですけど、右に振り込んだときに金原くんにかい潜られているんですよ。でも、左上半身で反応する練習はすごいしてきたので。
――金原選手はカウンターのテイクダウンが得意だけど、空振ったときの返しもちゃんとしていると。
塩田 そのうえで後ろを見せたりしない。金原くんはバックをつくことがうまいので、いかに四つまで持ち込むかをすごく考えました。
――一度ぐらいはテイクダウンされることは想定していたんですよね?
塩田 想定はしていました。だけど、最初のテイクダウンを切ったときに「タイミングがわかっているな」と思いましたし、千裕くんはやはり四つは強いんですよ。だからって四つの展開で攻める必要はないと言ってはいたんですけど、あそこで切ったことで金原くんの仕掛けをもらわずに済んだというところはあるし、これはもう完全に千裕くんのペースになるなと思いましたね。
――あそこからテイクダウンはの仕掛けはなかったですよね。そこからみんなが鈴木千裕の術中にハマるというか、どうしても打ち合ってしまうという。あれはなんなんですかね?(笑)。
塩田 ハハハハハハ。ただ動画を見返してもらえばわかると思うんですけど、カーフを効かせたりしてるんですよね。千裕くんが成長したところは、昔はいきなりバンバンバンだったじゃないですか。でも、昇侍戦でそれじゃダメだって気付いて、いかに自分のペースにはめ込んで、行けるときに行く。そこは動物的な嗅覚じゃないですけど。
――いきなりじゃなくて、ちゃんとカーフを効かせて、ちゃんと距離を測って、行けるときに一気に攻める。
塩田 はい。カーフに関しては金原くんはサウスポーもやってくるんで、サウスポーだったら蹴りづらいけど、オーソだったら蹴れる。MMAの選手ってどうしてもローのカットはあんまりうまくない選手が多いし、金原くんに関してはキックもうまいんですけど、そこは入るんじゃないかなと思ってましたね。チラしてチラして、ボディヒザ、ノーモーションの右、カーフ、三日月蹴り。いろいろ手札を考えてましたね。そこで金原くんも結局打ち合いに行かざるをえなくなったっていうのはあると思いますけどね。
――切れるカードがなくなって……。
塩田 もしかしたら打ち合いの中でも1回ぐらいは組みに行ってると思うんですけど、千裕くんがそのかたちにすら入らせなかったですよね。
――ベテランの金原選手があの短い時間の中で打つ手がなくなった……というのがMMAの恐ろしさですね。なんでもできるゲームなのに。
塩田 さっきのリズムの話をしてましたけど、やっぱりカーフが決まり始めた時点で千裕くんのリズムになってるんですよね。テイクダウンを防いでカーフも決めて、相手の手札を潰したのがデカいと思いますね。あと千裕くんは昔と違って長い打撃が打てるんですよ。みんなの千裕くんのイメージは振り回してフック!みたいな感じですけど。
――最後のラッシュが印象的ですけど、長い打撃で潰してるからこそなんですね。
塩田 狙えるときはすぐに行けるおもいきりの良さと、長い打撃が使えるところですよね。金原くんも打ち返してるんですけど、千裕くんのほうがリーチが長い分、距離的に外されるというか。向こうがプレッシャーかけて、踏み込まないかぎり千裕くんだけが当たる距離になっちゃうんですよね。
――金原選手相手に打撃で勝っちゃうってすごいことですよね。
塩田 金原くんも打撃は相当強いです。それこそKNOCKOUTで不可思選手とキックルールでやったときもパンチはすげえ当ててますからね。
――本職のキックボクサー相手に普通に渡り合ってましたね。
塩田 だからいろんな面でクレベル戦のときよりレベルアップしているし、すべてにおいてやりとげれば絶対に勝てると確信を持っていけた感じですかね。タイガームエタイに行ったことで組みもすごい強くなってるし、今回はやらなかったけど、テイクダウンすることまで考えてましたから。
――逆に!
塩田 もし展開が五分でうまくいかなかったら、相手はタックルを警戒してないだろうし、ラスト1分だったら狙ってもいいよねって話はしてましたね。
――テイクダウン対策もあってか、千裕選手は構えも低かったですよね。
塩田 そうですね。相手によって構えを変えるのはどうかという意見もあるんですけど、千裕くんはもともと練習からでも低い構えでジャブを打つのが得意なんで。できないことをやったというか、そこは自分の得意なところに落とし込んだというだけの話ですよね。千裕くんはできることの幅が広いんで。
――あの構え方は五味(隆典)ちゃんっぽかったですよね。
塩田 そうですね(笑)。千裕くんはやっぱりいろんなところで練習してるんで、仕入れてくるところはありますね。
――千裕選手はいろんな対戦相手が候補に挙がってますが、計量オーバーでアヤがついたクレベルとの再戦が見たくなりますよね。
塩田 そこは全然「どんと来い!」ですね!
――あのときの鈴木千裕とは違う?
塩田 もう全然違います。本当に違うと思いますよ。あのときはちょっとやっぱり組み技が怖いから、それに対しての打撃をどうする?という話もしてたし、打撃で攻めて組まれたらと……。
――迷いがあったわけですね。
塩田 お互いにちょっと迷いはあったんですよ、正直。だけど、いまだったらべつに迷わず行けますよね。べつに寝技になっても平気だし、テイクダウンも切れるしって。いまの千裕くんだったらクレベルとやっても自信を持って戦えます。アーチュレッタとピットブルも全然行けると思いますね。
――頼もしい!(笑)。
塩田 ちょっと一段階、抜けたと思いますよ。今回の試合だけ見てたら、千裕くんの寝技やレスリングの技術はわからないじゃないですか。だけど、レスリングの練習もずっと続けてるし、千裕くんのタックルめちゃくちゃ速いですからね。寝技もうまくなってる。たとえば萩原(京平)選手をすぐに極めたり力はあったうえで、さらに基本の技術も積み重ねてきてるんで。
――単なるストライカーじゃなくて、他の技術も兼ね備えているからこそ打撃が活きてくる。
塩田 そこは現代MMAのファイターですよね。ショーン・オマリーだったり、マクレガーに匹敵するようなファイターになります。そう思います。
――話題になったのはタイトルマッチの国歌吹奏のときに、ずっとシャドーやエビで身体を動かしていて。
・金原正徳と微妙な距離感のワケ
・30年前は柔術を学べる場所がなかった
・現代MMAのセコンド論
・「リングス東大」とは何か……“何もなかった”時代の目撃者14000字インタビューはまだまだ続く
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金原選手が負けたのは悔しいけど、有料部分はめちゃくちゃ面白かったです!
令和6年にリングス東大というワードを目にするとは
リング「ズ」東大なんだよなあ笑
残念!
読み応え抜群。
仏の中井先生が、アオシンや北岡よりギラギラしていた時代。
(良い意味で)今のフィットネス感が溢れる格闘技ジムには皆無な殺伐とした空気。
同時代を生きてきた格闘技ファンの、心に響き過ぎる記事でした。