僕なんかが風邪を引く時には、生来の勝気さと仕事好きってところがあるから「ああ、なんか疲れてきたやうだ」とか「煙草をやっても鰻を食っても美味いと思えない、気丈夫もこれ限りか」とか「なんだかだんだん動くのがしんどくなって、気がついたら熱っぽい心持ちで」なんてことは一才なく、元気に野原を駆け巡っていた兎が、猟師に1発で仕留められたさながら、突如全身が痛く、意識も朦朧となり、全く動けなくなるやうで、これは干支が卯年だからであらう。
若い頃は還暦になったら杖をつき、着物の見ごろも心許なくなくなってしまい、床屋で山高を帽子掛けから落としては、すごすごと拾らうようになるのだ。と思っていたのだが、実際になってみたらさうでもなく、むしろ、些か元気になりすぎたんだかなんだか、怪我をしたり大昔に患った病気をまた患ったり治したりして、「仕事に患いに大忙し」では笑うに笑えぬとはこのこと。
それでもまあ、生来の機嫌の良さと物事を哲学者のように深く考えない性質から、実に楽しく60代を過ごしている間に、人間ドックの検査で肺癌の再検査と言われ、流石に焦ったら誤陽性だと言われ、これでは棚の上げ下ろしだ、一生分あげておろした。と思っていたらいつの間に風邪を引くのも忘れてしまったようで、気がつくと全ての内科医の診察カードを無くしていた。