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昔、むかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんと、桃太郎という子供が三人で暮らしていました。
桃太郎はやさしいけれど強くてたくましいおじいさんと、どんな時もにこにこしているおばあさんが大好きでした。
桃太郎はおじいさんおばあさんに大事に大事に育てられ、立派な青年に成長しました。

ある夜、青年になった桃太郎は、ずっと疑問に抱いていたことを、おじいさんとおばあさんにたずねました。
「お父さん、お母さん、私はなぜ、”桃太郎”という名前なのでしょう?」
「そ、それは・・・」とおばあさんは困った顔をしておじいさんの顔を見ました。
「それはおまえが赤ん坊の頃、桃の実のような色のほっぺたをしていたからじゃよ」とおじいさんが慌てていいました。
「そうですか」
桃太郎はその答えが腑に落ちたわけではありませんでしたが、それ以上質問するのはやめました。
桃太郎は名前以外にも疑問に思っていることがありました。
それは村の子供たちの親よりも、父と母がずいぶん歳をとっていることでした。
そのことで幼い頃、よくイジメられもしました。
それについて桃太郎は二人にたずねたことはありませんでしたが、心の中でこんなことを思っていました。
(もしかしたら、自分には別に両親がいるんじゃないだろうか・・・だとしたら、どんな人なのだろうか・・・)
桃太郎は、もしも自分に本当の両親がいるのなら、一度会ってみたいと思いました。


☆☆

一方、このところ、桃太郎が住む村の地域一帯に、鬼が出没するようになりました。
鬼たちは鬼ヶ島という島から船でその地域に渡ってきては、村々を襲い、食料や家畜を奪っていきました。
人間たちも刀や弓などの武器で応戦しましたが、金棒を振り回す鬼にはまったく歯が立ちませんでした。
それで桃太郎が住む村では、毎年、鬼に貢ぎ物を送って、自分たちの村だけでも襲わないよう頼んでみてはどうかという意見が出ました。
「そんなことをしてはいけません」
桃太郎が村の者たちにいいました。
「それでは鬼たちはつけ上がり、要求は徐々に高くなっていくばかりでしょう。他の村とも結束して、鬼たちと戦いましょう」
しかし村人たちは怖じ気づき、誰も鬼とは戦いたがりませんでした。
「わかりました。では、私一人で戦います」
村人たちが止めるのも聞かず、桃太郎は一人で鬼退治にでかけることを決めました。
当然、おじいさんもおばあさんも猛反対でしたが、桃太郎の意志は変わりませんでした。
おじいさんががあきらめていいました。
「わかった。おまえが自分の意志で決めたことじゃ。男に二言はないだろう。最後までやり通せ」
おばあさんが桃太郎に麻の袋を渡しながらいいました。
「中に、きび団子が入っているから、お腹が空いたら食べなさい」
「お父さん、母さん、ありがとうございます」
桃太郎は麻の袋を腰につけ、たった一人で鬼ヶ島へと向かいました。


☆☆☆

島に到着すると、住処には百人以上の鬼がいました。
しかし桃太郎はひるむことなく、刀をすらりと引き抜いてたった一人で斬り込んでいきました。