菊地成孔さん のコメント
このコメントは以下の記事についています
「フジロック2023(1)」
<翌々日>
体重計に乗ったら、4キロ落ちていた。おおう。27時間も寝たのに。
全裸になって鏡を見る。脇腹の皮下脂肪が、アイスクリームがスプーンですくわれたようにこそげ落ちている。左右で1・5キロずつ。横隔膜の急激で激しい運動と身体を捻る運動が多かったのだ。あとは全体に1キロ分燃焼したのだろう。1キロのバターを全身にくまなく塗ったところを想像して欲しい。それが1日で溶け落ちたのだ。
どうせこれはすぐ元に戻る。それよりも、24時間以上寝たので、筋肉の弛緩が心地良いと共に、何日で絞り直せるか、慌てて手帳を開いたが何も見えない。「え?色覚に何か?」と思いかけるも、単に老眼鏡をしていなかっただけだ。「うっははははははは」と声に出して笑い、メガネを探すと、滅多にないことだが、枕元にあった。かけたまま寝たのであろう。
全身を見る。僕は18歳の時に95キログラム以上あり、それから身長が伸びていないので、身体の各所に「余った皮膚」がある。ピロートークが弾んだベッドの上では、その時の恋人がそれを摘んで引っ張り上げ、微笑みながら「これ可愛いね」と言ってから口に含んだりした。恋はどんなグロテスクなものでも可愛く見せる、極限値の幻覚体験だ。
僕は1人でいる時、大体喋っている。いわゆる「独り言」ではなく、「今、考えていること」の実況だけれども。
「いやあ、これは流石に、惨めな老人の肉体だな。5~60代だとすると、絵画でしかちゃんと見たことねえから、実際色んな老人がどんな身体なのかわからん。トム・クルーズしかわからん。やべえよなサイエントロジー。。。。。ああ無事に済んだからよかったけど、奇しくもリリパまで丁度1ヶ月かあ」
フジロック日記の後半に書きますが、全く報道されてない話として、僕が取ってもらった、休憩用の苗場プリンスの部屋から、救急車のサイレンがかなり聞こえてました。出演者もフジロッカーも熱中症患者を搬送していたと思います(実名は出せませんが、電話が来て、○○○がステージ後に熱中症で倒れた。とちょっとした騒ぎでした)。フジロックは去年、開催後2日かそこらで「コロナ感染者はゼロです」と公式発表し、物議さえ醸し出しませんでしたが笑、最初期には死亡事故も起こしており、海も怖いが山も怖いなという感じで、年寄りの方が熱中症対策に敏感のようです。
とまれ、抹茶さんや我々の世代は、下手したら熱中症で死にますから笑、とにかく誰が彼がではなく、日本人は全員、暮らしの段階で気をつけろとしか言いようがなく、「ご自愛ください」どころじゃねえ笑、といった感じですが、この酷暑は、気象学的には20年前から予想されており(「デギュスタシオン」に入っている「雨の日も名人は命中させる」というブルースに歌いこんでいますが、「この街は20年後にはクアラルンプールやチェンマイと同じ気温になる」)、つまり、異常気象ではなく、来年からこれが平均的な夏になるのだなあと思いながら「火星」の練習をしています笑。
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