菊地成孔が、過去と現在を、痛みと笑いで横断するエッセイ集。
<震災前夜までのニュース>の数々
不二家の3秒ルール/ミートホープ事件/船場吉兆/石原都知事就任/安倍首相バックレ辞任/練炭自殺/アキバ通り魔事件/リーマンショック/豚インフルエンザ/毒ギョーザ/普天間/大相撲と世間/小沢マスク/55年体制最後の自民党総裁マンガ顔の麻生太郎/宇宙人としての鳩山/「ミシュラン東京」発売/オリンピック誘致失敗/「サロン・デュ・ショコラ」のコミケ化/死刑になりたくて殺人/ガザ地区空爆/ベストドレッサー市橋/尖閣
↑こうした現象たちと現在は、どう繋がれ、切断されているのか?
イースト・プレス ●312ページ
発売日:2013.9.15
定価1,680円
9月15日にイーストプレス社から発売される『時事ネタ嫌い』を発売に先がけて、「まえがき」と、全46章のうちの1章~3章まで、数回に分けて公開します。
ご予約はこちらからどうぞ!
まえがき――時事ネタはお好き?
この本は、2007年(平成19年)1月から2010年(平成22年)10月にかけて、つまり6年前から3年前にかけての約4年間(「つまり」とか自分で言っておきながら、この計算、何回やってもワタシ3年間だと思ってしまうんですが、その程度の奴が書いた社会時評だと思ってください)、講談社の女性誌「フラウ」に連載された「時事ネタ嫌い」を書籍化したものです。
一回も残さず完全収録していますし、「大人の事情によって、止むなくカットせざるを得なかった回」みたいなものもありません。連載されていたのは毎回のタイトルと本文だけで、「事件の要約」と「後日談」は書籍化にあたって総て書き下ろしました。
本文だけだと(あるいは「事件の要約」を併せても尚)、いま読み返すに「何の話だっけこれ?」と思うような回があるかもしれませんが、連載当時は言わずもがなの事件ばかりを扱いましたので、「事件の要約」は必要なかったのです。
以下、本文中にも繰り返し書かれていますが、ワタシはそもそも大変な政治音痴であることを始めとして、社会面的なニュース全般が苦手です。「です」と現在形で書いているのは、まえがきにオチを書いてしまうようですが、「この連載によって時事ネタの魅力や意義に気づき、人生が変わった」といったようなことがなかったからです。
いきなりですが島田紳助さんは、ヤンキー上がりのタレント時代に頭の良さを買われ、とあるニュース番組にキャスターとして迎えられた際、ヤバいとばかりに政治や経済のことを猛勉強した、その経験によって自己更新しました。テレビ番組のインタビューで、「こんなおもろいモンが世の中にあるなんて、っていうか、世の中がこんなおもろいモンだとまったく知らんかった。本当に驚いた」と目を輝かせていたのを憶えています。
ワタシの人生は、音楽や映画や食事や恋やセックスにかまけていて、とてもそれどころではなかった。というのが近く、「何ニュース見て憤ったり複雑になったりしてんの?暇だね~。そんなことよりこれヤッバいよロバート・ロンゴの新作。世界変わるよ実際」みたいな奴のまま、現在齢50にもなって基本的にはまったく変わっていません。時事ネタは確かにかなりおもろいモンではありましたが、音楽や映画や食事や恋やセックスに比べたら、大したモンではありませんでした。
「時事ネタが人を社会人=オトナにしてしまう力」が、ワタシには及ばなかった。と何やら勝利宣言のようですが、実のところまだまだワタシが馬鹿かつ餓鬼である、というだけでしょう。と何やら敗北宣言のようですが、ワタシは「新聞を読むようになるだけで強制的に社会人=オトナにさせられるくらいだったら、コドモのままお爺さんになるほうがマシ」と思っていますので、引き分けみたいな話なんでしょうか。
そんな奴が何故、「旬の時事を扱った社会時評」などというものを連載するに至ったかはあとがきに回すとしまして、再びいきなりですが、この本はワタシの「震災直前までのことを書いた本」の3冊目になります。
まえがきから他社の本のことを書くのは社会性の無さを上塗りするような話ですが、ファッションショー批評の『服は何故音楽を必要とするのか?』の文庫版(河出書房新社)、プロレス/格闘技批評の『あなたの前の彼女だって、むかしはヒョードルだのミルコだの言っていた筈だ』(アスペクト)に続き、本書は、このシリーズ最後の一冊になります。
'10年末で終わった3つの連載(ファッションショーだけは'11年末より媒体を変えて再開/継続中ですが)は、総て書籍化され、あくまで偶然の産物として、ですが「'11年以前と以後はどのように違うのか?」という、今のところ、「まだ発するべきかどうかすら解らない問い」を筆者であるワタシ自身にさえ発しています。震災前というのは、どんな世界だったんでしょう? そして震災後というのは、どんな世界なんでしょう? 全然違うような、何も変わらないような二つの世界の間で我々は生きています。
ハイモードやプロレス/格闘技といった趣味性の強い対象とは違い、この本はどなたでも気軽に読める間口の広さがあると思います、と書きたいところなのですが、ワタシがシンパシーを持つのは、ワタシと同じ「時事ネタ嫌い」の人なので……という小さなアンビバレンスと共に書き上げました。時事ネタがお好きな方も、お嫌いな方も、どうでも良い方も、6年前にタイムスリップして、まずは「不二家の3秒ルール」からです。それではどうぞ。
目次
第一部 日本人にとって挽き肉とは何か
1 セーヴ・ザ・ペコちゃん(女たちよ!)
2「どっちが好きなの? はっきり言って」
3 窓の外を見ろ
4 前略・新都知事様
5 名は体を表す?
6 革命とデパート
7 日本人にとって挽き肉とは何か
8 不都合な真実ぅ?
9「現代の若者」の代表(が、元首相)
10 パリはパソコン要らず
11 オマエに評価されたかねえよ、パパ=神様。
12 食い物屋は頭を下げる
第二部 本当のオトナは幼児プレイをしなくちゃ
13 他人なんて殺せませんよ。家族じゃあるまいし。
14 本当のオトナは幼児プレイをしなくちゃ
15 チベット事件と「一般人報道陣」
16 黒い肌の人々
17 プーチンと硫化水素
18〈シュガー犯人〉は、どんな〈格差社会〉の犠牲者?
19 イジメ社会(タバコに対する)
20 私もあなたの数多くの作品のひとつです
21 大男がいる国
22 平成の果ての昭和の果ての多元宇宙
23 ブラックプレジデント頼むぜ。本当に頼むぜ。
24 不況の「況」って何よ
第三部 パソコンにマスクをつける日
25 結局、50年も同じだったわけよアイツ
26 アワ・ファニー・ヴァレンタイン
27 何これ?パリコレ
28 草食系男子=大麻所持の大学生
29 パソコンにマスクをつける日
30 鰻が呼んだズワイガニ
31 訃報のペース配分(人と雑誌、そして資本主義の)
32「覚醒」?
33 日本人から(国際人。を飛ばして)、一気に宇宙人へ
34 ラテン時代のオバマ
35 最終段階のナルシストたち
36「2000年問題」を憶えているか?
第四部 恋する国民
37 歌舞伎化する国政
38 結構良いですよ。メガネを外して観れば。
39 政治家は顔だ(誰かの)。
40 異常気象も手のひらの上に
41 ルート58を走れ
42 恋する国民
43 残った残った残った
44 続・恋する国民
45 アフロ・ディズニー2
46 最後の時事ネタ嫌い
「物忘れが激しい」人々のために――あとがきに代えて