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物語は暗やみから始まる。
都市の片隅の暗がりでからだを売る女と、買う男。
女は薄汚れた身なりで、言葉も満足にしゃべることができないように見える。
女は売春に手を染めていながら、からだに触れられることを拒み、ただつたない奉仕で金をもらう。
そして、その代金を5000円から2000円に値切られても抗議することすらできない。
彼女はまさに極貧地獄のなかで急速に転落していっているのだ。
まさにだれにも救われることなく地獄の底へ墜ちていく「奈落の羊」。
その名をメイ。
彼女が一方の主人公だ。
そして、彼女はさらに深い奈落の穴のなかへと落ちていく。
メイを奈落の底に突き落とすのがもうひとりの主人公。
ネットのリアルタイム配信に嵌まり、それで生活していけることを夢見る男、しゅーじ。
かれはろくに大学へ行くこともなく、ひたすらネット配信で稼ぐという甘い夢にひたる。
しかし、いまのままでは配信で稼ぐことはできない。色々なネタも急速に飽きられつつある。
何か、スクリーンの向こうにうごめく無責任な男たちが喜ぶネタが必要なのだ。
そう、なんならぶっ壊してもかまわない「おもちゃ」が。
そして、しゅーじはメイに目をつける。この女なら画面の向こうの連中が喜ぶ「おもちゃ」になる。壊したところでだれも文句をいう者はない。
そんな狂った発想から、かれはメイを配信に出すことを考える。
その歪んだ発想はやがてさらに狂っていき、そしてすべてがどうしようもない破綻への道をまっしぐらに進んで行く。
メイに床に落とした食事を這いつくばって食べさせ、そのようすを配信したしゅーじは考える。
「これでいいんだ リスナーは自分より低い人間がいると確認できる この女はメシにありつけて 俺はアクセスを稼げる みんなが幸せになれるんだ」。
この男はこうやって自分自身すらごまかしているのだ。
やがて、かれは念願の金を手に入れる。人間として大切な何かを捨て去った代償に。
しかし、そんな甘い夢がどこまでも通用するはずがない。最後には破滅が待っているに違いない物語が、こうして幕を開ける。
ひとをひととも思わない外道とかれに抵抗することすらできない無力な女。
実に、厭な話である。それなのに、どうしようもなく惹きつけられるものがある。
ひとはどうして厭なものをあえて見たがるのだろう。
きづきあきら&サトウナンキのコンビはいままでもそういう「暗がりの物語」にスポットライトをあててきたが、今回の話はいままでにも増して厭な何かをひそめている。
登場人物のだれひとりとして感情移入可能な人物はいない。
どいつもこいつもろくでなしのクズばかりなのだ。
それも、自分だけはまともであると信じているというほんとうに最低のクズたちである。
だが、このような人種は、いまどき、ネットをあさればいくらでも見つかるだろう。
また、メイのように売春を続ける極貧女性もさほどめずらしくないに違いない。
そういう意味で、これはリアルな物語である。そのリアルさが、どうしようもなく厭で、それでも強く惹かれる。
矛盾しているかもしれないが、それはほんとうのことだ。
これから先、しゅーじとメイの狂った関係を巡る背徳の物語はどこへ向かうのだろう?
第1巻の段階では
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