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表題作は黒澤明の『椿三十朗』(黒澤映画のなかでも一二を争う名作)の原作。もっとも映画とはだいぶ趣きが異なる作品で、共通点は風来坊の主人公が策略によって若く無鉄砲な武士たちの窮地を救うということくらい。
『椿三十朗』のあの抜き身の刃から血がしたたるような凄みはないが、実に山本周五郎らしいほのぼのとした味わいの佳作である。山本と黒澤の個性の違いを感じさせる。
「屏風はたたまれた」はあえて結末に未解決の謎を残すいわゆるリドル・ストーリー。主人公はひとりの名も知らぬ女と逢瀬を重ねるが、しかしあるとき彼女は煙のように消え、そしてだれもがそんな女はいなかったと証言する。
ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』みたいな設定だが、作者はアイリッシュが好きだったらしいのでたぶんこれは意図的なものなのだろう。ちょっと『幻の女』のあの秀抜な設定をひねってリドル・ストーリーを一本書いてみるか、と考えた
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