弱いなら弱いままで。
深淵を覗いてみよう。その名は「邪悪」。あるいは「情欲」。さもなければ「闇黒」。丈山雄為「解体ザナフ」を読む行為はそんな昏い淵を覗き込むことにひとしい。
主人公の名はザナフ。十五にしてクラスメイトの少女を「解体」した化け物。かれはその「人生で最も幸福なひととき」の代償として二十年の懲役を課せられ、悔恨の日々を経て社会に出てくる。
かれは狂っているのか? もちろん。ザナフは犠牲者の恐怖と絶望をたっぷり愉しんだに違いない。その悪魔の欲望は修正不可能。生きているかぎり何者にも変えられない。しかし、それでいてかれはひとりの善良な料理人でもある。その心から残忍な欲望が消えることはないが、それでもなお平凡な市民として社会に潜んでいるのだ。
あるいはそのままなら怪物は無害に欺瞞の生涯を閉じたかもしれない。出所して三年、かれ自身もそれを望んでいた。しかし、運命の悪意か気まぐれか、ひとつの出逢い
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