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 ジュンク堂の店頭に並んでいたので、手に取って読んでみた。「『黒子のバスケ』脅迫事件」と呼ばれている「あの事件」の犯人による独白録である。

 事件に至るまでどうやって生きて来たか、事件の動機は何なのか、どう思っているのかなどについて、詳細に記されている。

 以前、この人物の供述について、「凡庸だ」と切って捨てたことがあるが、まあ、今回も特別感動するほどの内容ではない。プロが書いた文章ではないから読みにくく退屈な箇所もある。

 ただ、一方でなかなかに読ませるところもあり、示唆に富むとすらいえる部分すら存在している。犯罪者心理について知りたい人にとってはわりと良い本なのではないかと思う。

 結論としては「さっぱり理解できん」というところに落ち着くかもしれないけれどね。少なくともぼくはそうだった。いやー、さっぱり理解できん。

 まあ、著者自身が「きっと理解できないだろう」という意味のことを書いているから、ぼくが特別理解力がないわけではないのだろう。やはり相当に屈折した心理なのだと思われる。いろんな人がいるものです。

 個人的な感想をいわせてもらうなら、全般的には良くある恨み節の域を出ていないとは思うが、まあたしかにそりゃ周りを恨みたくもなるよな、と思えるような人生なのでこれは仕方ないだろう。

 特異な才能を感じさせるというほではないにしろ、たしかに平均以上のインテリジェンスを感じさせる文章ではある。ぼくの場合、主張していることの七割か八割くらいは納得がいく。

 納得が行かない二割とか三割はだいたい著者の社会システム批判の部分である。ぼくは現行の社会システムはおおむね問題なく作動していると考えているのだ(だからこそこの著者が捕まったわけだ)。

 たしかに何も持たないが故に犯罪を犯す心理的な障壁が低い「無敵の人」に対する対策は必要かもしれないが、現状でそれほど大きな問題にはなっていないし、将来的にもそこまでにはならないのではないか、と考えている。楽観的すぎるだろうか……。

 著者は事件の背景に幼少期からの虐待があり、事件に至るまでその影響によって認知の歪みを起こしていたと主張している。そしてそれはどうやら事実らしい。

 これに関しては、ちょっと同情しないこともない。運が悪かったねえ、と肩でもぽんと叩いてやりたいような気がする。

 もちろん、ぼくは幸運に恵まれ幸福に育った側の人間なので何もいう資格はないかもしれないが。いや、当然、ぼくの主観としてはいろいろな苦労もあり、辛い出来事も多かったわけだが、客観的に見てこの著者ほど壮絶な苦しみは負って来ていないと思う。

 ぼくと著者との間にある差は何かといえば、これはもう「運」としかいいようがないわけで、「ほんとに運が悪かったね。気の毒に」くらいのことはいってあげたくなるわけだ。

 しかし、著者はその手の安っぽい同情を求めているわけではないだろうから、ぼくはこの時点で特にいうべきことがなくなってしまう。

 いえるとしたら、まあ、恨み節が多少きついところはあるがわりと読ませる本なので、ちょっと読んでみてもいいかもしれませんよ、というくらいだ。

 著者は出所後に自殺することを希望しているという。絵に描いたような悲惨な人生を生きて最後は自殺で幕をとじるのかと思えば、実に気の毒に思えるが、本人がそうしたいなら仕方がない。死後の冥福を祈りたいところではある。

 というわけで、特に感想らしい感想も浮かばないという、わりとめずらしい本なのであった。しかしまあ、こういう本を読むと、つくづく自分は恵まれた人間だと思いますね。

 主観的には相当辛いこともあったのだけれど、あらためて外から自分を見てみると、もう、幸せの見本のような人生かもしれない。いやー、いやな奴です。

 まず、オタクになれたという時点で幸福だ(この著者は典型的なオタクになることに挫折した人物である)。友人がたくさんいるという点も幸せ。家族も、まあ、おおむね仲は良い。もちろん虐待など受けていない。経済的にもそこまで困ってはいない。というか、最近、仕事が増えてそこそこ裕福である。

 いやー、何だ、幸せのストレートフラッシュくらいは作れそうじゃないですか? まあ、不幸でもフラッシュくらいは作れるような手札もあるのだが、それについては書いても仕方ないので割愛する。

 あと、これで愛する恋人がいればロイヤルストレートフラッシュも狙えるかもしれないんだけれどなあ。まあ、贅沢いっちゃいけないか。これからは幸せの伝道師海燕を名のることにしよう。

 そういうわけで、幸運と幸福とに恵まれてしまったぼくとしては特に感想らしいものも浮かばない本ではある。

 ただ、解説で斎藤環が語っていることがなかなか面白くて、現代の若者の七割くらいはLINEなどのツールで接続されることによって、貧しくはあってもそこそこの幸せは手に入れているというのである。

 そして、ただし、そこから排除された三割の若者は、これはもうかつてないくらい不幸だというのだ。どうも、七割ですいません、といいたくなるような話なのだが、これはけっこう的確な数字かもしれないな、と直感的に思う。

 もちろん、