「これ、今日の売り上げ……です」
それから、用意しておいた巾着袋の中身を全て差し出した。
――合計、千円。たった二枚しか売れなかった本日のチケット代を。
ふと、何かライトノベルを読んでみたいと感じたので、蒼山サグのロリータロックバンドラブコメディ『天使の3P!』を読んでみた。
――いや? 違いますよ? ぼくはロリコンじゃないですよ? でも、ほら、あれじゃないですか。小学生とか可愛いじゃないですか。ロックバンドとか格好いいじゃないですか。そのふたつが合わされば無敵じゃないですか。だから読んでいるだけで、決してロリコンじゃないのです。はい。
と、不毛なイイワケは良いとして、作品について書こう。このシリーズ、3年くらい前に第1巻を読んだあと放置していたんだけれど、いつのまにか第5巻まで出ていた。第1巻は面白かった記憶があったので、粛々とKindleで続刊を購入したしだい。
で、第2巻の冒頭からいきなりすごい。ある朝、主人公が目覚めると、妹(10歳)が自分の写真を拡大したポスターを壁やら天井に貼ってまわっているところから始まる。彼女がいうには、「ガス抜き」らしい。
「お兄ちゃん、ここのところ小学生まみれの生活を送っているでしょ。しかもみんなかわいい子たちだから、いつかうっかりヤマシイ気持ちが生まれちゃうかも。そうなったら大変だから、タイホされるまえに私の写真で小学生欲を満たしなさい」
――すげえセリフだ。そんな超絶理論は初めて目にしたよ。センス・オブ・ワンダー。目からうろこ。人類には小学生欲という欲望があったのか。べつにロリコンじゃないけれど、ちょっと感心した。感銘すら受けた。
で、さらにこの会話はこう続く。
「生まれないよ……」
「だからそれは、私と一緒に暮らしているおかげでしょ。でなきゃ今ごろお兄ちゃんなんて見慣れない小学生の魅力にデレデレのメロメロだったに決まってるわ。感謝しなさい!」
すげえロジックだ。圧巻の展開だ。感動せざるを得ない。ちなみにこの主人公、現在中学生なのだが、毎日、小学五年生の妹といっしょにお風呂に入っている。
うむ。家族だからね、それくらいはあるよね。合法、合法。さすがにウケている(と思う)作品は冒頭からして平凡ではないなあ。色々と間違えている気もするけれど……。
でもまあ、こういう「やりすぎている」感じは嫌いじゃない。おそらく一部の読者の拒否反応を生み出すくらいディープな描写なのだけれど、ぼくは「そういうもの」が好きなんだなあ、とあらためて思う。いや、ロリコン描写のことじゃなくてね……。救けて、ナボコフ先生!
ともあれ、前作で些細な偶然からとある小学生ガールズバンドに関わり、彼女たちをプロデュースしていくことになった主人公は、今回、「小学生まみれ」になりつつも、現実の重く厚い壁を前に苦闘することになる。
いままさに失われようとしているある教会を救うためには、このガールズバンドで一定額のお金を稼ぎ出さなければならないのだ。だが、その何とむずかしいことか。
「音楽で食っていく」ことは、しばしば青くさい夢の代表のようにいわれるが、まして小学生のバンドで多額のマネーを生み出そうと思ったらことは簡単ではない。殊にいまは音楽がカネにならないといわれるご時世でもあることだし。
いったいどうしたものかと思い悩む主人公たちは、それでも何とか行動を開始する。しかし――。うーむ、一見するとただの甘ったるいロリコンラノベのように見えて、意外にシビアな話である。
というか、ロリコンにウケそうな甘ったるい「天使」たちの描写と、現実的にシビアな展開がマッチしてバランスを取っているのだろう。売れるエンターテインメントは甘いだけでも、シビアなだけでも成り立たないわけで、ここらへんの秀抜なバランス感覚はさすが。
ここには「好きなこと」をお金に換えようとするときにひとが直面する普遍的な問題が描かれている。
「好き」は、ただ好きなだけでいるうちは、楽しくて、面白くて、愉快で、痛快で、人生を実り豊かにしてくれるのだけれど、一転、それを「ビジネス」に変えようとすると、そこにはある種の困難が待ちかまえているのだ。
ぼくも一応は「好き」を「お仕事」にしているひとりなので、その問題はよくわかる。まあ、このブログなんて、いいかげんかつ好き勝手に書いているように見えるかもしれないし、じっさい半分はその通りなのだが、残り半分で色々と試行錯誤しているのもたしかなんだよね。
たぶん、読んでいるひとが想像するよりは色々なことを考えている。それはもう、この半月だけでも色々と試して、失敗をくり返して、それでも「その先」へ行こうと試みていたりするのである。
基本的に「無理ゲー」である有料ブログに、「こうすればいい」という方法論はない。成功した先人のサンプルもない。だから、一から自分で考えて、自分なりの方法論を組み立てて行くよりほかないのだけれど、それって攻略法が見つかっていないゲームをひとりでクリアしようとするようなもので、まあ、無茶なのである。
ロックバンドでお金を稼ぐ。ブログを書いてお金を儲ける。どちらも簡単なことではない。いや、あるいはじっさいにやっていないひとからすれば、「何であの程度のものがカネになるのか」と思うかもしれないし、じっさい、プロの作品でも大したことがないものはたくさんあるだろう。
しかし、そうはいっても、「「好き」でお金を稼ぎつづける」ということは、じっさい、生半可なことではない。一時、偶然にウケてお金が転がり込んでくることはあるかもしれないが、それを続けるとなると、やはり一定以上の才覚や実力が必要となってくる。
「ただたまたまウケているだけ」などということはありえないのだ。「ひとに受け入れられてお金をもらう」ということは、多くの人が思う以上に大変なことなのである。なぜなら、それは「自分以外の世界」という本来どうにもならないものを動かすことなのだから。
ぼくにしても、ただ好きなものを好きなように書くだけでは成り立たない。ニコニコチャンネルで書く以上、はっきりとウケるネタとウケないネタというものがあって、ウケないネタをいくら書いたところで、会員は増えない。
それなら、ウケるネタを集中的に書いていけばいいのか? そうすれば簡単にお金を稼ぎ出せるのか? というと、実は案外そうでもない。