and_276618.jpg今回は、今までこの連載に届いた質問のいくつかについて答えてみようと思う。しかし、私だけではちゃんと答えきれないことも多いので、今回は特別に関西学院大学社会学部の金明秀教授に解説をお願いしてみた。

質問1)

朝鮮学校は何立ですか?朝鮮学校とナショナルスクールの違いを簡潔に教えてください

朝鮮学校は、各都道府県の学校法人が運営している各種学校で私立です。朝鮮学校の生徒は、現在は韓国籍の者が大半であり、朝鮮籍や日本国籍、その他の国の国籍を持つ生徒もいます。授業では朝鮮語を使用しています。

朝鮮学校の教育課程は日本の制度に合わせたものとなっています。

詳しくは SYNODOS JOURNAL 朝鮮学校「無償化」除外問題Q&A 金明秀

http://synodos.livedoor.biz/archives/1929030.html をどうぞ。

★金教授

ナショナルスクール(外国人学校)というのは、出身国の学校教育に準じた教育を実施することを主たる目的として出身国外に設置された教育施設です。言い換えると、児童や生徒が帰国した時に困らないようにするための教育施設です。

「出身国の学校教育に準じた教育」というのは、国によって違うけど、海外にある日本人学校を例にとると、(1)文部科学大臣から国内の小学校、中学校、若しくは高等学校と同等の教育課程を有するという認定を受けている、(2)教育課程は、原則的に国内の学習指導要領に基づき、教科書も国内で使用されているものが用いられている、(3)日本人学校中学部卒業者は、国内の高等学校の入学資格を、高等部卒業者は、国内の大学の入学資格をそれぞれ有する、ということです。

それに対して、朝鮮学校などの民族学校は、居住国の学校教育の枠内で、出身民族の言語と文化の習得を主たる目的として設置された教育施設です。言い換えると、その国で生まれ育った民族的マイノリティの児童や生徒が、民族文化をきちんと修得することで劣等感にさいなまれずに健全に育成するための教育施設です。

朝鮮学校は50年代に入ってから北朝鮮風の教育を実施してはいるけど、学習指導要領は日本のものに基づいているんだよね。教科書も日本で作っているし。教育制度も北朝鮮のそれではなく日本と一緒だし。だから、外国人学校ではなく、典型的な民族学校です。

面白いのは東京韓国学校のケースですね。出発は在日韓国人のための民族学校でした。それがニューカマーの教育施設に軒を貸したつもりでいたら、いつのまにか母屋を乗っ取られて、現在はほぼ完全に韓国の外国人学校になっています。(カリキュラムは韓国準拠、校長先生も韓国の文科省から派遣されてきている)

質問2)

本文中にある権利のなかには選挙権ならびに被選挙権も含まれると思います。権利があるということはその対価としての義務があると思います。ここで質問です筆者の方は選挙権ならびに被選挙権をえるための義務はなんだとお考えですか?(以上2つ、ハンドルネーム:山南佳祐さんから)

権利には「先天的に備わっているもの」と「そうでないもの」があると思います。他者の存在とは無関係な、絶対的な権利というものが、それが人権だと考えています。人権は、誰かが認めるからこそ存在するものではありません。選挙権もそれと同じです

それに対して、責任や義務は後天的なものであり、選挙権などの権利に対してはこれが成り立たない事柄だと考えます。

すなわち、選挙権に対して国民が負う義務はないということです。

★金教授

天賦人権説(自然権としての人権)ですね。日本の保守派には人気がない思想なので、そこが気になるところではあります。

まあでも、天賦人権説をとるかどうかはともかく、日本も(憲法で国の権力行使を制限して、国民の自由の保障を図る)立憲主義を採用している以上、権利と義務をバーターで考えること自体がおかしいと主張することは大切だと思います。

おそらく質問者としては、天賦人権説も立憲主義も(たとえ知っていたとしても)どうでもいいんだよね。もっと直感的な次元から発している質問だから。「社会の一員として義務と権利があるという直感」が先にあって、その直感を揺るがす存在である在日はどうなってるんだ、という質問だよね。

これに正面から答えるのは、けっこう難しい。

ただ、側面にいなすとしても、3通りのやり方があると思う。(1)直感がおかしい、(2)直感が揺るがせられるというのがおかしい、(3)揺らいだ直感の修正方法がおかしい。

天賦人権説や立憲主義をベースとした信恵さんの回答は(1)の手法ですね。人権は誰にだってあるわけだし、人権と義務はトレードオフの関係じゃないんだと説得する。

それに対して、(2)は、「在日は義務を果たさずに権利だけもらおうとしている」という前提がおかしいと主張する手法です。この場合、義務はちゃんと果たしている、というような論点が中心になります。ただ、このアプローチだと、「税金を払っているから選挙権をもらいたいということか、それは普通選挙の否定だろう」という反発を引き起こすので、難しいところがあります。

最後の(3)は、国籍国と居住国のずれが深刻な矛盾を生んでいる(という直感がある)なら、そのズレを前提としたうえで選挙から排除するのではなく、選挙に包摂できるようにズレそのものを解消すべきだという主張があってもいいわけです。

ドイツでは、移民二世に参政権がないなんておかしいという議論が起こり、国籍法が改正されました。ドイツ生まれの二世は、両親の国籍と同時にドイツ国籍が出生と同時に付与されるようになった。

ズレがあるから排除する、ズレがあって不公平だから改善する、という2つのやり方を現実にとりうるとき、前者を採用するのはもともと排除が目的だといわれてもしかたがないだろうね。

 

■資料)在日コリアンが帰化したときの「できること・メリット」と「デメリット」

 

○帰化したらできること・メリット

選挙権(参政権)、立候補もできる。

公務員への就職

年金・保険・教育・福祉など社会保障面で日本人と同等の権利を持つ。

土地の所有がしやすい

住宅ローンや仕事の資金の借り入れなど、銀行との取引が容易になる。

日本のパスポートを持ち、外国で日本政府による庇護を受けられる。

(多くの国へビザなしで渡航など、外国に行きやすくなる)

日本人と結婚した場合、同一の戸籍に入れる

外国人登録、海外渡航時の再入国許可が不必要になる

犯罪行為などを犯した場合でも、強制退去の対象とならない

(永住許可の場合はそもそも国外退去になることはまれ)

※心理的には

外国人差別にあう機会が減る

就職差別に遭遇することが減る

日本人との結婚手続が簡単になる

 

○帰化するデメリット

母国の国籍喪失(日本は二重国籍をみとめない)。

母国の旅券が無くなるので、国によっては、日本からの渡航が不便に。

再び母国に帰化しなおすのは事実上無理

 

ちなみに通名は、全ての在日外国人(韓国・朝鮮人に限りません)が使用できます。

(李信恵)

※この記事はガジェ通ウェブライターの「李信恵」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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