今回は田下 広夢さんのブログ『田下 広夢の記事にはできない。』からご寄稿いただきました。
■ゲームのパッケージがDL版に切り替わる小さな兆候
コンシューマーゲームにおける、フルプライスのソフトのパッケージとダウンロード版のお話。
この手の話をすると、わりと簡単にゲームのお店なんてなくなってみんなダウンロードになっていくでしょ、ということをいう人もいるんですが、問題はタイミングで、今もうダウンロード版がどんどん売れているのか、それともいつかはダウンロード版に大きくシフトするけどずっと先のことなのか、そういうことが重要だったりします。
で、たった今どうなのかというと、コンシューマーゲームの流通の大部分はパッケージの販売によるものです。「とびだせ どうぶつの森」なんかの飛び抜けた例が一部にあることはありますが、概ねはほとんどのゲームがパッケージを中心に売れています。もちろんどうぶつの森にしたって、ダウンロード版がパッケージを凌駕しているわけじゃないですしね。これが現状認識。
そのダウンロード版の動きを知る上で、ヒントになりそうな話をあるゲームメーカーの中の人に聞きました。ただしこれは、それこそ「とびだせ どうぶつの森」なんかから比べると、ものすごく小さい小さい数字の話です。
数字が小さいだけにだけに、恐らくメディアにはまずでてこないと思います。中には、そんな小さい話をしてもねえと、軽視するような方もいるかもしれません。でも意外と、そういう小さい数字の話が積もっていった先に、大きな変換点が訪れる、なんてこともあるような気がします。ということで、ちょっと書き留めておきます。
●1万本とか、2万本とかのソフト
ゲームが何本売れましたという情報は、基本的にたくさん売れたソフトのものばっかり入ってくるので、1万本とか2万本売れています、という話はユーザーさんにはあまり届きません。でも、そういうタイトルはたくさんありますし、それで採算が取れているタイトルもたくさんあります。
ゲーム業界では、メーカーがお店に対して、初回提案数というのを提示します。発売日にどのくらいの量の本数を流通させたいか、という本数で、それが1万本とか2万本のゲームというのは、さして珍しいわけではありません。洋ゲーのローカライズで、2万本ぐらいで商売になる(もちろんゲームによって全然違いますが)というのも、僕はインタビューで聞いたことがあります。
ただ、例えば初回1万本のゲームというのは、仕入れないお店がある、という数字です。つまりそのソフトはいりません、うちにはおきません、ということです。
●お店にないソフトがDLで売れる
で、その初回1万本とか、それ以下のゲームのダウンロード版が伸びているんだそうです。当たり前と言えば当たり前の話です。お店にないんですからね。
初回数千本なんていうソフトは店舗からは見放されてるわけですが、それがダウンロード版で伸びちゃう。週販でみると、なんならパッケージよりもずっとダウンロード版の方が売れているというぐらいの現象が起きている、なんてこともあるそうです。
●ゲームが売っていないお店にはいかなくなる
僕にそれを教えてくれた人は、営業さんなんですが、危機感を訴えていました。こういうことを放置しておくと、少しずつお店から人が離れていってしまうんじゃないか、と。「メーカーの人はダウンロード版を売ればいいと思ってるんでしょ」なんて思う人もいるのかもしれませんが、メーカーも1枚岩じゃないんですね。
営業さんは、お店あっての営業さんですから、ダウンロードが主流になってお店が無くなれば営業さんの仕事は無くなっちゃうんです。僕にこのことを教えてくれた人は、わりと早くからそのことを理解していて、ダウンロードの波に対してお店の施策を考えたりしていた方でした。
1万本のソフトはお店の売り上げ的にはインパクトはありません。ただ、ユーザーが折角お店に足を運んだのに品物が無くて、結局ダウンロードの方がずっと便利だった、という購入体験を作っていしまっていることには注目する必要があります。
買う買わないに関わらず、とにかくお店に来てもらう回数を増やさないと、お客さんはそのお店で商品を買ってくれない、というのはお店の方なら経験的に理解していることだと思います。行っても結局欲しいものが無かったお店に、お客さんが何度も足を運んでくれるかというのは、かなり疑問です。そしてそれは、売れるはずの人気商品、定番商品の売れ行きにも関わります。
●実は伸びている、こともわからない
もし、お店が1本でもソフトを仕入れていたら、全然売れないと思っていたけど、実はそれなりに需要があったことに気づけます。1本が売れたら、また1本仕入れて、地味に売れてるなあと分かります。でも、1本も仕入れていないと、需要があったのかどうかすら分かりません。
1万本ぐらいのソフトがダウンロード版でいっくら売れようとメーカーは数字を公表しませんし、メディアにも載りません。だから、分からないうちに侵食されます。いつの間にかジワジワと、ダウンロード版の割合が増えていきます。お店に行く頻度が減っていきます。
●メーカーは、すぐに気がついて動き出す
先ほどメーカーでも営業の人はお店を守ろうと動くという話をしましたが、とはいっても企業の方針としては当然、より儲かる方に舵を切ります。
たとえ絶対数が小さいタイトルだったとしても、お店にソフトがなければダウンロード版に流れるんだな、というのはメーカーさんはすぐに気がつきますし、そうしたらやれ店舗特典だ、やれPOPだ、イベントだと、必死になってお店にゲームを押しこまなくてもダウンロード版にもっと力を入れた方がいいかもしれない、という発想は当然出てきます。
●大きな変化が起こった時にはもう遅い
というわけで、実は非常に規模の小さいソフトで、ダウンロード版にかなり流れている、というお話でした。絶対数で言えば、確かにほとんど気にする必要が無いくらいの話かもしれませんが、これが大きなタイトルでバンバン同じ事が起こるようになってからでは、何もかも遅いんです。
恐らくこの流れは不可逆で、ゲーム屋さんの過当競争というのが非常に厳しくなっていくんじゃないかと思います。ちなみに、任天堂がやっているような、ダウンロードカードならお店でも売れるじゃないか、と思うかもしれませんが、中古が売れなくなると、結局ゲーム専門店は潰れます。コンビニのような、ゲームが主力商品じゃない売場ではとてもうまく回る仕組みですが。
お店の側に立って考えて見た時、残れる店と、無くなる店に分かれていくであろう環境下で、残れる側に回るには、今のうちにお店で買うメリットというのを必死になって作っておく必要があるんじゃないかと思う次第です。
もっとも、じゃあ、仕入れておけばいいじゃんと言えるかというと、1万本程度しか売れないタイトルは不良在庫にもなりやすいわけで、そこにはどうしようもないジレンマもあります。ただ、度々申し上げている通り、企業としてどうかはともかく、メーカーの営業さんはまだまだお店の味方なんです。その人達が元気に働いている今のうちに、考えられるあらゆる手立てを打っていく必要があると思うのです。
コンシューマーゲームは、まだまだパッケージの方が元気です。でも、DL版が動いている小さな気配があります。その気配に敏感に反応しないと、あっという間に大変なことになるかもしれません。
執筆:この記事は田下 広夢さんのブログ『田下 広夢の記事にはできない。』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年5月24日時点のものです。
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