今は太平洋戦争中なのか?

今回は山本弘さんのブログ『山本弘のSF秘密基地BLOG』からご寄稿いただきました。

■今は太平洋戦争中なのか?
なんか戦時中の「敵性語禁止」みたいな話で盛り上がってるんだけど(笑)。

「京急品川駅で驚いた」 『Togetter』

http://togetter.com/li/436309

京急品川駅の案内板にハングルが表示される! けしからん! と驚き、腹を立ててる奴が多数。

@photon2039v2 @fuwari_kitten 実際に京急に乗る際、ハングルの表示しか出て来ず電車に乗り遅れ飛行機に乗り遅れそうに..。抗議をしたら現場ではハングル表記は不便との認識でしたが上層部が決めたそうです。どしどし、抗議電話して欲しいと現場で言われました。

@Tomotann_RX7 @fuwari_kitten 本当にひどい。悲しくなりますね。大多数の日本人が犠牲になっています。

これはいつ見ても酷い!さらに不便。表示変わるのに時間かかる。RT @fuwari_kitten: まるで移民政策。京急の品川駅。 http://t.co/rhldDsG3(現在、このページは存在しません。)

嘘である。

実際の表示はこんな感じだ。

「おもしろい電光掲示板 品川駅電光掲示板」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=vvP233_uexo

日本語10秒→中国語(簡体字)5秒→英語10秒→ハングル5秒→日本語10秒というサイクルであることが分かる。つまりハングルが表示されていても5秒待てば日本語に切り替わるのだ。これで「ハングルの表示しか出て来ず電車に乗り遅れ飛行機に乗り遅れそうに」なんてありえない。当然、「抗議をしたら」云々という部分も捏造だろう。

そもそも京急電鉄の品川駅は、羽田空港からの快速や特急から、JR線や新幹線に乗り換える駅。つまり外国人がよく利用する。外国人向けの案内が出るのは当然なのだ。

「路線図・各駅情報」 『京急沿線情報サイト 京急まちWeb』

http://www.keikyu-ensen.com/train/kakueki.jsp

なぜ韓国語と中国語と英語の案内が出るかというと、理由は簡単。今、日本を訪れる外国人の中で、ダントツに多いのが韓国人。次に中国と台湾、それに英語圏の人たちだからだ。

「出入国管理統計」 『e-Stat』

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001089430

平成23年は震災と原発事故の影響で、入国者が前年の75%に激減したが、それでも713万5407人が入国している。その内訳は、

韓国 191万9876人

(全入国者の27%)

【中国語圏】

中国 133万2700人

台湾 103万8934人

香港 34万9738人

(全入国者の38%)

【英語圏】

アメリカ 59万9506人

オーストラリア 23万1399人

フィリピン 17万5759人

イギリス 15万0044人

カナダ 10万7368人

ニュージーランド 3万3712人

(全入国者の18%)

これだけで全入国者の83%を占める。つまり案内板を韓国語、中国語、英語で表記すれば、ほとんどの外国人観光客に対応できることになる。合理的な判断である。

ハングル文字見るだけでマジでめまいと吐き気がするんですけど((((;゚;Д;゚;)))) RT @ggtopp: キムチ悪い。マジ勘弁 RT @fuwari_kitten: まるで移民政策。京急の品川駅。 http://t.co/YrLJmvDj(現在、このページは存在しません。)

こういうことを平気で書く奴って、ハワイや香港にたくさんある日本語の案内看板について、外国人から同じことを言われたらどう思うんだろう? 「ひらがなやカタカナ見るだけでマジでめまいと吐き気がするんですけど」とか言われたら?

コメント欄の方は対照的で、まともな意見が多くてほっとする。駅の案内板に噛みついている心の狭い連中の方が少数派なんだろう。

それでも中には、こんなトンデモさんが。

観光客はシナハングルだけではない。その他の国の観光客が最初に目にする駅名表示版がすべてハングル併用になっていれば、観光客は日本をハングル文化圏と錯覚する。

いねーよ、そんな錯覚する奴(笑)。だったら英語が併記された案内板を見た観光客は、日本が英語文化圏だと錯覚するのか?

つーか、これに驚いてる連中って、どうも京急品川駅だけがこうだと思っているらしいんである。今や日本のどこでも、中国語やハングルによる表示なんて当たり前にあることに気づいていないのだ。

試しに「駅名 ハングル」*1で画像検索してみたら、実例が山のようにヒットした。

*1:「駅名 ハングル」 『Google画像検索』
http://www.google.co.jp/search?&q=駅名+ハングル&tbm=isch

これは大阪の堺筋線(僕もよく利用してる)の電光掲示板。

「長堀橋のフルカラーLED電光掲示板」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=WULbOl2nBCs

「天神橋筋六丁目駅ホーム 行先案内表示板」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=txs54rCZpgg

こちらも大阪・谷町線の車内ディスプレイ。

「大阪市営地下鉄 谷町線 30000系 車内液晶ディスプレイ」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=a75VTKo5ij0

こっちは九州新幹線のアナウンス。

「九州新幹線 韓国語、中国語アナウンス」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=6URhrVJuzhk

これは阪急京とれいんの嵐山観光説明アナウンス。

「阪急京とれいん 嵐山観光説明アナウンス」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=OL59ZYNjpC4

これは桜島フェリー。

「桜島フェリー アナウンス Sakurajima Ferry」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=3y53nfDhyas

ヨドバシカメラなど、もう何年も前から、日本語以外に英語・中国語・韓国語などで店内放送をやっている。

「ヨドバシカメラ六ヶ国語アナウンス」 『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=Q1Tt7Ef6HZQ

つまり京急品川駅の表示板で驚いてる連中って、普段、身の回りをぜんぜん見てないんだよね。

もしくは何年も外出してないのか。

昔は英語圏からの観光客が多かったから、駅の案内などに英語表記が多かった。今は韓国・中国・台湾からの観光客が多くなったから、韓国語と中国語による案内が増えている――それだけのことである。

以前に紹介した井上純一氏の提言の繰り返しになるけど、

「中国問題:井上純一氏の提言」 2012年9月17日 『山本弘のSF秘密基地BLOG』

http://hirorin.otaden.jp/e253556.html

そもそも日本に観光に来る韓国人・中国人の大半は親日派だろう。そういう人たちに親切にして日本の心証を良くするのは、日本の国益にかなうことだ。年間100万~200万人も訪れる観光客が、自国に戻って日本の良い印象を語ってくれたら、ずいぶん大きな宣伝効果ではないか。

逆に親日派の外国人に不親切にしても、日本の印象が悪くなって観光収入が激減するだけで、日本にとって何の益もない。

執筆: この記事は山本弘さんのブログ『山本弘のSF秘密基地BLOG』からご寄稿いただきました。

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