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運転免許証の更新にいった母親が、しょげて帰ってきました。

視力があと0.1足りずに更新ができなかったというのです。喜寿を迎える父親と二人、田舎で暮らしているので、日常生活に車は欠かせません。運転は自宅から半径3キロくらいの生活圏を買い物や通院で移動するのに絶対必要で、見通しの悪くなる夕方や夜間、雨の日などは運転をしていません。最近では友達の家には行っても車には乗せないという方針を決めているそうで「自衛する老後」を自でいくような運転ぶりでした。

その前におこなわれた車を使った運転講習では、「年齢の割に上手い」と指導員から褒められていたそうで、気分がもり上がっていただけにショックも大きかったのでしょう。

この10年、高齢ドライバーの運転事故が増え続けている中で、免許更新時には高齢者を対象とした特別な運転講習が行われるようになりました。

対象となるのは70歳を過ぎてからで、通常高齢者の定義である65歳以上とは異なります。今の方はとても若いので、70歳をこえてからでいいということになったのかもしれません。

高齢者講習は、ビデオやテキストを使った30分ほどの講義のほかに、運転適性をはかる検査機を使用して動体視力や反応速度を測定するもの、さらに実際に車を運転して指導員の助言を受けるという3つのカリキュラムをクリアしなければなりません。

さらに75歳をこえると予備検査が加わり、いわゆる認知力測定として、記憶力や判断力を測ってくれます。

まずは、長谷川式のような今日の日付、曜日を応えて時間の見当識や記憶力をはかることからはじまり、イラストの描かれたボードを使って答えを示す手がかり再生で記憶力をはかります。さらに時計描写を用いた視空間認知力をはかることなど、判定された結果に基づいて、きめ細かく講習が進められるようになっているそうです。

検査の結果から、記憶力・判断力の低下がみられたり、一定の期間で信号無視や一時不停止などの交通違反が見つかったりした場合には、専門医の診断を受けなければならず、そこで認知症と診断された場合は、免許が取り消されてしまいます。

それでは母のような年寄りたちは困るので、そうした人の生活を補うために位置づけられたのが外出支援サービスですが、行政や社協などのいう介護保険の延長線上の「外出支援サービス」は、 ①公共交通機関を利用することが困難である、②概ね65歳以上の自宅で暮らす要援護・要介護者、③病院や福祉施設に通うこと、あるいは役所の手続きに行くこと等が目的である、④福祉仕様などの専用車を使用したもの、というのが定義とされています。

要するに日常生活の困りごとを生活交通や移動面から支えて、地域での暮らしの利便性を図るというもので、介護予防と一体で市町村に権限移譲が為されました。そこで、これからは地域によっては、こうしたサービスの対象とならない方への移動サービスも行うようにするなど、サービスの内容や対象者が異なることもでてくるでしょう。社会福祉を考えれば疑問に感じることもありますが、まずは自分の住む地域がどんなルールを定めているのか、高齢であるか否かに関わらず、予防から暮らしを自衛する上でもよく知る必要があると思います。

「眼鏡をつくり変えたら、免許がとれたよ」と元気な母の報告があってホットしています。


【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。