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「そんなに大変な思いをしてまで、出かけなくてもいいでしょう」
介護が必要な人の思いを知らない人からは、そう言われることがある。言う方に悪気があるわけでなく、むしろ本人を気遣ってのことだ。しかし、そうした何気ない言葉が周囲の意識に壁をつくり、要介護者の外出を阻んでいるのも現実だ。
トラベルヘルパーの育成をはじめて20年になる。
当時を振り返れば、看病はあっても介護という言葉もなかった。しかし、旅行者の高齢化は社会のそれより早くはじまっていて、サービス現場はいわゆるバリアフリー旅行の必要性を感じていた。
観光旅行に出かけるには時間とお金が必要で、それらを自由に手にできるのは子育てや仕事を終えたシニア層だ。そうした人が、先の東京五輪の年にはじまった海外渡航の自由化や高度経済成長を経て、リタイア後の熟年旅行を謳歌していた。
ところが、そうしたライフスタイルも10年、20年と続けるうちに年齢は70を越え、足腰に痛みがでてきて日常生活もままならなくなる。それを苦にあきらめてしまえばそれまでだが、一旦豊かさを知った人は心の奥底には「もう一度旅をしたい」という願いを隠して言い出せないままでいた。健康に不安を感じ、介護が必要になれば行動範囲はさらに限られ、その思いはなおさら募った。
トラベルヘルパーもはじめはそうした人の思いを理解し、重いスーツケースを持つ助けとなればいいと考えていた。しかし、障がいを持つ人の旅に知恵を借り、その経験を聞き、現場を訪ね、手探りでプログラムを作っていくうちにもっと大きな課題の存在を感じることになる。世の中はまだ、そうした人の旅を喜んで受け入れてくれるような雰囲気にはなっていなかった。そこから介護旅行へのチャレンジが始まった。
平成27年2月号(平成27年1月15日発行)
【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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