エンディングノートをつくることで、自分らしい終末を迎えようと考えることが新鮮に感じるという。死をタブーとせず、最期まで「自分らしさ」を追求する好奇心を示す人が増えているようだ。
遺言とは違うエンディングノートは、いわば人生の終わり方を自分自身で決めるライフデザイン。自分が死んだときや、認知症のように意思の疎通ができない病気にかかったときに自分が望むことをあらかじめ記しておく。例えば延命措置を行うか否か、介護が必要になったときはどうかなど、自分の意思を記しておく。財産整理や相続に関する希望、葬儀の出し方など、死んだあとのことも記入できるようになっているが、それまでにどうしてもやっておきたいこと、行っておきた場所など、生前の時間をどう過ごすかを自ら整理、確認することができる。法的効力はないが、「死期の指示書」をつくることで、残された家族の戸惑いが少なくなるという。
昨年、国がまとめた調査では、65歳以上人口が3千万人を超え、高齢者の総人口に占める割合も24.1%と過去最高になった。いわゆる団塊の世代が65歳に達し始めたのが大きな理由にある。その世代が生まれた昭和21年に始まったのが漫画サザエさん。当時から54歳の波平おとうさんを見れば、気持ちも身体も今とずいぶん違うのがわかる。健康寿命が30年延び一世代は若がえっている。
豊かな日本を築いたと自負する世代は、独自の生き方をもち自由を謳歌してきた。一方で強いリーダーに惹かれるという集団性もある。ところが、いざノートを前にすると、自分が一体何をしたいのか書けずにいる人が少なくないという。その団塊世代にとって大きな影響を与えてきた親や先輩が今、後期高齢期に入り、介護も他人ごとではなくなってきた。
「健康の為なら死んでもいい」という米国では、ベビーブーマーと呼ばれる彼らをリードした世代が今も元気に活躍している。南部を旅すればカントリーからブルース、ジャズやロックと文字通り、NO MUSIC,NO LIFEの人生を楽しむ人が集まる街を巡ることができる。古き良き時代のアメリカには、D.J. フォンタナなどプレスリーと活躍した往年のミュージシャンが今も元気にステージに立っていて、そこにはベビーブーマーが今も憧れるカッコいい生き方の手本がある。時はさらに彼らの価値を高め、地域に観光収入をもたらしている。そんな奥行の深い社会の魅力を教えてくれる旅は嬉しい。
リタイア後のシニアの旅を支えたのは、ホームドクターならぬホームトラベルエージェントの存在だった。カリブ海クルーズやアラスカ旅行の計画などハッピーリタイアメント後の自分らしい旅の相談にのってくれた。日本でも地域旅行会社が増えたが、そうした役割にも期待したい。
富も自由も手にした日本の高齢者が第三の人生に迷うなら、かつて欧州貴族が次代を担う子供に与えたグランドツアーのように、旅に出たらいいと勧めてみたらどうだろう。日常生活と勝手の違う旅に出れば不自由も経験し、おのずと人が磨かれていく。
第三の人生には卒業がないのだから、生涯かけて自分磨きを続けなければエンディングで価値が下がってしまうだろう。
贈与税非課税制度が創設された。子や孫への教育資金1500万円までが非課税となる。半端な金を残せば、家族が余計ないさかいを起こすのだから、かわいい孫にも学びの旅をさせたらいい。 エンディングノートの仕上げは、「子孫の為に美田は買わず」の精神が肝要と講師は教えてくれる。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。