【結城登美雄の食の歳時記#29】ふるさとと水のある風景(川の恵み編・最終回)
身近な水環境、田んぼや川や沢にいる魚についてお話してきました。ドジョウ、アユ、シジミ、コイ、フナ、ナマズ、ウグイ、ウナギ、川エビ、川カニ、沼エビ、ワカサギ。最近食べましたか?これらの魚はちょっと地味な存在ですね。でも郷土色の文化の香りや季節感を添えてくれるものとしてまだ、少ないですが食べ続けられているようです。
宮城県内には北に北上川、南に阿武隈川の大きな川があります。そして奥羽山系から鳴瀬川、江合川、広瀬川、名取川などいく本もの川が流れ、その流域にたくさんお集落があります。伊豆沼や長沼、蕪栗沼(かぶくりぬま)などの湖や沼があります。南北に低山運河があり、無数の農業用のため池や田んぼとつながる水路が縦横に走っています。
考えてみると宮城県はたくさんの水環境に囲まれて暮らしているのだと気づかされます。かつてこれらの川、沼、沢は生き物の宝庫でした。農作業の合間に息抜きにそこへ出かけていって今晩、明日のおかずを獲るところでもありました。そしてそれらを獲るという楽しみの遊びの場でもありました。子どものころも川や沼に出かけて、釣り糸を垂れたり、網ですくったり、やすでカジカを突いたりしました。その思い出は今でも、川や沼を見るたびによみがえってきます。
しかし、いつのまにか水のある風景から離れてしまったような気がしています。そして気がつかないうちにこれらの水環境を汚してしまっているかもしれません。川や湖沼での漁業は内水面漁業と一般にはいわれています。その漁獲量は海の漁獲量の2%にも満たないものです。ですから、あまり注目されませんけれども気づかないうちに資源がだんだん減っているような気もします。
もっと美味しいシジミが食べられるように、もっと美味しい馬エビやふすべもちが楽しめるように、これらの水環境と水の恵みに関心を持ちたいなと思っています。何よりも身近な水環境に子どもたちを近づけたいなというのが私の願いです。川や沼なども水辺に親しむために、もちろん安全性には十分注意を払いながら、ぜひお父さんお母さんが子どもたちを水辺に連れて行って釣り糸を垂れたり、親が子どもの頃にやったように網を入れたりして一緒に遊んでいただけたらいいなと思います。
そんな体験の中から子どもたちのふるさとの発見や体験が深く心に刻まれるのではないかと思っています。もっと食べるだけではなく、ふるさとを考える場所として身近な水環境と生き物を考えたいなと思いました。(「川の恵み編」おわり)
【今編のキーワード・データ等】
・真室川町
http://www.yume-net.org/modules/bulletin/index.php?storytopic=45
・古川古松軒
http://www.hachiroumebius.sakura.ne.jp/koshoken.htm
・しじみ
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/gaisuu/index.html
・沼
http://www.its-mo.com/c/湖・沼・池・貯水池・潟/04_0200000000%3A0200400000%3A0200400130/
・じょれん
http://www.bidders.co.jp/user/3908315/tebori
【プロフィール】結城登美雄(ゆうき・とみお)
1945年、中国東北部(旧満州)生まれ。宮城教育大学、東北大学大学院非常勤講師。「地元学」の提唱で2005年芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。著書に「地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける」(農文協)「東北を歩く―小さな村の希望を旅する」(新宿書房)など
【これまでの記事】
■結城登美雄の食の歳時記#25<川の恵み編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar311987
■結城登美雄の食の歳時記#20<中山間地域編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar238181
■結城登美雄の食の歳時記#16<農山村と若者編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar215232
■結城登美雄の食の歳時記#12<浜の暮らし編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar190685
■結城登美雄の食の歳時記#8<食育編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar164946
■結城登美雄の食の歳時記#4<麦編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar139064
■結城登美雄の食の歳時記#1<暦編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar126106
コメント
コメントを書く自然、動物とともにあると、ほっとする。
人間も本来のあり方は、自然、動物と異ならない。
ただ違っていることといえば、見たり、聞いたり、知ったり、判断したり することができる。
ただその差だけで、省力的、効率的に時間を使えるので、その時間が文化的生活を享受できる。
現代は、暇な時間は、殆どの若者が、スマホなどと四六時中にらめっこ。
何のための時間的余裕か分からなくなっている。
自分ってなんだろうと、見つめている人を探すのに苦労する。
人間って、何のために生きていると問いかけても、殆どの人は答えられない。
自分の心と対面せず、物質追求に明け暮れするからです。