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 この国はおかしい。米倉経団連会長は3月16日に福島原発を津波に耐えて素晴らしい、原子力行政はもっと胸を張るべき」と述べ、4月6日には「東電は甘くなかった」と発言している。国民は決してそうは思っていないだろうに。
 今回、巨大地震はいつどこで起こるかわからないことは、骨身にしみてわかったが、100年に1回の周期で繰り返し来ている「東海・南海大地震」も、既に150年になるので、明日発生してもおかしくない深刻な状態にあることを日本は認識しなければならない。
 今の日本は非常時である。このようなときだからこそ、災害に強い日本列島の改造に取り組まなければならない。

防災復興府への権限を

 今、まさにその時期を迎えたのだ。
 まず、政府に防災復興府を設けることを提案する。 これまでのように、がれきの撤去一つにしても、管轄は総務省だ、いや財務省の了解を得なければならな いとか、放射能の汚染についても文部科学省所管だ、食品の安全基準は厚生労働省の所管だ、土壌は農水省でと言っていて官僚間で調整をやっているようでは間に合わない。
 学者など専門家による復興会議を開いて復興計画を作成するにしても、「会議は踊る」の例えもあるように時間ばかりかかって、このようなことでは国家的危機を乗り越えることはできない。
 この際、総理大臣の下に、内閣府と並んで各省庁の上に立って直接総理を補佐する「防災復興府」を常設の機関として設置することが必要である。そして「防災復興府」に、権限と財源を集中させて明確な指揮系統の命令の元に「ヒト・モノ・カネ」を迅速、大胆に運用して復興計画の実行に当たる。当然のことながら 防災復興担当大臣を任命して、現地にも各県の副知事クラスを集め、現地対策本部を置き、その地域に即した防災復興計画を直ちに立てなければならない。

目標は食糧・エネルギーの再構築

 この際、復興計画の基本理念とするのは、食糧とエネルギー(自然再生エネルギーの活用)の地方分散型のセーフティネットの構築にある。それに向けた新たな列島改造計画を立てなければならない。


 まずはがれきの撤去、仮設住宅の設置を各被災市町村の長の専権事項として、被災者から雇用して、雇用の確保を図らなければならない。
 震災直後、私が陸前高田市を訪ねたとき、市長も呆然としていたが、「この際すぐにでも瓦礫の撤去を、被災者を雇って始めたらどうですか」と話すと、「そんなことをしてもいいのでしょうか。県と相談してみます」と答えていた。政府もすぐにでも、現地で指針を示す必要がある。がれきが撤去されて道路が整然としてくれば、住民も復興への希望がわいてくる。

漁港の再整備、陸上設備も同時に

 漁業においては、300から400もある漁港の優先順位を決めて、例えば塩釜、石巻、気仙沼、宮古などを公共事業として集中して整備する。また、魚市場も冷蔵庫、製氷工場も公共社会資本として港湾と一緒に整備する。
 個人経営の水産加工業者には、私が大臣時代に予算措置した無担保無保証、無利息の融資制度を大胆に活用すればいい。

西日本からリースで当座の漁船確保を

 新たに漁に行く漁船を調達しなければならない。
 東日本の沿岸は造船所も流失しているので、漁船の建造もすぐには間に合わない。ワカメの養殖などはすぐにかからなければならない。秋鮭の定置漁もすぐにくるが漁船がなくて動けない。各地の漁業協同組合と自治体、政府が出資し「漁業復興公社」を設立して、西日本各地から中古の漁船を集め漁民にリースで貸し与える。
 私は被災地に行き漁船を失って呆然としている漁民を見て、すぐに五島、壱岐対馬の浜に飛んだ。
「中古で使っていない漁船で分けてくれる船はないか」と訪ねて回った。九州沿岸の漁民は今回の大震災を自分のことのように心配している。
 すぐに反応があった。長崎県の離島だけでも数十隻の漁船は集められそうだ。エンジンだけが外されたFRPの廃船も処理に100万円から200万円はかかるので無数に打ち捨てられている。これらの船にモーターをつけて、電池で走らせるようにすれば、養殖、小型の定置網などはすぐにも利用できる。モーターなら大量に生産すればエンジンの10分の1の価格で生産できる。
 私が農水省の副大臣、大臣を務めているときに、愛媛県が電動漁船の取り組みをしていることに感動した。NEDO(経済産業省の研究機関)の推計によれば、5年後にガソリンが1リットル160円、10年後には200円まで上がるとされている。

燃料対策に再生エネルギーの開発を

 現在それよりも速いスピードで値上がりが続いている。それにつれて重油も当然上がってきて燃費が高騰してくる。そうなれば、再び漁にいけなくなることが予測される。
 太陽光、風力などの自然再生の電気を蓄電して、それを利用して漁ができるようになれば燃費が8分の1で済むはずだ。電池の価格も1キロワットアワーあたり5年間で7分の1まで下がると予測されている。ちなみに、この2年間で3分の1まで下がっている。この勢いではさらに1年後には現在の価格の半額まで下 がるはずだ。
 今年、対馬に電動漁船を試験的に導入したが、この際東日本の小型の漁船は電動漁船に切り替えるのも一つの方法である。今、浜ではFRP漁船の廃棄処分に困っているが、これらの船を電動漁船に改造してその再利用をはかればいい。流失してしまった漁船の代替が可能になる。
 いずれにしても、沿岸の1本釣りの漁業者も、わかめ、牡蠣、ホタテなどの養殖業者も、そのほとんどの人が借金を抱えている。ここでさらに無担保、無保証といえども借金を重ねることは難しい。二重ローンを解消しなければならない。
 漁協が組合員に対する震災前の旧債務を免除することはできないだろうか。ところが、肝腎な漁協の組合は小さなところが多く、その多くは不良債権を抱えて いるのが実情だ。しかも漁業組合の事務所まで流されてしまった。組合事務所そのものは、間借りでもプレハブでも構わないが、市場の維持、職員の給料の支払いにも困っているのが現状だ。
 農林中金において、各都道府県の信用漁連の債務を免除する。県の信用漁連は各漁協の債務を免除する。漁協は漁業者の債務を免除してやる。農林中金に対しては、国が震災救済のための特例措置として10年間、課税を免除すればいいのではないか。
 二重の借り入れをなくすことによって、漁民は再び立ち上がることができる。

養殖漁場回復に「所得補償」制度を

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 それにしてもホタテ、牡蠣などの養殖には収入を得るためには3年はかかる。その間の生活支援についても対策を講じなければならない。
 私が大臣時代に、資源管理を条件に漁業者に対する「所得補償制度」に予算措置をした。稚魚、幼魚、産卵前の親魚の漁を止めて、資源の回復を図ることに 「所得補償」をすることにしたのだ。養殖でも、過剰な養殖で湾内の環境が三陸でもかなり劣化している。この際湾内の自然環境を整えることに、「所得補償」 することも考えられる。
 農業においても同様の対策が講じなければならない。岩手、宮城、福島、茨城だけでも2万4000ヘクタールの水田が潮に浸かって塩害が生じている。この先大量の水で数年かかって塩を洗い出さないと復田できないところもかなりの面積が予測されている。
 何よりも排水施設、水路、導管パイプの補修にすぐさま取り掛からなければならない。これは従来のような土地改良区への補助金ではやれない。

恒久的でシンプルな公共事業を

 国の公共事業として10分の10負担してでも大胆に取り組んでいきたい。いずれにしても、農地を回復することは、国の資産価値を高めて、将来襲い掛かる食糧危機に備えるものである。
 土地改良事業も従来のように、10年20年経つとポンプの電気系統、土中に埋めてある配水管の取替えをしなければならないようなものでなく、恒久的なシンプルにしてしっかりした灌漑施設に切り替えるべきである。
 私の住んでいる長崎県の大村市には江戸時代250年前に深沢義太夫という鯨網の網本が私財をなげうって、野岳湖の造成を行い200ヘクタールの灌漑がな されている。いまだにその水路もそのまま生かされている。アフガンでの中村哲医師の3000ヘクタールの灌漑設備も筑後川の昔の堰の工法蛇籠を利用してい る。
 同時に、水路、水流をあまねく利用する「小水力発電」を利用するのがよい。年間1730ミリの雨量に恵まれた日本は火力についで安定した電源として再び水力発電に力を入れるべきである。
 今度の大震災で農家はトラクターなどの農機具も喪失してしまった。野菜、果樹のハウスもすべて壊れてしまった。再び農業に取り組むには無担保、無保証、 無利息の特別融資のほかに、漁業者と同様な二重ローンの解消対策を講じなければならない。再び農業に意欲を持って取り組める体制を整え、その間の農家が収 入を得るまでの生活支援対策も別途講じなければならない。
 農業所得補償制度はヨーロッパなどの先進国でなされている食糧自給率をあげるために農家の所得を補償するもので、耕作しないことには所得補償しないことになっている。地域を指定して、ある一定期間の特例措置として生活支援のための所得補償を認めなければならないだろう。

原発避難、風評被害に速やかな対応

 福島原発近くの農水産物について、ヨウ素、セシウムなどの放射線が暫定基準値を超えて出荷停止になった牛乳、ほうれん草、魚介類についてはより深刻である。当然、一義的には東京電力がその補償をしなければならない。
 それより、福島、北関東の農産物に対する風評被害が大変な金額にのぼる。それに福島、北茨城、千葉などの漁家は漁にもいけない状態が続いている。これらの農家、漁家の被害も福島原発に起因するものであることは明らかだから、その損害のすべてを補償しなければならない。
 この間全く収入がないので生活もできず困窮している。これらの風評被害にも、政府としてはすぐにでも、とりあえずの一時金の支払いをすべきである。

財源は電源特会積立金

 風評被害農家には、漁家も含めて収入が閉ざされた人たちに一世帯当たり50万円でも支払ったらどうだろうか。後日、政府が東京電力に求償請求して 清算すれば足りるはずで、原子力損害賠償法にもとづいても、東京電力が損害を負担できない金額に上れば国が補償の責任を負うことになっている。
 かつての住居地に戻れなくて、いまだに避難生活を送っている人たちは深刻である。1年後に戻れるか数年を要するか、戻れない地域も出てくる可能性がある。周囲30キロの農地は耕作もできない。このような人たちの生活支援、損害賠償を考えれば、数兆円規模にその損害額が上ることが考えられる。
 彼等避難生活を続けている人たちにも、政府は速やかに1世帯当たり100万円ほどの一時金の支払いはすべきではないか。それだけでも避難を余儀なくされている人たちにどれだけ明るい希望を持たせることができるかはかり知れない。
 今回の原発の事故では、それくらいのことを政府も電力会社も必死でやらなければ、これからの各電力会社の停止中の原発の再開、新規原発の建設についての 住民の理解を得るのが大変厳しいのではないだろうか。幸い、各電力会社が協力して積みたてて来た3兆円余の特別会計分、東京電力の内部留保もすべて総力を挙げて損害賠償の責任を果たして欲しい。

省エネマインド徹底も

 一方国民の側もこれまでのように床暖房に重ねて暖房機を入れるなど、これが「電化生活」などとジャブジャブと電気を使うことを止めるべきである。
 ドイツが選んだように各戸の屋根には太陽光のパネルを設置して、自然再生エネルギーの活用を最大限努力しなければならない。自動車、家電などの産業界も勤務時間を変えて休日も替えるなどして、節電に最大限努力しなければならない。
 そしてこの際、かねてから検討されてきたように配電分野を電力会社から分離したらどうだろうか。
そうすることによって、誰もが自然再生エネルギーを売電できるようになり、さらに住民も、電気自動車、電動漁船の電池に余剰の電力を蓄電して、必要時に利 用するスマートグリッドメーターをつけて、スマートシティの建設に踏み込むことができる。これこそ、大震災を契機に日本が率先して取り組まなければならな い課題である。
 さらに今回の大震災で、釜石市が1300億円をかけて湾口に完成させた海底から60メートルのギネスブックに記載された防潮堤も役に立たなかったことは、深刻に受け止めなければならない。
 大船渡市の吉浜では明治29年の大津波のあと村長が高台にしか住宅を建てさせず、かつての集落跡地は田畑にしてしまって、1戸の犠牲も無く津波の災禍を 免れることができた。この貴重な体験をもとに、住民と話し合って、新たな都市計画のゾーンをすぐにでも検討し始めなければならない。

災害に強い都市計画 20兆円を超す財源は政府金融資産で

 都市計画のゾーンの設定には学者など有識者の意見も尊重されるが、基本的には住民の意思で決められる。この際、特別立法で土地所有権などの私権の 制限も必要になってくる。いずれにしても莫大な予算を5年間でつぎ込まなければならない。私は20兆円をくだらない金額に上ると考える。
 財源はどうするのか政府は頭を痛めている。財務省は口を開けば、既に国は800兆円の財政赤字があって借金でやりくりしているので、他の予算を削るか増税をしなければならないと主張する。
 そうではない。確かに政府の借金は800兆円ある。しかし政府が持っている預貯金、有価証券などの金融資産を財務省は明らかにしようとしない。米国の国 債だけで100兆円を政府は保有している。年金基金だけでもヨーロッパ各国は平均して年の支払額の数か月分しか貯めていないのに、日本は数年分270兆円も保有している。私は各省庁に数百はある基金、特別会計の残高を合計すれば政府は700兆円の金融資産は持っていると考えている。そうであれば、ここで増税など考えることは全くない。
 名古屋市の河村市長が「減税日本」で大勝して、「先ずは減税して民のかまどを豊かにしなければならない」と言っているのは一理ある。今、デフレから脱却 できずに苦しんできたこの時期こそ「防災復興債」を20兆円を発行して大胆な内需の拡大、景気の回復に当たる最大のチャンスを迎えているといえる。
 財源を23年度の予算から一部削るなどのやりくりはやめたほうがいい。とりあえず日銀に引き受けさせればいい。国民も今は日本が国難に面していることを 承知している。このようなときだからこそ、国債の元本を政府が保証すれば、10年もの、20年ものの無利息の「防災復興債」をこぞって買ってくれるに違いない。案ずるより決断が求められる。
 これら20兆円の財源を新しい自然再生エネルギーを基にした港湾、水田などの土地改良事業から農業、漁業の再生、災害に強い都市計画、スマートシティの 建設に取り掛かれば一気にデフレを克服して、再び日本の国内需要が回復して力強い経済成長が期待される。今この時期に政府は決断して大胆にその実行に着手しなければならない。東日本大震災、福島原発事故は日本列島を大きく揺るがしてしまった。ここで政府は思い切った財政措置を取らなければならない。

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【プロフィール】山田正彦(やまだ・まさひこ)yamabiko110124_4mono.jpg
1942年、長崎県五島市生まれ。民主党衆議院農林水産委員会委員長・前農林水産大臣。

1966年、早稲田大学第一法学部卒業。牧場経営、弁護士を経て、1993年新進党から衆院選に出馬し当選。著書に「小説 日米食糧戦争-日本が飢える日」「中国に「食」で潰される日本の行く末」「アメリカに潰される!日本の食―自給率を上げるのはたやすい!」など。