「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
今回は、7月3日(月)に配信した、SF作家 藤井大洋さんとの対談テキスト(全3回)をお届けします。

次回のニコ生配信は、8月21日(月)20:00の「小飼弾のニコ論壇時評」。今時のニュースを小飼弾がズバズバ斬っていきます(21:00頃からは、通常の「小飼弾の論弾」になります)。

お楽しみに!

2017/07/03配信のハイライト(その1)

  • バニラエア事件、問題は何だったのか?
  • 2017年東京都議選の結果をどう見た?
  • 未来の質屋?目の前のアイテムを現金化するCASHはアリかナシか
  • 世界に根付くサービスにするには建前が大事
  • CGソフトの開発メーカーで身につけたITのノウハウ
  • 藤井太洋が発見したMac OSのセキュリティホール

バニラエア事件、問題は何だったのか?

山路:車いすの男性が、(車椅子利用の旨)事前通告なしでバニラエアの航空便に搭乗しようとしたところ、バニラエア側がそれに対応できずに炎上したという事件がありました。これに関して、喧喧囂囂の議論が起こりました。

小飼:バニラエアは自社が悪いと認めたわけだけど、クレームを出した木島さんに対して、そんな強引なやり方をしなくてもいいじゃないか?という意見が出ているわけですよね。僕が愕然としたのは、もし自分が車椅子に乗っている立場だったら、どう振る舞うのかという感情移入がないこと。木島さんのやり方が強引だと言っている人たちは、自分が車椅子に乗るかもしれないということが想像の外なんですよ。

山路:あえて言わせてもらえば、この場合は車椅子でしたが、障がいにもいろんな種類がありますよね?

小飼:ありますね。僕ら2人とも、メガネが必要な視覚障害者ですから。

山路:はは、そうですね。車椅子があればなんとかなるという障がいもあるでしょうし、それこそ専用の医療設備が必要な障がいもあるかもしれない。あらゆる障がいを受け入れられる態勢をつくることは難しいんじゃないかという考え方もありますよね?

小飼:ありとあらゆる障害に対応するのは、端的にいって不可能です。例えば、クロイツフェルト・ヤコブ病の末期とかだったら、これは本当にもうどうしもないですよ。ですが、車椅子に乗っている程度の障がいなら、ちょっと工夫すれば普通の人と同じように振る舞えるべきですし、振る舞えますよというのが社会の建前ですよね? なるべく障がいが障がいでないようにしようというのが建前です。
 これに限らず、今の日本の問題のほとんどは、建前を踏みにじっているところからきているんですよ。どうせそんなことできるわけないよ。そんなことしたら、おまんま食い上げだよ。こればっかりですよ。

山路:みんなが異常に物わかりが良くなっているというか。

小飼:はい。だから、建前をきちっと成立させるためには、具体的にはどうすればいいかっていうふうに考えて、動いていくべきだったわけです。
 例えば最低賃金の問題にしても、「最低賃金を1500円にするなんて無理だ!」で終わっちゃうでしょ? 実際に1500円にするためには、どういうふうにすればいいかとか、そういう風に考えなければいけないんですよ。建前をそのまま成立させるのは確かにキツイ。だけど、それを無理なくできるようになった時に、我々は進歩しているんです。だから建前を否定するということは、進歩を否定することなんです。

山路:車椅子に関してちょっと面白いなと思った記事がありました。「バリアフリーを進めていくと、今後ロボットが普及する時に、ものすごく有利になるよ」と主張している人がいて面白いなと。

小飼:確かにね。

山路:二本足のロボットより、車輪で移動するロボットの方が、はるかに実現性が高いわけだから、もしも日本がそういうバリアフリーとかを積極的に進めたら、ペッパー君がいたるところで人を手伝ってくれるような社会になるかもしれないという。これもまたひとつの見識だなと思いました。先ほどの話とはちょっとずれますけど。

小飼:バリアフリーというのは、車椅子でなくても二本足で歩ける人にも得なわけですよ。だいぶ普通の街中でも、キャスターをコロコロとひきずっている人を見ましたけれども、それもちゃんと道が舗装されたから。建前と言うのは、守れるように頑張る価値のあるものなんですよ。

2017年東京都議選の結果をどう見た?

山路:今回の都議選、都民ファーストが大勝して自民党が圧倒的敗北みたいな状況になりましたよね。

小飼:うえー。

山路:なんでそんな顔してるんですか。

小飼:うんこ味のカレーを拒絶したら、カレー味のうんこが来ちゃった。カレー味ですらないな、うんこ味のうんこだな。

山路:じゃあ、ここで藤井先生に入っていただきましょうか。

藤井:むちゃくちゃキツいな(笑)。

小飼:はい。殺伐とした番組に颯爽と藤井先生登場です。

藤井:どうも、よろしくお願いします。

山路:藤井先生は、『Gene Mapper』というSF小説でデビューされました。普通、賞に応募したり投稿したりという形で、作家になった方が多いと思いますが、藤井さんの場合は自分で電子書籍を作って、自分のサイトで売るというところからスタートしました。その『Gene Mapper』が大変な話題になって、早川書房から完全版の『Gene Mapper -full build』として、改めて書籍化されるという形で作家デビューされたという。現在は、日本SF作家クラブの会長も務められています。

小飼:いまや、押しも押されもせぬ。

藤井:いやいや、まだ新人ですよ。

小飼:でもお世辞抜きに、今や日本のSFの顔じゃないですか。

藤井:そう言っていただけると、本当に恐縮なんですけど。

山路:5〜10年後くらいの近未来を舞台にされた作品が多いですね。

小飼:そんな近未来を舞台にすると、作品の寿命が短くなるんじゃないですか?  先生! なんか不安になるんですけど。

藤井:10年間ずっと売れ続ける作品なんてそうそうないですから、読んで一番楽しい話を書いた方がいいんじゃないかなと思うわけですよ。

小飼:確かに、著作権が切れるまで作品の寿命が保つように書くというのは、捕らぬ狸の皮算用ではありますね。

山路:今、『ビッグデータ・コネクト』を読んでいるところなんですが、舞台は2019年、もう再来年です。なかなかスゴいところを攻めてくるなと。

藤井:日本を舞台にしたフィクションは、オリンピック前と後では絶対に変わると思ったんですよ。何かが。

小飼:AKIRAだ!(笑)

藤井:だって、オリンピックの後って、祭りの後じゃないですか? きっと何か変わってるんですよ。あと大量に外国人がやってきて、そこら中を歩き回ったりして、日本を見る、日本人を見る。外から見られた私たちという視点が必ず入ってくるわけですよね。オリンピック前と後できっとフィクションの空気感は変わってくるはずなんです。だから、オリンピック前の話は今のうちに書いておけという。
 一方、今『文芸カドカワ』に連載していて、今年、単行本が発売予定の『東京の子』の舞台は、オリンピック後です。境目があると、書きやすくもありますね。

山路:ちょっと無理矢理話をつなげちゃうんですけど、今回の都議選は、日本がこれからどう変わっていくかのターニングポイントになるんでしょうか?