「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
2019年2月19日(火)配信の「小飼弾の論弾」の後半をお届けします。
次回は、2019年4月16日(火)20:00の配信です。
お楽しみに!
2019/02/19配信のハイライト(その2)
- カドカワについてのドワンゴの「最悪の決断」
- カクヨムと「必要なものが多すぎる動画配信」の難しさ
- 技術の「慣性」と基礎
- 動画配信でのゲームチェンジは?
- タイの選挙とラーマ10世
- Coinhiveと「わかっているトップ」がいない日本
- Amazon本社計画と「どう見ても中国です」な日本のネット
カドカワについてのドワンゴの「最悪の決断」
山路:じゃあ引き続き、ドワンゴは問題だったのか。
小飼:こういうのもなんだけども、あれこれやり過ぎた。まずニコニコ動画がぜんぜん良くならなかった。画質もぜんぜんあがらない。回線もぜんぜん良くならないので。
山路:あのniconico(く)でしたっけ? カッコ平仮名のくというバージョンを発表した時の、発表会のあの凄い冷たい感じになったという記事が載ってて。
「コメント特許をYouTubeに売って、手仕舞いすればいいなじゃねえの」(コメント)
小飼:もともとYouTubeに字幕載せてただけのところが、ニコ動は出発点ですからね。
山路:うんうん。そこからそれをバンされて、自前サーバ立てて配信始めたっていうところですもんね。
小飼:あのコメントって特許は成立してるの?
山路:それはちょっとわかんないですね。
小飼:でも今のところ、まだYouTubeが自ら、コメントを画面に流すというのをやってないですよね。だからやろうと思えば本当にいつでも出来ると思うんですけども、技術的にそんなに凄いことではないんで。
山路:じゃあドワンゴがYouTubeなんかに対抗するには何が必要なのか。
小飼:そもそも対抗するんじゃなくて、別のサービスだったはずだよね。
山路:もうちょっとニッチな層とかを狙ったサービスみたいなところはありましたけどね。そこんとこで、変に対抗しようとしちゃったところなんですかね。
小飼:いや変に対抗しようと、うーん、したというよりも、本当にどうしてこうなったかね? という。ドワンゴというのか、ニコ動が劣化し始めたというのは、明らかにカドカワとマリアージュしてからですよ。
山路:ほう。
小飼:だから、それまでは遊んでいる余裕とかはなかったわけですよね。たとえば違法動画が来たら、それをどうやって取り締まろうかとかっていうのは、本当に「今そこにある危機」に対抗していくしかなかったんですよね。余計なことを考える暇がなかったとでもいおうか。
山路:じゃあ資本力がある会社とくっついて、慢心しちゃったみたいなことだったり。
小飼:カドカワ程度で充分な資本力だったのか? というのはあるよね。
山路:動画配信サービスっていうことを本気でやっていくためには、
小飼:そうそう、金ありゃいいっていうもんじゃないじゃないですか。
山路:たとえば最近だと、中国系のサービスで、TikTok(ティックトック)なんか、あれスタートアップだったりしますもんね。すごい世界的人気の配信サービスになりましたけど、あれもべつに大資本のところがガリガリやってたというのとはちょっと違う。
小飼:なんですけれども、単なるオペレーションにけっこう金がかかるんですよね。動画配信サービスというのは。
山路:特にライブとかだとということですかね?
小飼:はい。だからYouTubeだって、Googleに買われる前というのは、もう赤字垂れ流し状態でしたよ。
山路:Googleが買った時も、一部には頭おかしいんじゃねえかと言っている人も(笑)。
小飼:でもあれはGoogleがやった会社買収の中では、圧倒的に一番優れた買収でしたね。あれはまさにシナジーが生じたわけですよ。Googleの資本と技術力。
同系列でしょう。だからテックがテックを買ったわけですよね。どっちのほうがハイテックかっていったら、Googleのほうだったわけですよね。テクノロジー以外のものが抜けていたので、パッとしなかった。GoogleもGoogleビデオというのをやってました。
山路:あったあった(笑)。本当にパッとしなかったんですよね。
小飼:Googleビデオのほうに寄せなかったですよね。だから上手くいってるんですよね。
山路:YouTubeがGoogleだって知らない人も、今でもけっこういると思いますもんね。
小飼:あれほど金と技術を持ってても、なんでもかんでも上手くいくとは限らないというのは、もうあちこちで目にしてますからね。Google+とかね、吹かないで。
山路:Google+(笑)、一度も上手くいってないというか。ソーシャルはなんか上手くいかないですよね、Google、本当に。
小飼:はい、本当に技術だけでは上手くいかない。何かがあるんだけれども、でもそれだけで足りないといっても、じゃあ技術がなくてもというわけには、全くいきませんよね。だから技術も資本もいるわけですよね。動画サイトを続けていくためには。立ち上げはそんなに難しくないんです、続けることなんですよ。難しいのは。
山路:なるほどな。本当、話聞いてても、常にこう動画配信ってユーザーが増えたら増えたで、対応できるだけのサーバには投資しなきゃいけないし。高解像度化というのも低遅延とかも要求されたりするし、常に金を注ぎ込み続けて。
小飼:そう、その割にお金が入ってくるポイントというのが、いまいちはっきりしない。YouTubeくらい大きくなると、テレビと同じ様にちゃんと広告取ってというのが出来るようになるんだけども。
山路:だけどあれって、凄いユーチューバーとかで金持ちになってる人もいますけど、広告収入で得られる金ってGoogleにしてみたら、ある意味はした金というか、還元しているのっていうのは、けっこう微々たるものいえば微々たるもの。
小飼:いや、今やGoogleはちゃんとYouTubeの部門でも儲けてますよ。
山路:単独でも。
小飼:2つ理由があって、まず圧倒的にマーケットしてシェアがあるので、広告もとてもいい単価が取れるというのがまず一つありますね。あともう一つはGoogleはサーバとかも自前でやってるんです。これってどういうことかっていうと、トラフィック自体を持っているんですよね。
ISP同士を繋げる時には、当然繋げますという契約をします。Peering Agreementというんですけども。これというのはトラフィックの流れによって、どっちがどっちに金を払うかっていうのが決まるんですよね。
山路:Googleはその契約主体になっている。一番経営、収益を最大化するようにそこを調整できる。
小飼:そう、だから他はチャンネルを借りているのに対して、Googleというのも、もう少し正確に言うと、Alphabetがチャンネルを持っているんですよ。物理回線まで持っているんですよね。サーバを。
山路:話聞くと、絶対に敵わないような気がしてきました(笑)
小飼:だから動画配信サービスというのは、どこかのタイミングで、旦那を見つけなければいけないというのは、今でも言われてますよね。カドカワでも、旦那としては充分大きかったのか。
山路:最初の想定というのは、カドカワってもともとメディアミックスっていうのをかなり昔からやってきた会社じゃないですか。小説出しては、それを映画化したりとか、アニメ化したりとか。たぶん自前のコンテンツとかをネットで流すっていうことを絶対考えてた筈ですよね。
それ、ニコニコ動画なんかでもアニメ流したりとか、そういうことをしてたけど、そんなにそれがパッと、収益に貢献するほど大きな利益を生むというほどには至らなかった。そんなにカドカワの持っていたコンテンツと、そういうniconicoみたいなものというのが、あんまり親和性がよくなかったんですかね?
小飼:親和性がよくなかったというのか、コンテンツを持っている人たちと、回線を持っている人たちというのはけっこう二律背反的なところがあるわけですよね。
山路:え? それはどういう?
小飼:たとえば、集英社のコンテンツをガンガン普通に流せるかという。
山路:あぁつまり、自分がコンテンツホルダーだと、別のコンテンツホルダーのものを使いづらくなっちゃうという。
小飼:そうそう。
山路:それこそディズニーみたいに、ディズニー・チャンネルとか作れるんだったらともかく、みたいなことですか。カドカワのやつだけでやるのは難しいと。
あと、弾さんいろいろ手を出しすぎたって言ったじゃないですか、さっき。どのあたりに手を出したのが、マズかったと思います?
小飼:どのあたりというのかという、手を出したというよりも、一番舵取りが難しい時に、もう運転手がビデオゲームをやってたというのが(笑)。
山路:外見ずに、運転せずに。
小飼:うん。だから振り返ってみると、最悪の決断だったのかもしれないね。カドカワと結びついちゃうというのは。
山路:それは主にドワンゴにとって。
小飼:ドワンゴにとってというよりも、niconicoにとってかな。独立したネット企業というのか、もうはっきり言ってしまうと、動画配信でキチッと儲けを出しているのは、YouTubeだけなんですよ。
あとはユーザーとかがいっぱいいるとかいうのはあるんですけど、ビリビリの場合はわからない。そもそも会計基準が変わっちゃうからな、でもいちおうADR(米国預託証券)上場しているから、基本的に中国はおいといても、普通に真っ当に儲かっているのは、本当にYouTubeくらいですよね。
山路:ゲーム実況で伸びてるサービスはありますけど、それなんかっていうのはけっこう大手が買い取ったりとか(笑)、Amazonなり、Alphabetなりが買収したりとか。
小飼:そうそう。
山路:そういうふうな話はありますもんね。
小飼:Abemaも出血してるでしょう。でもあれはだからちゃんと出血しててもやるっていう、トップの意思とそれを埋め合わせるだけの他の売上というのがあるから出来ているんですよね。技術的にはAbemaというのはすごいつまらないけれども、こういうふうにいけば、続けていけられるんだっていうのは、キチッと踏まえた、その辺の堅実性というのはとてもありますよね。
山路:経営をどうやって努力したらいいのかっていう、少なくとも方向が見えている。それがまあ上手くいくかどうかまではわからないにしても。
小飼:もうはっきり言って地上波テレビの劣化コピーなんで、僕はあんまり惹かれはしないんだけど、でもこれだったら100万人視聴者が集まるようなコンテンツも出来るよなっていうのが。
山路:努力の方向もわかりやすいというか、要は地上波型のモデルを再現するということがあるから、ここに金を投じて、ここに人員を配置してっていうのが見えやすいという。
小飼:そうそう。赤字も想定の範囲内でっていう。
山路:うーん、これじゃあドワンゴに関していうと、動画以外でゲームだったり。
小飼:逆にいってしまうとカドカワの儲けというのをガンガン突っ込んで下さいと、それで収支トントンだったら、いいじゃありませんかという鉄の意思を見せなければいけないの。
山路:もうそれこそカドカワのマンガとラノベの売上全部突っ込むくらいの。
小飼:そうそう。
山路:俺にかけて下さいと(笑)。そこまでは歴彦さんに、信用されなかったんですかね?
小飼:いやもう本当に、マッチ売りの少女ならぬ、ラノベ売りの少年くらいな感じで。
山路:ラノベ買って下さいって。
小飼:いや、だからサーバを維持するために、ピシッて火をつけて。
山路:燃やさなくてもいいんじゃないですか(笑)。
小飼:燃やさないと維持できないの。
山路:なるほどね。というかラノベを売った札束ですよね、火をつけるのはなんか。
小飼:そうそう。本当に今のところ配信ビジネスというのは、札束を燃やす商売なので。だから、そういう腹のくくり方が足りなかったよね。だから、こう言うのも何だけれども、別のキャッシュを持ってこれるようになったことで、いろいろと遊べるんじゃなかと、実際に遊んでたわけですよね。