「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
2019年2月5日(火)配信の「小飼弾の論弾」の前半をお届けします。
次回は、2019年4月16日(火)20:00の配信です。
Lifehacking.jpの運営者であり、『ライフハック大全』などの著作でも知られる、堀正岳さん。本業は、北極の研究者である堀さんに、日本の科学研究の現場で起こっていることを語っていただきます。
お楽しみに!
2019/02/05配信のハイライト(その1)
- 教育にかける金をケチってきた日本
- 「統計の数字を作る」という劣化
- 一貫したデータがなくなった
- 「IoT侵入調査」は国の仕事か?
- 「情報を舐めている」というヤバさ
- 永遠の秘密はない
教育にかける金をケチってきた日本
山路:じゃあ、今日の本題でもある統計不正、もはやこれは統計不正というのか何というのか、いちおう統計不正問題ということで、だいたい言われてるんですけども。
小飼:大本営だったと。
山路:というか、関係者みんなアホなんじゃないかと思うようなニュースですけどね。
小飼:いやちょっと、あまりに多すぎて、どれかわかんなくなってきたよな(笑)。
山路:いちおう大きなところとしては、その厚生労働省が2006年時点でやっている、その毎月勤労調査の手法というのが間違えてたことに気づいてたっていうのが。
小飼:間違えてたの? わざとでしょう。
山路:本当は全数やらなきゃいけないのを、3分の1しか。
小飼:端折ってたと、だからサボってたわけじゃん。
山路:さらにこれに関して厚労省は、厚労省の局長級を更迭して、野党がそういう厚労省の責任者を出せよと言ったら、いやいやもう現職じゃないので参考人招致はできませんと言ったという。
小飼:だからそういうのばっかりやっているのは……。これぜんぜん一見違うニュースですけれども、あるジャーナリストがイエメンをなんとか取材に行こうと出国しようとしたら、パスポートを取り上げられた。
パスポートを取り上げた理由というのもその途中、オマーンという国を経由するみたいですけど、そこから入国拒否が来たからって、でもその入国拒否というのは日本国政府がオマーン政府にそういうふうにしてくれと頼んだと。
山路:なんか七面倒臭いことをしとるな。
小飼:理屈としては、さっきの責任者を出せ、いやでも責任者は更迭されたから出せないというのと同じというのか、通じますよね。
山路:なんというか誰一人表に立って、私が責任者ですっていう人が、いつまでたっても出てこないというのは。
小飼:それはだって、出ても何か得することある? そりゃあ有権者は溜飲を下げられるかもしれないけれども、そこまでしなければいけないほど、給料を得てるわけ?
山路:給料安いっていうのは、この不正統計問題の根幹にあるんじゃないかという指摘をしている人もいましたね。つまり、そういう国なんかで統計に関わっている部署って、その統計局みたいなのがそんなにあるわけじゃなくって、個々の省庁で統計に携わっている人っていうのは、けっこうノンキャリで、そんなに給料も高くない、そんなに仕事としても認められてなかったりする。だからこういう問題が発生してるんじゃないかみたいな言い方をする人もいた。
小飼:実際に資源をきちっと割り当ててるかって言ったら、割り当ててないですよね。日本はこういうのも何ですけれども、公務員の人件費を明らかにケチり過ぎている国なんですよね。
山路:これちょっと前の論弾でも取り上げたかもしれないんですけど、日本ってよく公務員多すぎみたいなことを言う人もけっこういるじゃないですか。公務員少ない?
小飼:少ないです。それはもうはっきりしてますね。
山路:なんかいっぱい雇っているイメージがあるんだけど。これって公務員を単純にもっと増やせば、こういうのって少なくなったりするんですかね? 要は人手不足、こんなに人手不足とかっていってるんだったら、職にありついていない人ってもっと公的に引き取ったら良くないんですかっていう。
小飼:単に人を持って来ただけでは駄目ですよね。だから、その担当する仕事が出来なければ、あるいは出来るようにならなければ。それも源流を辿れば、義務教育でしょう? でも日本は折角人口が減るのに、それ以上の勢いで、そう、教育行政を削っちゃったんですよね。
山路:その辺の人材の雇用のバランスが良くなかった。
小飼:雇用のバランスとか云々ではなくって、ありとあらゆる部分で教育にかける金っていうのをケチってきた国なのね。まだ子供が大きくないうちというのは、親が学費出したりして補われている部分ってあるんですけれども、でも実際そこが始まりですよね。
山路:しかし不思議なのは、それこそ明治維新とか起こって、これから教育を充実させて諸外国、西洋に追いつけ追い越せみたいな国だったはずじゃないですか、その時点というのは。つまり、かなり教育には金をつぎ込んでいた国だったわけですよね?
小飼:実際のところどうなんでしょうね? でも少なくとも、そこでケチっちゃ駄目よという意識はあったと思います。だから当時、外国人教員というのは、日本の水準からいえばべらぼうに高かったわけですけど、10倍とかそれくらいするんですけども、それでもちゃんとそのお金を出して呼んでましたからね。
山路:ラフカディオ・ハーンとかもそうなんですよね。
小飼:そういうことです。あくまでもトップの話ではありますよね。
山路:それこそ江戸時代くらいまでは、寺小屋とかがあって、なんかよく世界的にみても、比較的そういう読み書きとか教えるリテラシーとか、高かったという話は時々出てくるじゃないですか。
小飼:いや、だからそれは政府がやってたわけじゃないでしょう。
山路:民間があんまりよく出来てたから、あんまり政府がそれに気を配らなかったかもしれないみたいな、それに頼っちゃったみたいな。
小飼:うん。
じつは、そういうエデュケーションやトレーニングっていうのは、日本だともう大学出ちゃったら、ほとんどきちっと学ぶ機会はなくなっちゃうんですけど、じつはそこからがスタートのはずでしょう。
山路:しかも今の仕事って何というか、昔みたいに同じ、1回覚えた仕事をずっとやってればいいというんじゃなくて、もう毎年のように変わるようなことに対応していかなきゃいけないことだったりするのに、この統計なんかもいまだにかなり紙で処理してたりするそうですもんね。そういうデジタルの時代にも対応出来てなかったりもする。
小飼:だって、そもそも国勢調査とかも紙でやるでしょう(笑)。
山路:うん、その辺のところっていうのもぜんぜん改善されてなくて、現場のほうも昔ながらの紙のスキルのままだったりとか、統計のこともきちんと学んでない人がやってたりとか、なんかえらいことになってるみたいですけどね。
小飼:逆に、よく今まで回ってたなっていうのが。
「統計の数字を作る」という劣化
山路:これ統計絡みでちょっとおかしかったのが、このニュース。厚労省のコンドームの統計資料にミスがあったという。
小飼:え? そうなんですか。
山路:ブログを書いている人がですね、この方がライフワークとしてコンドームの出荷量について調べている人だそうで、趣味で、その人がコンドームの出荷量に間違いがあることに、集計してることに気づいて、ある月、ある年のある月だけ、その出荷量が10倍位になっていたという。
小飼:でもなんでそうなったんだ? 単に、単に打ち間違いか? それ。打ち間違いっぽいな。
山路:それをこの人が厚労省のほうに問い合わせて、1ヶ月位応答なかったらしいんですけれども、ちょっとこれがネットで話題になって、そうしたらその厚労省の調査、修正されたそうですね。どうも元のデータが間違えていたそうで。そういう業界が送ってくるデータが。
ただこれ、その間違いを内部でそのいきなり10倍とかに跳ね上がるみたいなことをチェックする仕組みもないのかっていうのは、びっくりしたんですけどもね。
小飼:いや、でもそれは業界から、要するに業界から厚労省に来た時点で、厚労省のほうからこれおかしいんじゃないの? っていう仕組みがあるかっていうこと? これは誰を責めるっていうものではないじゃん。これは単純にミスじゃん。だからこれは単純にミスだから、各チェックポイントで気をつけて下さいねで。
これについてはだからいいと思う。ミスはゼロに出来ないので、だから、もう単純に過失に関しては、過失が生じにくい仕組みにしましょうねでいい訳です。今の統計不正問題っていうのは、違うんですよ。そもそも出荷されていたコンドームにみんな穴が開けてあったというそういうレベルですから。もうぜんぜん違うんですよ。だからそう、コンドームの統計に関しては、本当にちょっとした笑い話で済むかもしれないけれども。
山路:もう出荷している商品自体が、使い物にならないものを本当に日本国民に撒いているっていうことですもんね。その結果、賃金もじつは。
小飼:下がってましたと。
山路:私もこんな政治っぽい話とかもしたいわけじゃない、もっと軽い、それこそ『騎士団長島耕作』くらい軽い話とかも延々としたいところなんですけど。何ですか、何でこんなにバカみたいな話が一杯出てくるのかなっていう。
小飼:いやでも確かにね、今までもそう政治家が嘘をついていた、役人が嘘をついていたっていう話はいっぱいあるんですけども、少なくとも素材を偽造するっていうのはなかったと思います。出てきた素材を都合のいいように解釈させたり、そもそもあるものを隠してないと言い張ったり、そういったものというのはあるんですけれども。だからこういうふうに数字を作るっていうのはなかったんですよね。だから、これは本当に明らかな劣化で。
山路:意図的なものなんでしょうか、そこに悪意があるのかどうなんだろうなという。
小飼:でもこれは担当者が自分の賃金を下げないためにやったというのは、明らかですよね。
山路:自分の賃金というよりは自分の地位的な問題。
小飼:それで遠因をたどると、要は首相官邸の力が強くなったと。人事権が強化されたと。
山路:官僚のほうがへつらうような行動を取るようになってきた。
小飼:そう、よりへつらう必要があったわけね。だから気に食わないことをすると飛ばされちゃうので。今のアメリカがそうでしょう? アメリカ型に近づけようとして、そうしたんですよ。
山路:内閣人事局でしたっけ?
小飼:だから今までは、大臣が変わっても、官僚は変わらない。次官以下というのは、別の人事ルールで動いていたんだけど。だから、もっと下のほうまで口出せるようにしたのね。
山路:ある意味、それなりに真面目だった人たちが、そこんところが選挙で選ばれてない人がこんなに権力を持っていていいのかみたいな批判はあったけれども、それなりにガーッと自動で動いていたところに、それをコントロールしようとして、ハチャメチャになってきているっていうことなんですかね?
小飼:ほんとに何と言えばいいのかな、このレベルで数字を作られるようになったというのは、確かにすごい劣化具合なんだよね。
山路:中国の統計って一昔、一昔というか今もちょっと言われてますけど、数値作ってるんじゃねえか、作ってるんじゃねえかみたいな(笑)。
小飼:そう、全く笑えない。だから真面目に中国の経済を吟味したい人たちというのは、もっともっと生のデータまで遡って見てるわけですよね。曰く鉄道の稼働率ですとか、曰く電力統計ですとか。
山路:中国の公式の発表だと、そういうGDPの成長率6.4くらいでしたっけ? 言われていたのが、じつはそういう人らの発表だと1点何パーセント台とか、下手するとマイナスかもしれないと言ってる人もいる、みたいな話が最近出てますね。
小飼:いや、ただこう言うのもなんですけど、少なくとも中国トータルでやっている時には、もちろん下からデータを集めてくるんですけども、ちゃんと下がデータを作っているというのもある程度加味して算定しているというのは、確かなんですよね。なんですけれども、本当に中国のことを笑えなくなってきましたよね。
山路:これって単純に、そういうデータを扱う人の地位を上げるとか、その人材教育をするとかっていう対策でどうにか、あんまりなる感じじゃないですよね。そこを弾さんがいうように、人事とかが絡んでくるんだったら、そういうバランスとか人事権の話までやんないとこういう不正というか、不具合が起こるのは止められなくなっちゃう。
小飼:もうそろそろ人間をこの任務から外していいんじゃないかと。