「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
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 今回は、2023年02月21日(火)配信のテキストをお届けします。

 次回は、2023年03月07日(火)20:00の配信です。

 お楽しみに!

2022/02/21配信のハイライト

  • 「ウクライナの戦争でこれから一番重要なファクターは中国かも」
  • 「H3と北朝鮮ミサイル」解説と「軌道エレベーターと宇宙マイニング」
  • 「エロとAIの可能性」と「Twitterとブログ」
  • 「AIの嘘をどうやってチェックする?」
  • ウルフラムによるChatGPT解説と「AIの本領発揮はパーソナライズされてから」
  • 成田発言炎上と「経済学って役に立ってるの?」

「ウクライナの戦争でこれから一番重要なファクターは中国かも」

山路:最初あんまり縁起いい話じゃないんですけども、漫画家の松本零士さんが亡くなられたというニュースがさっき、

小飼:あー、でも悪いニュースかというふうに言うとけっこういいお歳でしたしね、というのか、まだ生きてらしたのというのは(笑)。というのも、確かイタリアで病院に担ぎ込まれましたよね。

山路:何年か前に、

小飼:だからそのまま逝っちゃった、すいません、僕の記憶のほうが縁起でないです、今まで生きてらしたわけですから。おいくつでしたっけ、意外と若かった、

山路:86だったかな、そんなもんじゃなかったかな(※編注:85歳の間違い)。

小飼:まだ90代に行ってない、

山路:鉄郎の声だった野沢雅子さんのほうが年上だという(笑)、

小飼:え、そうなの? なんと、なんと、

山路:(コメントを見ながら)85でしたか、

小飼:もう、たぶんあの人はエルフなので(笑)、

山路:今現役で声優されてますもんね、

小飼:現役だよね、

山路:『ドラゴンボール』とかの、

小飼:そうだよね、悟空だよね、

山路:野沢さんのままですよね、わさびさんとかにそんなふうに変わってるわけじゃないですよね(笑)、

小飼:すごいな、

山路:松本零士作品で思い入れのある作品とかって、弾さん、あります?

小飼:どれを松本零士作っていうふうに言い切っていいのか、『ザ・コックピット』とか『男おいどん』とかは松本零士って言いきれるね。『宇宙戦艦ヤマト』はあれは西崎さんの作品だというふうに、裁判で決め打ちされちゃったので。

山路:いろいろ苦し紛れに大ヤマトみたいな感じのなんかいろいろ展開とかしようとしてましたけどね、

小飼:まぁでも『999』はあれかな、松本零士先生の、

山路:そうですね、『999』とか『キャプテンハーロック』とか『エメラルダス』とか、あの辺の一連のものは全部松本零士作品っていって間違いないですよね。

小飼:いや、でもアルカディア号のデザインは確か、ぬえに外注してたんじゃなかったっけ、どうだろう、

山路:まぁでも漫画としてはね。あとこの松本メーターですよ、この。

小飼:はい、こう言ってしまうのもなんですけれども、一時代前の代表的な格好いい、格好よかったデザインっていう感じはしますよね。ですから、今のスタイリッシュなものっていうのは(iPadを指して)こういうのだったり、(iPhoneを指して)こういうのだったり、つるつるのっぺりじゃないですか。

山路:しかしこの辺のデザインって、大反動が来る可能性もあるじゃないですか?

小飼:なきにしもあらずだけども、でもグラスコクピットが零士メーターに戻ることがあるかって言ったら、それはたぶんあり得ないと思うんだよね。というのも、表示したい情報というのは増える一方なわけですよ。だから、ジョブズが言ってた、素晴らしいUIのアイデアをハードウェアを売った後の半年後に思いついたら、どうしよう、どうしようもないじゃないかと。だけれども、のっぺりしたところに表示するのであれば、もういくらでもアップデート可能だよというのは。だからグラスコクピット化というのは後戻りできないでしょ、だって車とかもそうなってますし。

山路:トヨタがレクサスのEVで、マニュアル操作を再現しようとしているというニュースを見ましたが(笑)、

小飼:バッカじゃねえのという感想しか出てないですね、

山路:まあしかし一時代を築いたのは間違いない、私も子供の時読んで、めちゃめちゃハマりましたからね、あの機械のデザインとか、話とか、戦場まんがシリーズも、

小飼:かっこよかったですよ、でも現在にそれをそのまま持ってくるのはちょっとごめんこうむりたいけれども。

山路:あと松本零士さんといえば、著作権のところでいろいろ発言多かったですよね。正直、個人的にはずいぶん的外れな事を言ってるような印象があったんですけれども。

小飼:ヤマト裁判のこととかもありますしね。

山路:漫画なんかの著作権っていうのをすごく伸ばすことに熱心な主張はされてて、それはどうなんですかねみたいなふうには思いましたけれども。

小飼:まあでも確かに、もう21世紀になってから、もう5分の1以上が過ぎてますけれども、ついに20世紀が終わったという感じはしますよね、だから本当に20世紀のかっこいいデザインの代表的な。だから漫画家という枠を超えてデザイナーでしたね、20世紀のかっこいいの。

山路:それはそうかもしれない。なんかこの訃報を聞いて戦場まんがシリーズ、2冊ぐらい買って読み直しちゃいましたよ、本当に。

小飼:『男おいどん』読み返したいんだけど、どこにあるのかな。

山路:Kindle版出てないですか、『男おいどん』、

小飼:出てなかった、

山路:本当ですか。ということでじゃあちょっと、これもニュースが入ってきたばっかのやつなんですけども、けっこうでかいニュースじゃないですか、これって。

小飼:すごいね、本当にステルスだね。

山路:そんなにこっそりこんな大物が隠密行動できるのかいっていう、

小飼:まぁやりおったという、

山路:しかもロシアに事前通告して入ったんですよね、

小飼:そうなの?

山路:そうです。

小飼:おー。でも、これ、それはしとくべきだな。万が一のときに、やっぱりおんどれシめたろかい、をするためにも、それは通告しとかないと。

山路:それにしても入り方とかもけっこうすごいんですよね。

小飼:ポーランドにまず入って、そこから電車に乗って、やっぱり鉄道で行ったかと。でもやっぱウクライナってでかいよね、ポーランド国境からキーウまで10時間でしょ。でかいよな。キーウってちょうど、ウクライナの東西の真ん中辺じゃないですか、かなり北寄りだけれども、東西だとかなり真ん中でしょ。10時間かけて。やっぱでっかい国なんだなという。

「楽器入れの中じゃないのか」(コメント)

小飼:あはははは。脱税かよ。

山路:キーウにバイデンが行ったことで状況って変化ありますかね?

小飼:まあ、ロシアに、勝ち逃げという言い方もあれだけど、でも勝ち逃げは、たとえばここで和平を結んだとしたら、クリミア半島とドンバスは勝ち逃げたということになっちゃうね。だから勝ち逃げはあり得ないというメッセージにはなったですよね。あと3日で開戦1周年記念だ、2月24日だったよね、

山路:そうですね、そうですね。

小飼:すごいタイミングだよね。

山路:そのタイミングで相当でかい支持を表明したわけですもんね。ただ、これってもう、まだまだ長く続きそうということでもあるとは思うんですけど。あとどれぐらい続くんですかね、感覚的に。

小飼:まぁ、もし戦車をどさっと持ってこれるのであれば、物理的に排除するっていうのは不可能ではないと思います。ただ、その場合ロシア国内でどう落とし前を付けるのかという。

山路:ロシア国内で内乱みたいな状態になるんじゃないかっていう話?

小飼:で、核ボタンを押すんじゃないかという意見もあるわけでしょ。だけれども、このタイミングでバイデンが入ったっていうことは、本当にクリミア半島も含め、本来の、ソ連崩壊の時のウクライナの領土というのを全部取り返すまでは戦争終わらないですね、これは。

山路:来年の冬とか、燃料大丈夫なんですかね。

小飼:いや、それはけっこう自信つけたんじゃないかな、全世界が。

山路:ああ、そう。いろいろなルートで、

小飼:しかも、時は、

山路:再生可能エネルギーに味方してる、

小飼:再エネに味方してますよ。

山路:ウクライナ侵攻が始まってから、再エネの導入率が10パーぐらいどうも予想を上回っているみたいな、そういう記事もありましたね、私が見たやつでは。

小飼:だからもう、粛々と増やすだけでいいところまで来てるんだよね。

山路:じゃあまあ1年後戦争は終わってないかもしれないけれども、まぁこれよりもすごく酷くなるというわけではない、

小飼:まぁひとつ気になってるのは、中国がロシアに武器を送るのかっていうところです。たぶん、今後のウクライナロシア戦争で一番重要なファクターは中国かもしれない。

山路:だけど、そんな負け馬に中国、乗ります?

小飼:そうなんだよね、

山路:どういうメリットがあるのか、そんなこと言ったらそもそもロシアのウクライナ侵攻自体がどういうメリットがあるかわかんないですから、みんな合理的に動いてるわけじゃないのかもしれないけど。

小飼:しかも中国って、ロシアの化石燃料を買っている一方で、世界で一番熱心に再エネを進めている国でもあるんだよね。

山路:絶対量が違いますもんね。

小飼:けっこういいポジションなんだけどな、中国。この件に関しては。それをうまく利用しているかどうかというのはまた別の話なんだけれども。前にも言ったように、なんでそんなに覇権を急いでるんだっていうところはありますよね。

「中国がロシアに塩を送ってどんなメリットがあるんでしょうか」(コメント)

小飼:まぁ天然資源をお安く手に入れるという、それはもうれっきとしたメリットとしてありますよ。

山路:今後どこまでその支援、支持をし続けられるのかっていうのはちょっとようわからんですけどもね。

「習近平の寿命」(コメント)

小飼:そろそろ後継者が気になるんだけどな。まあ、60代とはいえ、いい歳なわけですしね。

山路:しかも、そういうふうな状況になって、もう2030年になっても中国はどうもアメリカのGDPを上回らなさそうだみたいな、

小飼:そこはどうなんだろうな。アメリカを上回るぐらいで止まっちゃダメなのよ、それは覇権取ったことにならない、やっぱり少なくともアメリカの倍ぐらい行かないとダメだね。アメリカの倍行っても、一人当たりだと日本の半分行かないわけだから。

山路:ますますヤバいじゃないですか、それ、アメリカにすら並ばないんだったら。

小飼:こう言うのもなんだけども、これから覇権取りますって言うタイミングが早すぎたというのは明らかなんだけれども。でも、それは中国全体のインタレストとしてみれば、そうなんだけれども、習近平個人として見ると、たとえばこれ20年待ったら遅すぎるわけだよ、

山路:死んじゃうからって事ね。

小飼:というのか、耄碌しちゃうから。

「インドが高みの見物」(コメント)

小飼:いや、高みの見物じゃなくて、インドはインドでもっとガンガレ(笑)。Appleの工場ぐらい、ちゃんと回してみせろという。

山路:Appleのインドの工場、めっちゃ歩留りが悪いっていう(笑)。

小飼:いや、でもスズキは回してる、まぁでも半導体と車では……、

山路:スマホ作るのとバイクではまたちょっと違うかもしれない、

小飼:いや、車です、スイフトです。

山路:国際ニュースがらみでもう一つ、けっこうでかいと思ったんだけれども、ぜんぜん日本で報道されないニュースなんですが。これ、さっき言ってたレバノン通貨暴落でレバノン暴動という、レバノンポンドというレバノンの通貨がめちゃめちゃ、80パーとか暴落したんでしたっけ、なんかそういうレベルで、

小飼:銀行が預金封鎖しちゃって、そりゃあ、

山路:するわなっていう、

小飼:それは暴動にもなるわなと。

山路:まあ大変なことになってますよということなんですけれども。

小飼:けれどもいかんせん、レバノンが小さすぎるんだよな。なんて言えばいいのかな、レバノンという国そのもののニュースバリューが薄い、いや、でも日本はわりと注目するネタがあるわけだよ、なんだってゴーンさんの国だしね。

山路:まぁいまさら彼が何をどうできるっていうわけでもなさそうではありますけど(笑)、

小飼:でもやっぱり国の大きさとかっていうのは違うんだよね、こないだの地震でもさ、トルコだけではなくてシリアにもすごい被害が出てるわけじゃない。しかも被害が出たところに爆撃したとかさ、すごいニュースが入ってきてるわけじゃん。だけどシリアのニュースってほとんど入ってきてないもんね。

山路:報道が入れないですからね、なかなか簡単には。それにしても、本当レバノンって何と言いましょうか、みんなの関心が薄い国になっちゃいましたよね。いろいろ化学物質の爆発あったりとか、

小飼:肥料が爆発したの、硝アンが爆発したの。

山路:だけど大した扱いでもなく。今回の暴動もそんな率先してどこも取り上げるわけでもなく、これが世界経済にあんまり関わりが薄いと思われた国の悲しさよっていう感じなのかな。

小飼:まぁそうですね。

スタッフ:日本ではスシローの、スシペロでしたっけ、ああいうのが話題になってましたよね、ここのところは。

小飼:なにスシペロって、

スタッフ:なんかぺろぺろ舐めたりとかして、

小飼:ああ、いやいや、でもなんでここでその話が出てくるの?

スタッフ:っていうのが話題になってたなと、

小飼:いやいや、脈絡がわかんない、

スタッフ:すいません、国際情勢とかのニュースってあんまり、

山路:それはそうだよね、日本のニュースって異常に国際関係は少ない印象はありますよね、

小飼:そもそも国際関係のニュースが薄いところに持ってきて、ましてやレバノンという小国のニュースなんてほとんど流れないと。

山路:まぁそういう悲しさもあって、

小飼:人口500万だもんなぁ。

山路:やっぱり、結局レバノンって昔から、言ってみたら交易地というか、そういうような立場で栄えてきたところなわけですよね。資源とかがそんなにめぼしそうなものがあんまり、

小飼:だから人で成り立ってたわけですよ。ゴーンさんのような、良くも悪くもできる人も輩出してたわけですよね。

「ゴーンさん無事かな」(コメント)

山路:高級住宅街でボディガードも付いてるから、すぐに死ぬことはないんじゃないですか。

小飼:まぁよろしくやってるでしょう。支援するからゴーンさんの身柄引き渡せとかっていう、そういう交渉の持っていき方だってあるんだけどね。

「H3と北朝鮮ミサイル」解説と「軌道エレベーターと宇宙マイニング」

山路:そういう踏み込んだことをできるかな、日本の外交筋というのは(笑)、どうなんでしょうね。じゃ、ちょっとこのタイトルにもなってたH3の話、いっときますか。

小飼:ああ。

山路:H3ロケットですよね。

小飼:いきなり「だいち3号」を乗せてたのに、そこが一番びっくりしたんですけど、僕は。

山路:つまり初号機なのに、大事な実験装置、相当しかもお高いやつを、

小飼:普通初号機って、ペイロードはダミーとかを、おもちゃとかぬいぐるみとか、まあスターマンとかそういったものを載せるんですけどね。

山路:スターマンってなんですか?

小飼:スターマンってファルコンヘビーのペイロードで、ロードスターに宇宙服を着せた人形がいて、その人形にスターマンという名前がついたと。ファルコンヘビーって、全部枯れたテクノロジーの集大成なわけですよね、新しい部分っていうのはロケットを束ねたというところだけで。3本とも普通のファルコン9をそのまま、ほぼそのまま踏襲してるんですけど、そういったものでもやっぱり初号機はダミーだと。

山路:しかしその初号機でいきなりすごいことやるのって、JAXAもネルフっぽいですよね(笑)、初号機でいきなり実戦投入でっていうのっていうのは。すごい大胆な話ですけれども。

小飼:いや、でも、H2とかのときにも、ダミーに近いペイロードだったというふうに記憶してますね。

山路:今回H3ロケット、特に社会面的に話題になったのが記者会見で、共同通信の記者が非常に態度悪かったっていう、

小飼:まぁでも、全般的に日本は科学技術の取材をする人たちが失礼なことが多いですよね(笑)。

山路:よくわからないことを専門家に素直に聞けない人たちが多いような印象もあるんですけど(笑)、

小飼:というのか、ちゃんと予習してるのかっていつも思う。そんな、いきなりJAXAで働けとかそういうわけじゃないじゃないですか。いい解説書もいっぱい出てるじゃないですか。インタビュアーが全員山根一眞のレベルまで予習しろとは言わないけれども。

山路:『「メタルカラー」の時代』の方ですね。

小飼:山根さんとか、あるいは耄碌する前の立花隆とか(笑)、そのレベルまで予習しろとは言わないけれども。

山路:私もエコの話とか、そういう超伝導とかで研究所に取材する前にちょっと予習して行ったら、すごい嬉しがられましたよ(笑)、ちゃんと予習してきてくれる人がいる! みたいな、そんなたいしたことやってないんですけど、

小飼:かわいそうなぐらい喜ばれますよね、ちょっと予習していくだけで。

山路:本当に新聞社の人大丈夫かいっていうのは、その時からちょっと思ってましたけど。今回、まあいろいろ共同通信の記者が、これは失敗だと決めつけて、ネットなんかであれは「うまく中止した」というふうに言うべきだろうというふうになってるんですけど、

小飼:たとえば飛行機が天候悪化で欠航したら、それはそのフライト失敗とは言わないですよね。たとえば、この季節だと羽田新千歳便とかっていうのは新千歳の天候が悪化すると、羽田まで戻ってきちゃったりするんですけど、これもあんま失敗とは言いませんよね、中止とは言いますけれど。

山路:(笑)

小飼:ただこれ、だいち3号の立場から見ると、そもそも延期されて、延期されて、やっと打ち上げるっていうときに中止されちゃったというのは、だいち3号のとか関係者の人であれば、「今回のミッションは失敗だった」と言う権利があるんじゃないかなとは思いますね。ただそのだいち3号も、じゃあだいち3号って誰のものかって言ったら、JAXAのものなんですよね(笑)。

山路:ああ、なるほど。

小飼:だから本番ではあるんだけれども、持ち主が同じだっていうのも、いきなり最初から打ち上げるっていう理由の一つだったのかなと。これが同じ国がらみでも、偵察衛星じゃなかった、情報収集衛星とかだったら、さすがにいきなり打ち上げたりはしないだろうけど。でも、今後は情報収集衛星とかもH3でもう打ち上げることが決まってるわけですよね。上手くいってくれないと困るという。

山路:これ、JAXAのものだからだいち打ち上げたんじゃないかっていう、ようは損害賠償の額的なことなんですかね、

小飼:損害賠償の額的なことだけではなくて、対外的なレピュテーションの問題とかっていうのもあると思います。要はうちうちだけで済むわけです。荷主に土下座しに行かなくていいわけですよ、身内なので。

山路:なるほどなるほど。それはわかりやすいですね。

小飼:でも、それでもなおいきなりだいち3号のような重要なペイロードを打ち上げるっていうの。

山路:これって、H3、けっこう低コストにして、これからバンバン打ち上げて日本の宇宙開発ビジネス盛んにしようみたいなこと言われてますけど、そもそもスペースXなんかと比べて、打ち上げてる数がぜんぜん違うじゃないですか。

小飼:スペースXの打ち上げぺースっていうのは、もうこれは日本とかがダメというのではなくて、スペースXが凄すぎるんですよね。
 まずもって射場を複数持ってるじゃないですか。打ち上げをケープカナベラルだけではなくて、ヴァンデンバーグでも打ち上げてるし、アメリカの西でも東でも打ち上げてるわけですよね。打ち上げる箇所が複数あるっていうのも大きいですし。それで再利用をしてるので、在庫しておかなければいけないロケットっていうのをずっと少なく済みますよね。何よりも需要です。スペースXみたいにバンバン打ち上げても、打ち上げる対象がペイロードがなければ、ペイしないですよね。でも、スペースXってそれもスターリンクで、自前でやってるわけじゃないですか。だから、はっきり言って真似できないというのか。

山路:スターリンクなんて、通信料金というか、値下げしてますもんね、最近。自前でやってるからこそできることでは、

小飼:自前やってるからだけではないと思いますけどね。ちなみにスペースXは非公開企業なので、財務状況がどうなってるのかというのは完全にはわからないですね。

山路:これ、しかしこの1回打ち上げやろうとするたびに、失敗だ中止だみたいな大騒ぎになって、また今度いつ打ち上げるのかっていうのもまだ決まってないから、

小飼:でも3月10日までには打ち上げなおすっていうのは、わりとすぐ出ましたね。

山路:ただ、本当に遅々として、という感じですよね、進み方が。

小飼:まぁでもないと思いますよ。なんだかんだ言って、年4回ぐらいは打ち上げられるようになりましたし、種子島。実際に打ち上げるようになりましたし。よくあるのは、もうファルコンとかあるし、ファルコンどころか、アリアンにもかなわないのに日本で自前でやる意味があるのかって。プラクティカルな理由というのは、少なくとも一つありますね。情報収集衛星。もう立派なミリテクなんですよ。これはこの部分っていうのはちょっと人まかせにできないでしょう。

山路:競争力があるコストにできなかったとしても、

小飼:そういうことです、

山路:やっとく意義はあるという、

小飼:自前で打ち上げる意義というのはあるわけですよね。

山路:これ、JAXAにはちゃんと予算が付いているんですかね。

小飼:いや、日本の不思議だったところというのは、これだけの規模の宇宙開発というのを一国だけでやってるというのはわりと珍しいかな。

山路:あー、そうなんですか。

小飼:ヨーロッパはESAでまとまったじゃないですか。Brexitしたイギリスもメンバーです。

山路:そうですね。

小飼:Brexitしたイギリスも、自前の宇宙開発というのをやめちゃった理由というのはESAができたから。フランスもそうですよね。

山路:UAEとかはなんか最近、いろいろやり始めましたね。

小飼:まぁそうですね。でもそれも、それぞれの国に打ち上げてもらってという感じで、ちゃんと自前のローンチヴィークルを持ってて、人工衛星だけではなくて、人工惑星の打ち上げまでやってっていうのは、なかなか。しかもこの低予算で。

山路:(笑)、

小飼:にもかかわらず日本って、かつてはロケットを打ち上げる組織というのが2つあったんですよね。ISASとNASDA、学術系と商業系と、

山路:通産省か、

小飼:2本あったんですよ。JAXAが出た時に一本にまとめたんですよね。でも、それまで2つやってたというのがけっこうすごくて。じつは日本はもう1つ、イプシロンロケットという、

山路:それはまた別文脈なんですか、

小飼:今、JAXAなんですけど、系統としてはISASですね。打ち上げも種子島ではなくて内之浦、鹿児島県の、そうか、種子島も鹿児島県になるのか。でもまぁ九州本島という事で。イプシロンロケットだったら、中止はあり得なかった、全固体ロケットなので火点けちゃったらもう止められないの。

山路:全固体ロケットの、途中だけポコンと切り離して止めるみたいなこともできない?

小飼:できない。一度火つけちゃったら、もう噴射方向とかは変えられるんですけども、

山路:打ち上げるしかない?

小飼:そう、打ち上げるしかない。

山路:打ち上げられなかったら、地上で大爆発みたいな、

小飼:あるいはもう、途中で爆破命令を出すか。

山路:ああそうか、打ち上げて爆破したらいいのか、

小飼:けっこう、去年6号機が失敗してるんですね、それはもう本当に失敗。

山路:全固体ロケットって、最近北朝鮮のミサイルなんかでも話題になってますけど、あれ、どういうメリットがあるんですか? そんな危険性があるもの、

小飼:すぐ打ち上げられる。液体燃料ロケットというのは燃料、詰めなければいけない。ましてや、日本のH2とかH3の場合というのは液体水素なので、本当に発射の寸前まで詰め詰めしなきゃいけないんですね、燃料を。固体燃料というのは兵器にはうってつけで、ミサイルはなるべく固体ロケットを使ってます。あるいは巡航ミサイルみたいにジェットエンジンの場合もありますけれども。兵器にするなら固体ロケットです。

山路:どっちみち爆発させるんですもんね、

小飼:イプシロンロケットというのはICBMのコンフィギュレーションに一番近い、

山路:え、イプシロンロケットは、日本の? これは何のために全固体なんですかね、

小飼:ミューロケットの頃から、ISASの系統というのは全固体でずっと来たんですよ。最初におおすみを打ち上げたのも、全固体。

山路:ちょっとひねくれた見方かもしれないですけど、軍事転用みたいなことも視野に入れてたりはするんですか?