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8月17日&18日に開催されるDDT両国国技館大会。初日の17日大会で
南海キャンディーズ山里亮太さんが総合司会を務めることが発表されました。ここでは『Dropkick Vol.7』で実現した山ちゃんと男色ディーノ対談を数回に分けて再録いたします。なお、最新号『Dropkick vol.9』では男色ディーノとリットン調査団・藤原さんの対談を掲載中です。


山里 いやあ、どうもどうも。先日の『スタモン』はありがとうございました。
男色 こちらこそ面白かったわよ。
山里 あの番組でのディーノさんの活躍があまりにも素晴らしいからプロレスに興味を持っちゃって。
男色 あら、そうなの? ワタシ自身にもっと興味を持ちなさいよ!
山里 (無視して)それで放送作家の方から『マッスル』のDVDを借りて観始めたらこれが面白くて面白くて。言い方が間違ってたらファンの方に申し訳ないですけど、三谷幸喜の映画や舞台を観るような面白さで。
男色 ああ、なるほど。面白さの取り出し方はけっこう似てるかもしれないわね。
山里 夜遅くに「一試合だけ」と観始めたら、俺の考えていたプロレスとはだいぶ違くて……。とりあえず試合の前振りだけで40分以上もあるじゃないですか。
男色 試合すら始まらないわね(笑)。
山里 結局、朝の4時半まで観ちゃいました(笑)。いまからプロレスを勉強する遅咲きなボクですけど、『マッスル』って“逆算のプロレス”ですよね。『マッスル』のあとに普通のプロレスを観て思ったのは「『マッスル』からいろんなものをそぎ落としていったら、このかたちになるんだ」って。
男色 そのとおりね。
山里 それをプロレス好きの(博多)大吉さんが心配してて「山ちゃん、『マッスル』からデビューしちゃったかあ……」「え、ダメなんですか?」「いやあ、『マッスル』は確かに面白いんだけど。う〜ん、『マッスル』からプロレスを見始めると、いろいろと思うことがあるんじゃないかって」って。
男色 いや、それは大吉さんが心配するとおり、プロレスに“思うところ”は多くなると思うのよ。
山里 でも、みんなズルイですよ!!
男色 ど、どうしたのよ、いきなり。
山里 いやあね、プロレスファンって小さい頃から“演出する”ってことをプロレスを観ながらずっと教わってきてるわけですよ。“プロデューサー”としての英才教育を受けてきているんです。
男色 それは同感だわ。
山里 だから子どもの頃からのプロレス好きってみんな面白い人ばっかですよ。しかも自分一人だけ面白いんじゃなくて、他人を面白くする能力が培われてるんです。でもそれは子供の頃には気づいてなくて「うわ、プロレスすげえ!」って本気で感動しているうちにいつのまにか身についている。プロレスを観てなかったボクはそこにコンプレックスを感じるんですよ。だから「スタート地点が違うよ! ズルイよ」って(笑)。
男色 たしかにそれは“お笑い大リーグ養成ギプス”を付けてるようなもんよねぇ。
山里 『マッスル』を観て思ったのは、番組の打ち上げでコバさん(ケンドーコバヤシ)やバッファロー(吾郎)さん、RGさんが凄い楽しそうにプロレスの話をしてるときの感覚がわかるようになったことですね。
男色 「あの感覚はこれだったのか!?」っていう(笑)。
山里 俺はプロレス知らなかったから、その輪に入りようがなかったんですよ。ウチの兄ちゃんはキックボクシングやってた悪い病気で「プロレスなんか八百長だ!」って。それで「これがヴォルク・ハンだ!」とか言いながら俺に関節技をかけ続けていたっていう。
男色 悪い意味の「プロレスごっこ」ね(笑)。
山里 俺は関節で傷めつけられながら心の中で「誰だよ、ヴォルク・ハンって。余計なことしやがって!!」と恨みの言葉を吐いてて。ヴォルク・ハンは悪の権化だと思ってた(笑)。
男色 なるほどね。山ちゃんは子供の頃にプロレス好きになるきっかけはなかったというわけね。
山里 もっと早く出会いたかったですよ。プロレスを見るとお笑いの勉強になるというか、方向は一緒な気がするんですよね。たとえば伏線を引いて回収するということにしてもそうだし。プロレスの何が素晴らしいって、先人たちが何十年にもわたって伏線を引いてくれてることですよ。
男色 『マッスル』はその伏線を回収する面白さがあったわけよね。
山里 そうそう、だから『マッスル』から観たことで2倍、得してるんですよ。大吉さんは心配してますけど(笑)。プロレスってその伏線を前提にしたうえで面白がれるところもあるから、ボクが途中から入るものじゃないと思って壁を作っちゃったんです。ボクからすると、プロレス好きって六法全書みたいな法律を覚えてるみたいな感じで「よくわかんねえ。俺は六法全書は読まねえし」と思って横を向いてたんですけど。それが『マッスル』で池上彰が解説するがごとくプロレスの見方を優しく教えてくれましたね。
男色 でもね、ワタシはそこに『マッスル』の功罪があると思ってて。プロレスって基本的には歴史を踏まえたうえでのボケだと思うのよ。出演者はみんなボケてるの。そしてそれに観客がツッコミを入れている。ただ、『マッスル』に関しては出し物としてボケとツッコミを両方を出しちゃったのよ。だからそれはたしかにわかりやすいんですよね。
山里 あ、そっかあ。うんうん。
男色 だから「そのツッコミが必要なのか?」って部分が功罪の部分なのよ。本来、客がツッコむという図式であったものを全部まとめちゃったっていう。たしかに意味を求めたときに答えがちゃんと用意されてるという意味では演劇っぽいのよ、実際。
山里 そうですよね。ボクみたいなプロレスを知らない人間がプロレスでコントを書けって言われたら、たぶん“いじる”って域を超えないですよ。でも『マッスル』は伏線の拾い方、派生のさせ方が段違いなんですよね。笑いの厚さが全然違うというか。
男色 そこはマッスル坂井がもともと映像畑の人だからかもしれないわ。彼がなんでプロレスをやり始めたかっていったら「プロレスラーは外部の人のことを聞かない」と。こっちが撮りたい絵があるのに外部の人間が「こうやってくれ」と言ってもオーケーしてくれない。じゃあ同僚になればの言うことを聞いてくれると考えてプロレスラーになったのよ。
山里 へえ〜。
男色 だからその“厚み”というのも、プロレス業界の中に入ってしまえばそれは成立しちゃうものではあるのよね。
山里 なるほど、なるほど。あの〜、ボクってプロレス好きになれますかね?
男色 もう充分よ(笑)。
山里 いやあ、ちゃんとしてないヤツってプロレスファンは大嫌いじゃないですか。それはアイドル好きもそうなんですけど、いまから「DDTっていう凄いプロレス団体があるんですよ!」って言った瞬間に、プロレス好きなヤツは「ニワカが来やがったな!」って言われるんじゃないかって。
男色 あら、そんなムードを感じるの?
山里 やっぱりプロレスとアイドルはファンの愛が強く感じますよ。ただ、その審査をくぐり抜けたときの優しさも尋常じゃない。
男色 壁を超えたときの村意識ね。
山里 オーディションは厳しいけど、オーディションを通過したあとの優しさ!
男色 日本の大学みたいなもんよね(笑)。
山里 たとえば俺はももクロのファンにはもうかなり甘やかされるじゃないですか。でも、そこは分母の差もあると思うんですけど、AKBファンの人たちは、基本的にはボクは殺したい存在ナンバーワンですから。
男色 アイドルでもそれくらい違いがあるわけね(笑)。
山里 ももクロって、ブレーンがもうプロレス大好きだから、それこそお客さんもプロレス的に一緒にステージを作ろうとしてくれて、ボクがももクロちゃんライブの前説で登場したときのリアクションもショーアップされてるんですよね。ブーイングを浴びてるヒールがこれを言ったらダメだと思うんですけど。
男色 つまり様式美としてのブーイングね。
山里 ボクがそのブーイングを止めるためにいつも土下座するんですけど。その土下座をきっかけに観客は一気に拍手するんですよ。そのときに「ああ、俺はももクロのファンの中に入れてもらえてるんだ」って。もしくは前説としてももクロちゃんにパワーを届けられたかなっていう満足感があって。
男色 そこは何かを作り上げていくカタルシスみたいなものがあるじゃないですか。それがないとプロレスも続けられないですね、ワタシも。
山里 それに対しての世の中のプロレスの評価がいまいち高くないんですよね。
男色 どうなんだろ。なんでですかね。ワタシは当然凄く面白いと思ってやってるつもりなんだけど。
山里 世の中ね、そうやって作り上げて演出するものに対しての価値を凄く軽んじてる。「ガチンコでしょ、そこは〜?」みたいなことをお笑いでもなんでもよく軽く言われるんだけど、極端な話、「いやいやいや、ガチンコなんか簡単だよ!」って。
男色 ホントそうよ!
山里 頭の狂ったヤツが変なこと言ってりゃ、それが一番面白い。ネットでもそうじゃないですか。規制が緩いから誰にも怒られないし、そういう変なヤツを観ているのはある意味で楽しいけど。
男色 でもそれは“ショック映像の切り売り”的になっちゃってるところはあるわよね。
山里 そうじゃなくて、練り上げて作り上げるものを楽しもうとする脳みそがあまりにもなくなってきちゃって。そこの善し悪しはあると思うよ。規制なんかなくやる人たちの凄さもあるけど。でも、その人が“優”で、規制の中で描いたものを演じたりすることが“劣”なのかっていったらそうじゃない。そういう見方に関してもあまりにもどうでもよくなくなってきすぎてないか。そこはどうなんだろうな?ってボクは思うんですよ。

次回へ続く……