戸井田 ちょっとやられてるんでね、最近ね。
大沢 もっとトリッキーにやりゃあいいんじゃないの?
戸井田 最初の頃はトリッキーに動いていたんですよ。そこから普通に打撃をやるようになって、普通のMMAの闘い方になってますよ。
川尻 いまはしっかり上を取って勝負するようになりましたよね。
戸井田 そういう感じだったんだけど、そこは普通にやるんじゃなくて、一本を取ることをもっと考えようと思ってね。昔みたいに。
大沢 自分の特性をよく知って、自分の長所を活かしたスタイルにしていくという。
川尻 やっぱり打撃はセンスじゃないですか。自分もそのセンスがないって思いますもん。だから試合で打撃でも渡り合えるようにしっかりやるけど、それを主力の武器にするべきじゃないなって。現に打ち合うときは戦績が良くないし。
大沢 だから現在のMMAは上を取ることが必須みたいになっていますけど、それもまた向き不向きで自分で考えなきゃいけないって感じなのかな。
戸井田 そこはしっかり向き合わないとね。上を取ることだけ意識しているとなかなか難しいから、菊野(克紀)戦の北岡くんみたいに潜ってスイープしてもいいわけだし。
川尻 そうですね。若いときなんか、とりあえずかっこよく勝ちたいだけしか考えてなかったじゃないですか。そうなると殴りあうしかないし、グラウンドならパウンドを期待されるけど、いまグラウンドで殴れなくないですか?
戸井田 無理だよね。殴ったらすぐ立たれるから。
川尻 そうなんですよ。強く殴るためにはスペースが必要で、そのスペースを作るといまの選手はみんな立ってくるじゃないですか。そうなると固めてコツコツ殴るしかないですよね。
戸井田 「殴る」って崩すための技術だよね。相手を動かしたいときは使うけど、ダメージを与えるのはなかなかもう……。倒れたところを追い打ちでKOとかあるけど。
大沢 でも、昔は「立つ」っていう発想がなかったでしょ。寝技になったら寝技をやるって発想。
川尻 パウンド自体も昔はなかったですね。慧舟會のA3ジムに出稽古に行かしてもらってたとき、寝技じゃみんな凄く強くて、ボクはまったく敵わなかったですけど。パウンドありで寝技をやると逆なんですよ。もうバンバン殴ることができて。ボクがパウンドありきの寝技をずっとやってきた差なんでしょうけど。
戸井田 当時の慧舟會はヒザ立ちの寝技練習しかしてなかったからね。
川尻 しばらくしたらパウンドありの寝技も対応してきましたけど。そんな中でも井上カレリン(井上克也)さんはあの頃から下になったらすぐ立つことを意識してましたよね。
大沢 ノッチ(井上のあだ名)はそういう発想が昔からあった。だからそうやって技術は進化していくし、いまの「立つ」じゃないけど流行の技術みたいものもあるよね。俺、いま壁際に立たせてからの練習をよくやってるんですけど、それも岡見がソネンのところで教わって慧舟會のプロ練に取り入れて。岡見が言うには「ソネンはクリンチアッパーだけでも相当の種類を持ってるんですよ」と言ってて。あと岡見と一緒にクエストに行った磯野(元)さんが言うには、日本と同じく向こうも基本的にスパーリングが多いんですけど、ソネンは相当の数の打ち込みもやってるっていうんですよね。
――打ち込みっていうのは技の反復練習ですね。
大沢 はい。日本っていつもスパーリングばっかだから、いつもだいたい自分の形になるわけですよ。そうすると全然知らない相手と寝技をやったときに対応がしずらい。たとえばボクが川尻くんとスパーすると「川尻くんはヒールねえだろ」って感じでやるでしょ。
川尻 まあヒールはないですよね(笑)。
大沢 それだと試合になったときにどこまでヒールに対応していいかわからなくなるんだよね。自分が知ってる、知らない、相手ができるできないじゃなくて、いろんな技をとりあえず体感としておけば、実戦でどこまで過敏に反応しなくちゃいけないのかがわかるようになる。ソネンはオモプラッタなんて試合で絶対に使わないのに打ち込み練習をしてるみたいなんですよ。
川尻 使わないものを知っとくって大事ですよね。
――やっぱり国によって練習スタイルの違いだったりとかあるんですか?
大沢 日本人は細かく考えられる強みはすげえあると思うんですよ。海外の連中は手首の向きがどうとかは細かく考えてない。だから日本人選手の技術の精度は高いです。だけど自分の得意なところばっか走っているから、 ちょっと道をそれた瞬間にパニックになると思うんですよね。
川尻 そういう人、けっこういますよね。自分の得意パターンでしか闘えない。ボクは出稽古や普段のスパーでも、相手の攻撃を潰さないようにして受けたうえで返すようにしてるんです。受ける前に潰しちゃうと、もし試合で潰せなかったときに危険じゃないですか。
川尻 で、そのうえで上回れるような練習をしといて。試合になったらもう相手のパターンにさせずに全部、潰していくようにするんですけど、けっこう逆の人いますよね。練習では相手の得意なところを完封するけど、試合になったらほかのところから崩されて思うように力を発揮できないみたいな。
戸井田 たとえば「三角締め」とか、向こうが知ってる技でオレが滅多に使わなそうな技を指定するんです。オレはそれが不得意だけども、なんとか極めようとする。
川尻 職人系、多くないですか、日本のMMAの強い選手って。突き詰める人が多いですよね。
大沢 で、アメリカはとにかく目的地までどうやって近づくかみたいな感じだよね。タックルで倒れなかったら「もういいや!!」って次に進む。
戸井田 切り替えが早いんですよ。いい意味で考えてないんじゃないの。
戸井田 あと日本人は打撃、レスリング、寝技って分けて考えちゃってるけど、向こうは分けないでしょ?
大沢 分けない。それでオレが思ったのが、ブラジルって全部、分けたうえでどれも凄くない?
川尻 ああ、そうかもしれないですね。
大沢 うん、一個一個を凄くしっかりやっているって感じかな。柔術家で打撃がヘタだったヤツも、時間が経ってくるとすげえきれいな打撃になっていくんですよ。
川尻 ビビアーノ(・フェルナンデス)も打撃がうまくなってますよね。
大沢 日本人は得意なパターンを磨いて磨いて、そこにハマったら強いけど、ちょっとでもパターンから逸れると無理みたいな。いま日本人はそんなに成績を残してないからあんまりいスタイルではないような気がしますね。もうちょい幅を広げていかないとダメなのかなって。
戸井田 日本人選手のフィジカルはどうなんだろうな。
――格闘技ってホント“頭脳労働”ですね。
大沢 いやホント考え方ですよ。ボクの打撃は、間合いの詰め方をパンチっぽく見えるようにするんですよ(笑)。そうするとボクが間合いを詰めただけでパンチへの対応をせざるを得ないくなる。それをちょっと早く反応させたりとか、いろいろ混乱させるような動きを入れるんですよ
川尻 大沢さんとスパーすればわかりますよ(笑)。大沢さんに動かされてるようになりますよね。
大沢 そうそう。みんな最初の1分ぐらいは冷静なんですけど、だんだんちょっとずつハマっていくんですよ。
川尻 ハハハハハ。
大沢 だって完全に試合をコントロールしてるのに試合後「なんでこいつはそんなに落ち込んでないんだ?」みたいなときがあるんですよ。
大沢 そう! ボクはけっこうスプリット判定が多くて「え、負けてんだ!?」みたいな。吉郎や大塚戦のときも自分ではもう ちょっと攻められるんですけど、いまの状況だと完全にコントロールできているからリスクを背負いたくなくなってくるんで すよ。
大沢 それでいつも試合が終わったあとに「もっと行かないとダメだ」って思うんですよね。それをもう何回も繰り返してるんですもん。っていうことは直んないっていうことだね(笑)。
戸井田 取れる。そこはグラップリングと違うんですよ。グラップリングはガツガツ行くと取れちゃうんですよ。でも総合の場合は相手の動きを待った結果として取れるんですよ。それがわかるようになったのが、やっぱり30過ぎてからですね。
戸井田 大沢のやっていることは全然伝わらないですよね(笑)。川尻くんのテイクダウンして抑え込んでることも、相当凄いことをやっているんですけどね。
大沢 うん。
戸井田 それってボクシングでいえばなんだろうね。
戸井田 五味みたいにわかりやすい選手だよね。
川尻 オレも(笑)。やっぱりかっこいいファイターになりたいじゃないですか。気持ちよく勝ちたいっていうか、打撃ってとくにすっきりしやすいですもん。
大沢 時々スペシウム光線をバンバン出せるヤツがいるんですよ。理想と現実が合致する選手。それはもうね、持って生まれたものだからホントに羨ましい人ですよね。
戸井田 いっとき五味。いまだとアンデウソンじゃないの。結果としてそこの境地にいったんだろうね。「こうやったほうがKOしちゃえるしラクじゃねえか」ってやってるうちに。
――練習のアンデウソン(笑)。
川尻 ハハハハハハ! でもアンデウソンの動きってスパーみたいですよね。プロと一般の会員さんがやってるような感じ。それをなんであのレベルでできるのか。
川尻 違う選手と闘ってるようなもんですよね。
大沢 そう。1試合のなかでいろんな選手とやってるような感じにさせられる。
川尻 5Rだからできるというのもありますよね。アンデウソンって1Rと2Rは別人じゃないですか。アンデウソンって最初の1Rは相手との間合いを探るっていうか、そこまで全力でやらない。
大 沢 岡見が言うには、アンデウソンがステップを刻み始めたら手が付けられないって。その前に勝負しないと。ステップが始まったら「動きを見切られた!」みたいな(笑)。
戸井田 今回のソネン戦も2ラウンドでしょ。最後はソネンがバックブローを失敗してボディへのヒザが凄い効いちゃったんだろうけど、もう心が折れた感じだよな。効いた感じじゃなくて。
大沢 チェールの心を折るって、ハンパじゃないですよ。
戸井田 あそこでヒザを出す必要がないじゃん。反則のリスクがあるわけだから。普通だったらパンチだよね。
川尻 相手はパンチを意識してるけど、ヒザは意識してなかったから余計に効いたんですよね。
大沢 アンデウソンはパターンに癖がないよね。ああいう選手になれたらね。楽しくてしょうがないんじゃない?(笑)。
戸井田 しかし、どんな練習してるんだろう。どうなったらああなるの?
川尻 ミット打ちを見たら、けっこう普通ですよね。
戸井田 ブラジル人って、普通のミットだよね。
大沢 あれは技術的な練習より、メンタリティというか、ものの見方から生まれたんじゃないかな。サッカーでも「日常の練習でそんなことやる?」みたいなプレイをやったりするじゃないですか。ギリギリの状態で日本人がやらないようなトリックプレー。そういうことをやれる文化なんじゃないですかね。
川尻 ブラジル人に生まれないとダメなんですかね?(笑)。
大沢 でも、アンデウソンでも試合前は緊張してるから、おそらく最初から相手を飲んでないと思うん ですよ。勝てるか勝てないかわからないような状況のなかで、それを作りだせるメンタリティがあるんじゃないのかな。それを教えてほしいですよね。アンデウ ソンだって、最初は絶対緊張しているはずですよ。だから最初は見ていくんだと思うんです。
戸井田 そして一気に追い込める。
大沢 たぶんね、アンデウソンはいい言葉を持ってるんですよね。その言葉を聞いて、それを常々思えばああいうふうになれるんじゃないのかなあ。劇的に性格を変えてくれるような言葉を。
川尻 スイッチを押せる言葉が。
大沢 でも、たいしたことない言葉だったらガッカリするよな。「なんか気づかせてくれよ!」みたいなね(笑)。